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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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お市の決意

 織田信忠は旗本五百とお市と共に武藤信之のところから500mほど後ろに陣を構えていた。後方に武田信豊軍三万がいるが少し離れている。前方は戦場だ。丹羽長秀からここを動かないようにキツく言われているが気が気ではない。前田利家が攻めて来ているのだ。利家は父である信長を裏切り父の死んだ戦にも出ていたという。ある男は利家が裏切ったから信長が死んだと言っていた。真偽は定かではないが、今、織田を攻めて来ているのだから同じことだ。


 子供の頃、槍の又左という呼び名で父が紹介してくれた利家は立派な武将に見えた。父は利家を犬千代とも呼んでいたが犬と猿は仲が悪いのでは?と侍女に聞くと、藤吉郎と利家は仲がいいと聞き不思議に思った事を思い出した。あの頃から二人とも織田の家臣の振りをしていたのだろう。そうとしか思えないと考えるとまた怒りが込み上げて来た。


「利家は許せん!」


 それを聞いたお市は


「信忠殿、気持ちはわかりますが今は」


「わかっております、叔母上。源三郎が引けと言ったら信豊殿のところまで下がります。利家を見逃す自分が情けないだけです」


「利家は私も憎い、ですがここは信豊殿のご指示に従わねばなりません。織田は武田の下でなければ生き残れないのですよ。ここで貴方が飛び出してしまっては敵の思う壺です。貴方の首は秀吉にとって価値があるのですから」


 秀吉、利家からすれば織田の家はさっさと滅んでくれるのがいい。その方が気が楽なのだ。かつての主君の家柄は何かと面倒臭い。お市は織田を俯瞰して見れる立場なのでそれを良く理解しているが、信忠はヘコヘコしてた奴らが向かって来ているのが気に入らない。だが、我慢しているのは今まで何度も信豊に助けられたからだ。その助けが無かったらもうとっくに織田は滅んでいる。


 そのとき物見から想定外の報告があった。


「申し上げます。山伝いに別部隊がこちらに向かっております。その数二千」


 なんだと!ここには五百の兵しかいない。伏兵が潜んでいる報告はあった。だがそれは前方の軍と信豊を狙っていたはずだ。


「申し上げます。丹羽長秀様の部隊が側面の敵を排除し、前田攻めに加わりました」


 いい知らせと悪い知らせが同時に来た。引くか、出るか。ここで動かないのは死を意味する。お市を見ると頷いている。


「信豊殿に伝言を、敵を迎え討ちつつ下がると」


 前へ出れば丹羽長秀達のところへ敵兵ごと連れて行くことになる。利家の顔が一瞬浮かんだが掻き消し、戦いながら下がる事を選択した。お市はそれでいい、という顔をしている。


 そこに敵兵が駆けてくる。それを鉄砲が迎え撃つが数は多くない。幸い敵の方向の道は狭く二千の敵が一気に攻めてくることができなかったため信忠は下がることができた。鉄砲隊が壊滅し、長槍隊が応戦し始めた頃、敵は狭い道を抜けてどんどん数が増えていった。信忠は護衛の兵五十とともに下がるしかなかった。信忠とお市は馬に乗り護衛が離れない程度の速度で武田信豊の方へ進んでいたが、


「ウォーーーーーー!」


「山の斜面を転がるように敵の伏兵が攻撃して来た。殿をお護りしろ!」


 旗本の叫び声と共に護衛の兵は迎え撃つがそこを山の斜面から矢が飛んできて信忠の旗本を一人づつ仕留めている。お市は銃を取り出して弓を持っている忍びらしき男を狙う。


「ダーン、ダーン!」


 銃声が響き渡り矢を射っていた連中を倒した。お市は銃の練習を積んでいてそこそこの腕前になっている。矢が止まると旗本は盛り返し、敵兵をなんとか倒すことができた。信忠も何人か直接槍で倒さなければならないほどギリギリだった。そこに後方から武田信豊軍の先鋒が追いついた。その中に何故か信豊が混ざっていた。普通の兵の格好をしている。


「銃声が聞こえたがご無事で何より」


「叔母上がたすけてくれました。しかし信豊殿、その出立ちは?」


「後ろにいるのは影武者だよ。伏兵はわしを狙うだろうから喜兵衛と共に後からくる。上杉殿には別の役目をしてもらっている。利家が川を渡っているそうだ。ここで利家を討つことにした」


「最初に聞いた策と違うぞ。今まで我慢して来たのだぞ」


 信忠は口調を変えた。というより自然に変わったというべきか。


「状況が変わった。戦は水物。そういうこともあるということだ。お市殿、すまんがここからは乱戦になる。武田本陣まで下がってくれ」


 お市は首を横に振った。


「信豊殿、私は今日は勝頼の妻ではなく織田家の一員として戦場に出ております。信忠殿と進みます」


「そうですか。では護衛を付けさせていただきます。後で大屋形様にはそれがしが怒られましょう。おい、出てこい。時間がないからいつもの挨拶はいらん」


 後ろでも戦闘が始まったようだ。信豊の影武者を狙った伏兵の攻撃だ。信豊はそれを気にもせず前へと進んでいく。兵五千と共に。



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