乙作戦?
空馬だと思っていた馬に伏兵が潜んでいて大砲を撃つ砲撃手を殺してしまった。代わりの砲撃手を手配する間、大砲の音が止んだ。それは何かが起きた事を全軍に知らせることとなる。
「空馬作戦がうまくいったのか?我ながらいい策だ」
前田利長は槍を振り回しながら独り言を言う。父、利家は槍の又左と呼ばれていたそうだ。今はただの爺さんだが、利長はその血を受け継いでいる。旗本に護られながらも織田兵を斬り殺していく。
そして利家は、大砲の音が止むのを待っていた。兵の進軍を邪魔するものが無くなったのだ。いくら命令とはいえ砲弾が降っているところを進むのは兵の士気が落ちるし、命令する側も気持ちのいいものではない。
「後藤殿、其方はここに待機じゃ。わしは川を渡る」
後藤信尹はやれやれと思ったが、反対はできない。
「ご武運を」
「うむ、進めー!」
前田利家がいなくなるとすっと現れた者がいた。影猫だった。
「頼む」
それを聞くと影猫はスッと消えていった。うまくいかないものだ。できれば大阪城決戦は避けたいのだが、秀吉が外へ出て戦う場面をどうやって作るか?ここで利家が死んだらその後はどうなる?信尹は空を見上げた。
武藤信之はすぐに替わりの砲撃手を用意しようとしていた。この状況は想定外だが、砲撃手の交代要員はいつも準備している。大砲の音はうるさいので精度良く狙うには集中力がいる。そのため休み休み撃たないと身が保たないので交代要員は必須なのだ。この砲弾の音が止んだ事を敵がどう思うか?源三郎信之は脳を高速回転させている。そこに物見の報告がきた。
「敵軍、川を渡っておりまする」
「そうか、してやられたな。父上に伝言を頼む。それと信忠様にもだ。与助は居るか?」
すぐに与助が走ってきた。
「与助、殿に作戦乙を依頼してくれ。空馬とは油断した」
与助は何も答えずに後方の本陣へ走って行った。信之は前田軍の後続が川を渡り始めたと聞き、自分の考えが間違っていないと確信した。敵は大砲の音が止んだのを好機と見たはずだ。信之は砲撃を再開した。いつの間にか大砲が10砲門、中砲が10砲門に増えている。その砲弾は進んでくる前田利家の兵を蹴散らかした。射程距離が長い大砲は鉄球が兵を直接襲い、射程距離が短い中砲は敵の前方にマキビシを散布した。大砲を避けて進んだ兵はマキビシで足を止められ、そこを弾を鉄球に切り替えた中砲が襲った。
それでも現代の爆弾のような威力はない。だが足止めには十分だった。その間に側面の敵を撃破した丹羽長秀の部隊が前田利長軍に襲いかかり織田勢が優勢になった。丹羽長秀の部隊は疲れてはいたが、側面の敵を撃破した事でアドレナリンが出まくっているに。そのまま押し切るように見えたその時、後ろ側が騒がしくなった。武田信豊の本陣を狙っていた丹波勢が動かない武田本陣を諦めて、織田の本陣を狙って攻め込んできたのだ。山向こうを迂回してきた丹波勢は千名ほどだったが丹羽隊、滝川隊を動揺させるには十分だった。
「殿が危ない。だが今引けば総崩れだ」
滝川一益は動揺する兵に檄を飛ばし敵を追い返すべく前に出たが、丹羽長秀の部隊は一瞬気が抜けたのか急に動きが鈍くなった。武藤信之は、砲撃部隊を下がらせた。敵味方が入り乱れ始めたのだ。こうなると飛び道具は使えないし、近接戦闘になると砲撃手は弱い。信之は弓、ボーガン隊に下がりながら向かってくる敵の狙撃を指示してから自分の槍兵五百とともに丹羽長秀の援護に加わった。
与助は武田信豊のところへ辿り着いた。信豊は武藤喜兵衛と話し込んでいる。
「与助、どうした?信之の伝言か?」
「はい。乙作戦をお願いしますとの言伝でございます」
それを聞いた喜兵衛は、
「そうか、前田はなかなかの敵という事だ。源三郎が泣を入れてくるとは敵ながら大したものだ」
「喜兵衛。信之は勝つ気でいるようだが、それでいいのか?乙作戦は確かに勝てるがこのままでは………」
「源三郎めはうつけではござらん。幸村ではなく彼奴に家督を譲ったのはそれなりの理由がござる。その源三郎が言うのなら間違いなく好機。最初の策とは異なりますがこれも戦の風の流れ」
「元々乙作戦はわしが考えた勝つための策。近衛様とお主には悪いが負けないこととしよう。与助、上杉殿へ使者を、っとあれは影猫では?」
スッと影猫が現れた。
「殿、信尹様よりご伝言でございます。利家を止められず申し訳ない」
影猫は喜兵衛を殿と呼びます。
「そうか。わかった、戻れ」
源三郎と彼奴の話が合致した。利家が川を渡って来たら引くのが元々の策だが、乙作戦はここで迎え撃ち前田軍を蹴散らす策だ。ここは行くしかない。武田信豊が、指示を出した。
「織田軍に合流し前田を叩く、進めー!」
与助は上杉景勝の元へ走った。そしてこの時、織田信忠はピンチに陥っていた。




