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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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淀川

 前田利家は甥の利太と共に山崎へ向かって出陣した。加藤清正は何やら西の方で問題が起きたらしく廣島へ向かったそうだ。小早川隆景からの要請と聞いたが詳細は聞かされていない。小早川は秀吉の縁戚の者が継いだと聞くから何かあったのだろう。あの男は身内にだけは優しい。清正の代わりに立花宗茂が後藤信尹と共に同行している。


 利太は甥といっても利家より四歳年上で、元々は前田家を継ぐのは利太の父である利久だったのだが織田信長に可愛がられていた利家が鶴の一声で前田家を継ぐ事になった敬意がある。兄の利久はそれを気にせず利家に家督を譲ったが、利家も負い目があるのか本来家を継ぐ筈だった  利太には遠慮がちなところがある。五千石を与え城も持たせて上手く使おうとしているのだが、空回り気味だ。


 当の利太は元々前田家には養子で入っただけで滝川一益の一族の出ということもあり、全くそんな事は気にしてはいない。信長が利家を家主に指名した時にそれならばと家を明け渡した後、出奔しようとしたが利家の妻、まつに引き止められた。当時の利家は無鉄砲でがむしゃらに敵に突っ込んで武功を挙げていたが、それをまつは嬉しくもあり、不安でもあった。当時の利太は武に優れているが本人が武功で出世する気がなかったのでさほど目立ってはいなかったのだが、まつはそれをよく見ていたのだ。


「犬千代が死なないように助けてほしい」


 利太は女には優しかった。女に頼まれると仕方ないと思ってしまう。で、ずるずると前田家に残っていたのだが、出世欲がない利太は飯代分くらいは働いてあとはのんべんだらりと人生を楽しんでいた。そこまでは良かったのだが、よりによって利家は信長を裏切り秀吉についた。それまでは利家を別に嫌いではなかったのだが、流石に頭にきた。秀吉は信長に取り入って出世した男だ。利太とは考え方が全く違う。ああいう生き方もあるのだなと第三者として見ている間は良かったのだが、格下だった男にヘコヘコ仕えている利家、しかも娘まで差し出してだ。それに仕えている自分が情けなくなった。ならどうする?まつに頼まれはしたがもういいだろう。そう考えていたら出陣の命令がきた。


 そして大阪から山崎へ向かう道すがら利家がふと周りを見ると後ろにいた筈の利太がいない。


「利太はどうした?」


 周囲のいた家臣に聞くと、


「先程腹が痛いと言って列を離れましたが、そういえば遅いですな」


 腹が痛い?あの男が?珍しいこともあるものだとは思いながらあいつも人であったかと笑ってしまう。普段はのどかだが戦となると鬼神の如く暴れ回る彼奴も腹痛には勝てんのかと。


 ところがいつまで経っても帰ってこない。軍はもう目的地に到着するというのに。淀川の向こうは山崎だ。利家は淀川を挟んで軍が向かい合う形にするつもりだった。敵は八万、こちらは三万、兵の数では負けるがこの大軍がまともにぶつかる場所は難しい。それとここはこちらの領地内、山城、大和、近江の国衆はいつでも攻撃に参加できる。それに淀川を挟んだのは武田のおかしな武器対策でもある。陸を走る無人の爆弾、空を飛んでくる人、川を跨いで離れればそれらは仕えない。


 利家は立花宗茂と後藤信尹をよんだ。


「利太がいないのだが見かけなかったか?」


 立花宗茂は、利太の事をよく知っていた。武に優れる宗茂はいくさびとである武士を尊敬もし戦ってみたいとも思っている。ゆえにこの戦で前田利太の戦いぶりを見ることを楽しみにしている。


「利太殿がですか?あの目立つ朱槍をお持ちですからそのうち見つかるでしょう。それより前田様、陣形はどうされますか?」


 宗茂は目の前の戦さに集中しろと言っているのだ。利家はそれを感じ取り利太の事を忘れる事にした。


「後藤、どう思う?」


 後藤信尹は、


「敵は川を挟んで一里のところに陣を敷かずに滞在していると草からの報告がありました。ですが、何かあればすぐに臨戦態勢に入れる訓練がされているようです」


 利家は疑問に思った。なぜそんなことがわかる?信尹は、それを察したように


「武田、上杉は甘い敵ではありません。ただ待っているとは思えませんし、こちらが大阪を出た事も当然知っているでしょう」


 と言って、


「前田様にお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 と聞いてきた。利家は陣形はをどうするか聞いたのになんだ、と思いながらも今までの信尹の実績から意味があると思い許可した。すると信尹は、


「ここで勝ちますか?負けますか?」


 と聞いてきた。


「勝つに決まっておる。負け戦さになんの意味があろう。秀吉にわしが行くと言ったのだ。負けは許さん」


「承知しました。敵の大将は武田信豊、その首を持って勝ちとしますか?それとも敵軍を引かせれば勝ちとしますか?」


 利家は黙り込んだ。この男は何が言いたいのだ?今までもこの男には助けられた。あの清正が全面的に信頼している男だ。そうか、


「わかった。敵は八万、こちらは三万。敵を引かせればこちらの勝ちだ」


「わかりました。ここはこちらの領地、四方八方を国衆で囲み大決戦も覚悟しておりましたが犠牲も大きくなります。ご英断の通り対応いたしましょう」


 それは利家も考えていた。地の利はこっちにある。だがそれで負けたら、と決断できずにいたのだ。利家は清正に心の中で感謝した。いい男を寄越してくれた、と。





 

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