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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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必勝の策

 菊亭晴季は武田信虎の義理の息子に当たる。信豊は勝頼からその話を聞かされた時は本当に驚いた。信虎は信玄によって甲斐を追われてしまい、その後の話は家臣団にはあまり伝わっていなかったのだ。それは家臣の統率という面で重要だった。武田の頭領は信玄、そうする事で武田の家臣団はまとまっていたのだから。


「祖父が甲斐を出てからの事は我ら家臣団には噂程度の話しか伝わっておりません。今川が滅んだ後、京へ行ったとは聞いていましたがまさか、菊亭様と御縁があろうとは。あの爺さん、さすがは甲斐、いえ武田の虎です」


 信豊は信虎と一度だけ合った事がある。信豊が産まれた時にはすでに信玄が家督を継いでおり信虎は今川家の客人となっていた。父、信繁は信玄の命令で金子を定期的に運ぶ役目をしていてその時に一度同席したのだ。よく笑う爺さんという印象しか残ってはいない。


「信虎殿は関東の事に詳しく朝廷でのご活躍は素晴らしいものでした。武田は武家とはいえ元は清和源氏の流れと聞きます。朝廷ではさすがは武田と武田を贔屓にする公家も多いのですよ」


 上杉景勝は信豊の横に座って黙って聞いている。初めて聞く話ばかりだったが武田の強さを改めて思い知らされた感覚を持った。景勝は勝頼の強さ、怖さを知っている。知っていて武田に恭順しているのだが、武田は勝頼だけではないのだ。


「そうでしたか。近衛信尹様にご面会をお願いしておりましたのに菊亭様とお会いできるとは。近衛様のご配慮でしょうか?」


「左様でございます。近衛様は武田贔屓ゆえ。ただ最近の秀吉がバテレン禁止令を出した事から公家の多くが秀吉を支持しはじめました。無論金子もかなりの量が配られております」


「金子であればそれがしも勝頼の命でかなりばら撒いておりますが、そうですか。バテレン禁止令がそこまで響きましたか」


「公家は武田と豊臣、どっちが勝ってもいいのです。帝と京が安泰であれば。今の帝は秀吉の傀儡も同然ですが帝はそうはいっても国の安定を祈っておられます。大事なのは日の本の国を守る事、故にバテレンの活動を禁止した秀吉の人気が上がっているのです」


 雑談を続けていると近衛前久と信尹が部屋に入ってきた。


「武田信豊でございます。主人、武田勝頼より文を預かって参りました」


 勝頼からの手紙は何通もあった。信豊宛、武藤喜兵衛宛、上杉景勝宛、それに近衛信尹宛だ。おそらく信勝や徳にも連絡があっただろう。


 近衛信尹が話し始める。今の家主は元関白の信尹だ。


「信豊殿、お会いするのは初めてですね。日頃ご助力いただき感謝しております。勝頼殿からの文ですか。それをわざわざご持参されるとは」


 信豊の動きは監視されているだろう。近づく事はできなくてもどこの誰を訪ねたかは筒抜けになる。この京は今、加藤清正の管轄になっているが清正はここで仕掛けてくるような男ではない。それに京の守備を任されているのはあの後藤信尹だ。


「一度お目にかかりたいと思っておりました。今回の武田討伐令ですが、近衛様はどうお考えでしょうか?」


 近衛前久が答えた。


「帝は秀吉の力で帝になられた。前の帝はまだこれから子を多く作りその中で優れた者に帝を継がせようと考えておられたのだが、秀吉は武田を征夷大将軍に任じた事をよく思わず、強引に帝を交代させた。勝手な事をされるのが我慢できなかったのだろう。秀吉の振る舞いは狂気に満ちている。だが、それも計算づくのようにも受け取れる。三成を廃し武田を廃し、その後の世界を見ていてこそのバテレン禁止令であり武田討伐令だと私は思う」


「武田との共存は考えていないと?」


「そうだ。それはお主らも同じであろう。さて、勝頼殿からの文を拝見いたしてよろしいか?」


 信豊は頷いた。武田はいつから天下を夢見ていたのだろう。信玄公は甲斐から信濃を取るのに時間がかかりすぎた。上杉、北条、今川という強者が隣国にいたという不運もあった。天下を取るにも時間が足りなかった。それに比べて信長はあっという間に美濃を取り近江も取り上洛した。地の利があったとはいえ速かった。勝ちゃんは上手く立ち回って武田を将軍家にまでしたけれど、今ここにきて信虎爺さんが出てくる。信玄公が必死に信濃を攻めている頃信虎は隠居した爺さんだった。なのにその爺さんの縁でこの京に縁者までいる。どういうこっちゃ?


 前久は手紙を読んでから天を仰ぐように見てから信尹に文を渡した。信尹は必死に文を読んでいる。




 しばらくして前久が話しはじめた。


「さて、武田信豊殿、上杉景勝殿。武田が必ず勝つ方法はありますか?私は武田が勝つ方法はわかりませんが、武田が必ず負ける方法なら知っています」


 信豊が近衛前久を驚いた顔で見る。景勝は微動だにしない。前久はそれを見て続ける。


「お二人が豊臣に寝返ればいいのです。そうすれば秀吉が勝つでしょう」


 上杉景勝がついに声を上げた。


「なんと!」





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