実家訪問
最上義親、最上義光の次男だ。三雄の歴史では徳川家康のところへ出仕という名の人質になって気に入られ、家康の家をもらって家親と名乗るようになったこの男だが、この物語では家康ではなく武田家に出仕していた。二代将軍信勝の受けも良く、信勝の軍に同行するのかと思えば信勝命令で勝頼の軍にお忍び的に同行していた。信勝からは里帰りしてこいと言われていたが、本人はその余裕はないと思っていた。この東北ツアーは色々な事件が起こっていて勝頼の護衛であたふたしっぱなしだったのだ。
勝頼の護衛は特殊部隊ゼットや武田忍びが広範囲で実施しているので、実際は不安はないのだが近くで護衛している方は気が気ではない。
そして仙台に着いてしばらくした頃、突然勝頼に呼び出されたのだ。そして頼みがあると言って依頼された仕事は、父義光と兄義康を仙台まで連れてこいという物だった。
「佐藤、なぜ俺にわざわざ頼むのであろう?大屋形様なら文を出せばそれで済むのではないか?」
「お屋形様から里帰りの事を聞いておられたのでは?初めてお目にかかりましたが優しそうなお方でした」
義親のお供は鈴木と佐藤の2人だ。この2人は義親が子供の頃からの付き合いで気心が知れている。鈴木が、
「佐藤よ、その割には震えておったではないか?」
「おまえがそれをいうか。おまえこそ震えておったぞ。何より堂々と出羽に向かえるではありませんか。良きかな良きかな」
義親はこの2人の話を聞いて一瞬だけ気楽な気持ちになった。が、すぐになんか裏があるという直感を思い出し、
「気を引き締めていくぞ、大屋形様の依頼だ」
そう言って両頬を叩いてから出羽に向かった。この男、生まれながらに勘がいいのだった。
出羽の国 山形城、ここに最上義光がいる。城下に着くと懐かしい匂いがした。いつもの賑わい、いつもの雰囲気、だが何かが違う気がする。城へ入ると部屋で待たされた。
「まだでござるか?我らが来る事は殿に知らせているのに待たせすぎではありませんか?」
鈴木が不満そうに言う。義親は目を瞑って考え事をしているようで返事がない。鈴木と佐藤はぶつぶつ言い合っているが気にならないようだ。そこから半刻も待たされた後、目通りを許された。
部屋へ入ると上座には人がいない。部屋の中央に座ってさらに半刻待つ事になる。何があったのかわからないが、義親の勘がおかしいと言っている。義光が入ってきた時も何かを感じた。それが何かはわからない。
「父上、お久しゅうございます。義親、大屋形様の遣いとして参じました」
「うむ、駿河へ行って何年になる?」
「3年になりまする」
「もうそんなになるか。人質として武田に出した事、すまないと思っている」
予想外の言葉に目が潤んだ。こんな事を言う父ではなかった。歳をとったのだろうか。
「父上、お屋形様はとても素晴らしいお方で、某にも目をかけてくださいます。人質ではありますが待遇は良く、最上家のためにこれからも精進するのも所存です」
「本当にそうか?最上は武田と縁を結んではいない。伊達は勝頼の娘を娶った。上杉は勝頼の妹をだ。その差は明確。いずれ伊達に領地を取られるかもしれん」
「そのような事は!お屋形様が最上は武田に従う限り安泰だと申されておりました」
「口ではな。おそらくこの後、秀吉との戦になる。その時に我らは不利な役を命じられるであろう」
「そ、それは、当たり前では?そこで活躍すれば恩賞を得られましょう」
「お前は甘い、いい方ばかり考えていては駄目だ。そこで我らが滅べばどうなる?おそらく伊達は後ろを守り我らは先陣だ。普通の戦ならお前の言うようになるかもしれんが敵は大軍。簡単には勝てまい。勝ったとしても我らが生き残れるかはわからん」
「父上、戦はそういうものではありませんか?」
「武田にすがるしかない。だがすがっていても未来があるかはわからんということだ。秀吉が勝てばどうなる?」
「それは………、その時は死ぬまで戦って散りましょう」
「それで出羽の民は喜ぶか?」
何かおかしい。父上はこんな事を言うお方だったか?元々策略家で周辺の国衆と組んだり敵対したりしながら生き残ってきた父だが何かが違う気がする。
「父上、それがしは勝頼様からの使者として参りました。兄上と共に仙台までお越しくださいませ」
「わしに来いというのか?しかも仙台か。義姫が死んでから伊達とは交流はほとんど無くなった。小次郎とやらは最上のことなど忘れて武田の姫ばっかり愛でていると聞く。つまらぬことよ」
「父上。そうはいっても最上家を守るためには従わねば。それにそれがしは自分を武田の家臣と思っております。そのくらい待遇を良くしていただいているのです」
「甘い、お前は甘いのだ。まあいい、武田に逆らっては家が続かないのはわかっている。一両日中には仕度をして向かうと伝えよ」
「???それがしもお供いたします」
「ならぬ、武田の家臣と一緒に行く気はない」
義親はその後も説得したが同行を許してもらえず、先に仙台に戻る事にした。
「そうだ、兄上には会っていこう」




