なんでこうなった?
黒田官兵衛は船に乗るのは初めてではない。秀吉の九州攻めの時に兵と共に船で九州へ移動した経験があった。だが、その時の船とは全く違う船に乗り込んだ。
「船の名前はなんとかならんのか?小っ恥ずかしくて敵わん」
「殿が付けたので私にはどうにも?」
別所の顔は笑っている。以前乗ったのは兵を運ぶ輸送船だった。その時の船の何倍、いや何十倍も大きい鉄の船。見たことのない大きな砲門が3台づつ縦に3つもある。それはともかく船の名が官兵衛というのが気に入らない。まるでわしが乗る事が決まっていたかのようだ。
官兵衛の顔色を伺っていた別所治長は、小早川隆景の言っていた事が本当だと感じた。小早川隆景は、官兵衛に水軍を託したかったのだ。それしか武田海軍に勝つ方法はないと強く言っていて、別所に
「恐らく跡目は秀吉様の甥子になる。秀長様のように優秀なお方ならいいのだが、噂に聞くと戦の経験のない、才があるかはっきりしない若者のようだ。この難曲を乗り切る事はできないだろう。わしももう長くはないだろうし、毛利の家を残したい気持ちもある。誰かに頼らねば生き残れない」
と言って黒田官兵衛に目を付けた、というかそれしかないと強く言っていた。別所は今回、黒田官兵衛と話をしてみてそれが間違ってないと確信し、船の装備について何から何まで説明した。官兵衛は驚くことばかりだったが、それでも武田に勝てるかはわからないという。
船が出航した。官兵衛の他に似たような大小の船が全部で50隻ほどの大艦隊だ。官兵衛は驚いて、
「小早川にはこのような多くの船があるのですか?」
別所は冷静に答えます。
「左様にございます。瀬戸内海にある軍船のほとんどが集結しております」
「秀秋殿を迎えに行くのに随分と大層ではないか?」
「秀秋様のお迎えでもありますが、黒田様に見ていただきたかったのです。小早川水軍の全貌を」
どういう意味だ?船の名前といい、小早川は何を考えている?官兵衛は閃いた。
「客分程度で考えていたのだが、隆景殿はこのわしにどこまで期待しているのだ?別所殿はどこまで聞いている?」
別所は官兵衛の顔を見てから話し始めます。
「秀秋様はどんな方かわかりません。そのお方に毛利の血を引く小早川を継いでいただく。これは太閤殿下の優しさと捉えればいいのですが、今は戦国の真っ只中。あの毛利でさえ太閤殿下のお力の中に取り込まれてしまいました。某の別所家の事は黒田官兵衛様はよくご存知でしょう。十年前に栄華を誇っていても今は家さえなくなっているのです。それをよく理解されている隆景様が黒田様へ水軍を託されたのです。小早川の強みは水軍です。そして武田の大戦にも水軍が絡んできます。海を抑えれば勝てると隆景様は………、それには秀秋様では難しいと考えておられるのです」
「面白い。三成がいなくなった事でわしも大阪に居れなくなった。だが、これだけの事を隆景殿に会わずに進めていいのか?」
「もう隠居なされました」
「それはわしも同じだ!」
「黒田様はまだお若い、これから幾つもの花を咲かせられましょう。隆景様はおっしゃいました。これでダメなら消えるだけだ、と。秀秋様が生き残り、小早川の名が残るにはこれしかないのです」
「わしが小早川を乗っ取るかもしれんぞ」
「それは毛利が天下を取るということになりますな。輝元様の隠し子がおられます。一部の家臣しか知らないことです」
「それをわしに言ってはならんだろう。それこそ命を狙うかもしれん」
「黒田様は佐々木源氏の流れと聞きます。佐々木を使って何か企んでますよね?」
官兵衛は青ざめた。ここにきて今までで一番動揺したのがわかった。
「おい、なんでそれを!別所殿、貴様、忍びか?」
「違いまする。それこそ別所の家とは関係ない商人の子にすぎません。ただ、某は表には出にくい家でしたので結構暇を持て余しておりました。そうなると毛利、吉川、小早川、そして小達、誰がどこの生まれでどこと仲が良くてどこと繋がっているか、などというくだらない事を調べて楽しんでいたのです。その時調べた中に黒田様が佐々木源氏の出で何やら佐々木神社に奉納金を欠かさないというお話がありまして」
それだけではあるまい。こいつただの妾の子ではない。官兵衛は、
「お主、隆景殿のなんだ?」
「鍛冶屋ですよ、ただの。今はこの水軍の参謀役でもありますが、実質は秀秋様の船に乗っている清水景春様が水軍の指揮をとっておられます。隆景様はこの水軍を黒田様にお預けしたいのです。某はそれを補佐させていただきたくお願い申し上げます。それが某の隆景様への恩返しとなりますゆえ」
なんにせよ、この船団は秀秋を出迎えるべくすでに出航している。まずは合流するしかあるまい。
「返事はせんぞ、だが秀秋様を派手に迎えようではないか」
「はっ、それが秀秋様の船が見えたのですが信号弾が上がっております。敵の襲撃を受けていると」
ほわっ!




