暴走
5隻の輸送船が燃えている横で戦艦駿河マーク参を止めさせ、海に逃げた兵を3名だけ助ける指示をだした。戦闘空母から艦載船、中駿河が発進していく。中駿河はモーターボート子駿河の上位船で、乗員数15名、武器も搭載している。
戦艦金谷は駿河の横に止まったがなぜか戦艦用宗がそのまま止まらずに小早川水軍を追いかけてしまった。金谷の艦長は伊谷、用宗は伊谷の部下で佐々木が務めている。
かなはそれに気が付くのが遅れた。逃げた船に誰が乗っているかに興味があった。この海域に居た理由も知りたかった。それがために泳いでいる敵兵を尋問したくて視線がそっちの方にいっていたのだ。部下に言われて気付いた時には距離がだいぶ離れてしまっていた。戦艦金谷から伊谷が小船でやってきて初めて気が付いた。
「かな殿。用宗が先行したのはかな殿のご指示ですか?」
「えっ!用宗がですか。確か佐々木殿が艦長ですよね?私の指示はここで停止です。深追いすべきか判断が付かなかったのです。伊谷殿の指示だと思っていました」
「この船団の指揮はかな殿が。佐々木め、どういうつもりだ?」
「合図見落としですか?」
「そうとしか思えませんが、そのような事をする男ではないのです。申し訳なく」
「仕方ありません。金谷は藤枝と島田を連れて用宗を追いかけて下さい。できれば戻るように。私は尋問をしてから追いかけますので」
「承知」
伊谷は金谷へ戻って行きました。
「さて、小早川水軍の兵よ、名前は」
「……………… 」
ここは中駿河の甲板です。かなは捕えられた3名の水兵を尋問しています。1名は30代、残りの2人は20代くらいの日焼けしたいかにも海の男に見えます。返事をしない男たちに向かってさらに話を続けます。
「無口なのね。あなた方は捨てられたのよ、あの船を逃がすために犠牲になって。せっかく助かった命なんだから大事にすれば?」
「武田水軍の将が女とは。お前が徳か?」
「徳様を知ってるの?」
男はしまったという顔をしてまた黙り込んだ。徳が有名なのは武田の中だけではないのか。そりゃそうよね、今まで派手にやってきたし。
「残念ね、私は徳様ではないけど昔お側に仕えていた者よ。一応この隊の長ってとこね。ねえ、あなた達は小早川隆景様に仕えていたのよね。私はあのお方は素晴らしい人だと思っている。でも、話に聞こえてくるあのお方だったらあそこに船は出さないと思うのよ。それが不思議でね、聞いてみたかったの」
「………… 」
「大阪の帰りよね?犠牲にされた輸送船の中身が海に散らばってたけどどなたかのお引越し?」
「………… 」
「話をしたくないか、じゃあ仕方ない。小舟を用意してあげて、後は自力でなんとかしなさい」
殺さないのか?なんなんだこの女は?小早川水軍のこの男、名を尾道治重という。尾道は、村上水軍の将の家系で港町として栄えた尾道の豪商の息子だ。尾道という土地が毛利家に支配され、小早川隆景に拾われて水軍に入った経歴を持っている。その時に隆景から尾道の姓を名乗るように言われ隆景崇拝者だった。
「ま、待て」
「なあに?」
「小早川隆景様を知っておられるのか?」
かなは食いついたのかな?と話が続くように誘導していく。これは徳から受けた教育の賜物だろう。徳は教科書や本の写しから21世紀レベルの知識を持っているのだ。この時代の人間を調子に乗せるのは難しいことではない。
「私も海は長いのよ。毛利を調査しているときに色々な人から話を聞いたわ。いち早く秀吉についたのも家臣を思ってでしょう。ただお子に恵まれなかったのがね」
「そう、そうなのだ。隆景様は秀秋様に家督をお譲りになり隠居なされた。我らは秀秋様に従ってこの海域に来たのだ」
「ご養子を迎えられたのね。秀秋様?秀がつくと言うことはもしかして?」
「太閤様の甥御だそうで」
「それは立派な方が小早川家を継いだんじゃない?小早川家は安泰ね」
「そこに問題があるのだ。余所者が知った顔で話すでない。今回もなんで我らが犠牲にならねばならんのだ。戦で負けるのなら納得もするが、秀秋様が逃げるための時間稼ぎ、しかもこちらから仕掛けておいて我らを置いていくなどと……………………………………………… 」
愚痴は延々と続いていく。尾道は話しだしたことで、他の若い2人も話をしだし3人が話疲れるまでこの敵からの情報提供は続いた。
小舟に3人を乗せて1日分の水と食料を与えて解放した。この情報は伝えておいた方がいいが、さて金谷を追うかどうするか?結局中駿河に大阪湾の外にいる連携部隊まで情報伝達を頼み、かなは金谷を追うことにした。小早川秀秋という名をかなは知らなかった。徳がここにいたらどう言う判断をしただろうか。金吾中納言、歴史に残る軟弱者だ。とは言っても生まれの不運、己が世に出たタイミングの不運、家康にいいようにやられてしまったのは必ずしも秀秋のせいだけではないとは思うが。
そして伊谷が乗る戦艦金谷は先行する戦艦用宗が見えるところまで追いついていた。




