疑問
勝頼はあの男がここにきているかと聞いた。真田幸村は誰とは答えずに
「だいぶ怪我も良くなっておりました故、連れて参りました。おい、入ってこい」
片足を引き摺りながら一人の男が部屋の中に入ってきました。その男を見て小山秀広は焦り出します。
『間違いなく斬った。最後逃げられはしたが、あの傷で助かるわけはない。なぜだ?』
「幸村、偉そうだぞ!井伊直政、見参、ってお屋形様、なんでここに?い、いてて」
井伊直政は勝頼がいる事に驚いて慌てて跪こうとして悲鳴を上げた。どうやら脚を斬られているようだ。それを見て幸村は笑いを堪えている。幸村め、俺がきている事をわざと知らせなかったな!勝頼はこういうのは個人的には好きだが立場的に許すわけにもいかない。直政の顔も立てないと。
「幸村、お前酷いやつだな。後で徳に言っておくよ。で、直政。お主の見た事を全て話せ!」
幸村は顔が青くなり冷や汗が出始めた。直政は気がすんだのか幸村を睨んでいたが前にも小山が座っている事に気が付いて、刀を抜こうとした。梅雪が初めて口を開いた。
「井伊、お屋形様のご面前であるぞ!ご指示にしたがわぬか!」
武田の重臣、穴山梅雪。戦場に響き渡るほどの大声で叫んだのである。ここに穴山梅雪あり、穴山の立場をここで明確にしておかねばならない。勝頼は穴山の気持ちを感じた。色々と悩んだであろう、このような事態にどう行動すべきなのか。元々、信虎時代の重臣は家臣というより従属だった。信玄の時代でもそれを引き摺っていた。三雄の世界で、織田徳川軍に攻められた時に親族の穴山だけでなく木曽や、小山田まで裏切ったのは武田が主君というより従属関係だったからだ。そこが一枚岩の徳川家臣団との大きな違いで、徳川家康の部下は家康を天下無二の主君として仕えていた。
勝頼は家康のようにはなれるか模索したが、三雄にバッサリと切り捨てられた。まだ勝頼が今川の嫁をもらった頃の話だ。
「お前には無理だ、信玄だから従っていた曲者の重臣達がお前の事を心底から主君と認めさせるのは、嫡男ならまだしも………、側室の子で四男である勝頼では到底………、武田が滅んだ本当の原因は梅雪に裏切られたからではなくそれは武田としては必然だったのだ」
そこまで話して三雄は一息いれた。そして少し考えた後、
「武田の歴史を考えると家康のような家臣団は作れない。今の重臣が若手に全て入れ替わればなくなないが、それでも難しいだろうな。だから家康の真似ではなく勝頼のやり方で武田家を強くするんだ。力は絶対必要だが恐怖政治では信長のようになる。飴と鞭、人を信じて上手に使う、時には鬼になり切り捨てる」
勝頼はそれを聞いてからかなり悩みました。そして飴と鞭、人を大事にという事を忘れずに実施してきました。そして家臣を大事にしてきたのです。ただ、事件が多く家臣も多く全てには目が行き届きません。その事が、室賀の事件に繋がったのでしょう。室賀は最後まで裏切りませんでした。ですが室賀に対する対応が遅くなってしまったのは事実です。穴山へは報いなければならないのです。そして穴山梅雪もそれをわかっていての大声でした。
井伊直政は足が痛いのを我慢して座りました。幸村も青い顔をしてその横に座ります。直政は頭を下げた後、顔を上げ、勝頼を見て、それから梅雪を見て、そして最後に前に座る小山の後ろ姿を見ました。小山の後ろにいる直政は小山の表情は見えません。どんな顔をしているのやら。
「お屋形様に申し上げます。それがしの足はそこにいる小山秀道に斬られました」
小山は確かに足を斬った。だが胸も斬った筈だ。こいつは一体なんで生きていやがるんだ?こんな数日で歩けるようになるとは?その時、本多正信に聞いた話を思い出した。風魔の忍びはそっくりに変装できるのだと。小山はここに現れた井伊直政は偽物だと判断した。
「何を言い出すのやら。お屋形様、このような者の言う事など」
「黙れ!お前に発言は許していない。直政、続けるがよい」
勝頼は小山が勝手に話し出したのを一喝しました。直政はそのタイミングで話を続けます。
「それがしが城に繋がる井戸の辺りで怪しい女を見かけたのがきっかけでございます。夏様にそこにいる小山殿に取り次いでいただきました。翌朝、井戸に何か仕掛けをされたと思い城に行ったところそこにいる小山殿に襲い掛かれました。不意を突かれ斬られたもののなんとか逃げ出したのですが傷が重く追っ手の目もあり隠れておりました」
勝頼はそこまで聞いてから口を挟んだ。
「その間に夏は失踪した。城では皆が呆けてしまう謎の病が流行っている」
小山はここまでの会話から逃げ道を模索している。このままでは不味い。なんとかしないと。
「お屋形様。申し上げたきことがございます」
小山は冷や汗を垂らしながら発言の許可を求めた。さっき一喝されたので好きなようには話せない。梅雪が小山を睨んだ。勝頼は発言を許可した。何を言うか楽しみだ。
「そ、そこにいる井伊直政殿は何か違うのでございます。雰囲気と申しますか、それがしの知る井伊殿はもっと荒々しいのです」
勝頼は、
「小山、何が言いたい?」
「どなたかの変装ではないかと。それがしを貶めるために誰かが仕組んだのではないかと思われます」
「そうか。面白い意見だな。そうだとしてお主を貶めて誰に得があるのだ?」
「そ、それは………、わかりませんが」
そこに穴山梅雪が勝頼の顔を見てから話し出します。
「それだけの事で偽物と言うのか?なぜに偽物と思ったのだ?」
梅雪にはここにいるのは井伊直政のように見えていました。部屋に入った時の真田幸村との駆け引きも聞いていたような関係に思えました。小山の意見を聞いて閃いたのです。
小山は直政がここに来れるわけはない普通なら死んだ筈だ、と思ってはいますがそうはは言えません。ま、待てよ?小山は閃きました。




