真打は後から
勝頼が上座に座り、その横には甲斐姫が座った。右の上手に梅雪だ。小山は勝頼から5mほど離れて座り頭を下げている。小山は、
『やっとこの日が。ここを乗り越えれば小山城は取り戻せよう』
などと考えながらひたすら態度は平伏している。ここにはその4名しかいない。小山はこのパターンは想定していた。問題は梅雪がどう説明しているかだ。息子可愛さに変な報告を勝頼にしていると厄介だがその時はその時で穴山を失脚させるきっかけにしてやる。
勝頼が口火を切った。
「小山秀広、久しぶりだな」
「はっ!」
俺なんかを覚えているのか?それともカマをかけたか?小山は少し焦った。
「結城殿の顔を立てて其方の父を結城殿の与力とした。すぐに家督を譲られたと信平に聞いたがなかなかの働きぶりだったそうではないか」
勝頼は笑顔だ。小山はここは一世一代の大勝負、これで俺の人生が決まると色々なシミュレーションをしてきたのだがこの笑顔を見て、勝った!と思った。だが調子に乗るわけにはいかない。
「ありがたきお言葉にございます。北条方であったこの小山秀広を取り立てていただいた事に報いるべく、勤めて参りました」
小山は再び頭を下げてじっと我慢する。
「そうであろうそうであろう」
勝頼は2回繰り返した。この方が想いが伝わるという判断だ。そしてそこで話すのをやめた。微妙な間があき、小山は平伏していたが少し不安になり顔を少し上げた。勝頼は小山を笑顔で見ている。こちらから話しかけるべきか?悩んでいると甲斐姫が話し出す。
「お屋形様、私が話してもよろしいでしょうか?」
うん、絶妙の間だ。甲斐姫はただの姫ではない。嫁いでからというもの武芸の訓練を怠らず、そこらの兵には負けないくらい鍛えている。まるで信玄の側室、里美のようだ。嫁いできた時は大人しいようにも見えたが、内面はかなり勝気である。ただ、自分の立場を良く理解していてあくまでも側室として日々を過ごしている。駿府にいることが多いが、勝頼が不在の時は川根にある特殊部隊ゼットの訓練所にも行っていて徳と連むことも多い。徳と連んでいると聞いて、良いような悪いような何とも言えない気持ちになったが、このタイミングは徳仕込みだろう。だがこれでももう母親なのだ。名は勝頼と同じ四郎、この四郎はどうなるのか?普通に信勝を支えてくれるようになってほしいものだ。
甲斐姫は同年代の、娘でもある夏が酷い目にあっているのを自分の目で見てしまい、小山城まで付いてきたのだ。東北訪問に徳が来れない?と聞いて気合いが入っている。
勝頼はいいきっかけだ、と考えて甲斐姫の発言を許可した。
「お屋形様のお許しがいただけましたので、申し遅れました。甲斐と申します。お屋形様のお側を務めさせていただいておるものです」
小山は誰だかわからない女が偉そうに座っていたのを多少気にしていた。側室か。何かと思ったがそういえば成田のところが娘を献上したと聞いたがそれだな。小娘だがいい女だ。なんか悔しいが跪くしかあるまい。ここまでは上出来なんだ。慌てずに話を進められれば………、
「小山秀広にございます」
「小山殿、娘の夏がお世話になり有り難うございます。と言いたいところなのですが、未だに行方が知れないとはどういうことなのでしょう?私は心配で気が狂いそうなのです」
「お方様のお気持ちはお察しいたしますが、何処を探しても見つからず。それがしの力不足としか言いようがなく」
「いつ居なくなったのかはおわかりか?」
「城でお夏様の侍女が死んでいたのが見つかってからと思われます」
「その侍女は私も良く知っている者です。なんでこのような事に………」
甲斐姫は涙を流して顔を下に向ける。小山は、こいつらは何もわかっていない。俺も何も知らない。それで突き通すしかないという最初の方針で行けると考えた。
勝頼は甲斐姫は結局何を言いたかったのかと考えたが、やめた。甲斐姫は徳にいい意味で毒されている。何か考えが………、あるのかな???まあいいや、ぼちぼちあいつらが来る頃だ。
勝頼は穴山の様子を見た。でしゃばらず一言も喋らない。勝頼がどう対応するのかを見ているようだ。勝頼は今回の一件は自分が本多正信を野に放った事に起因しているとわかっている。全ては勝頼の責任だ。武田家で起きた全ての事は勝頼の責任なのだ。だが、その責を償おうとは思ってはいない。この戦国を終わらせるには前を向くしかない。責は家臣に報いる事でしか返せない。
穴山の願いである家督相続の件は受領した。だがそれだけでは不十分だ。不穏の芽は全て取り除いてやる。そうでなければ下野の、武田の安泰はない。
「遅くなりましたが、入ってもよろしいか?」
真田幸村が宇都宮国綱と共に現れた。勝頼は、何でこの2人が一緒なのか?と思ったが焦った顔は見せられない。
「宇都宮殿、久しいの。幸村、何処へ行っておった?」
「それがあの男を探していたのですが、宇都宮様のところへ身を隠しておられたので」
「そうなのか?宇都宮殿、厄介をかけたな」
宇都宮国綱は、部屋に入ると平伏し、
「お屋形様に申し上げます。正確に申しますと、あの男は信玄公の隠し部屋に潜んでおりまして某も気付かなかったのでございます。あそこは普段は人気のない所で誰も寄り付きませんので。真田殿が見つけてくれなければ恥をかくところでした」
「あそこにいたのか!それでは仕方あるまい。宇都宮殿は今回も梅雪を助けてくれていると聞いておる。感謝するぞ」
「身に余るお言葉、恐悦至極にございます」
小山はあの男と聞いて、誰かと考えて1人の男の顔が浮かんだ。ま、まさか!




