梅雪対小山
穴山梅雪は真田幸村を従えて小山城へ入りました。信正を小山秀弘が斬ったという話は城へ向かう途中、伝令が来て伝わっています。梅雪は頭から火を吹きそうに怒りまくっていましたが、それを幸村が
「穴山様、ご心中お察し致します。ですが、今は事の真相を。例の麻薬も絡んでいるようですので」
穴山はカッカしています。
「信正を拐かした奴は許せん。戦場で死ぬならまだしも家臣に斬られるとは」
斬ったやつよりその裏にいる者を見ているようです。幸村はさすがだな、と思いつつも
「佐助を先行させております。錠殿も動いておられますのでまずは冷静なご判断を」
「わかっておる。わかってはおるのだが………」
幸村はこんなにも子供を思う親の気持ちは強いのかと改めて感じた。まだ幸村は独身だ。親の気持ちはわからない。嫡男が殺されたのだ。幸村は父親を思い出した。あの鬼の武藤喜兵衛も兄上が殺されたなら冷静さを失うのだろうか、と。
小山城に入ると頭を丸めた小山が平伏しています。額を床に擦り付けて泣いています。幸村はそれを見て違和感を感じました。穴山梅雪は、
「小山、信正を斬ったそうだな」
「‥…… 」
小山は無言で頭を一度上げ梅雪の顔を見た後、ふたたび床に頭を付けます。梅雪の顔は鬼の様でした。元々小山は梅雪が苦手です。何を考えているのか表情から見えないのです。ですが、今日は違いました。顔から湯気が出ています。
小山は無言を貫いています。何を言っても無駄という判断をしたのだなと幸村は読み取りました。ですが先程感じた違和感は何なのかまだわかってはいません。幸村は梅雪を見てアイコンタクトをしてから話し始めます。以前の幸村ではいきなり場を読まずに話し始めるところですが、徳にトコトン鍛えられています。空気を読める幸村になっています。
「小山殿、それがしは真田幸村と申す者でござる。お気持ちはわかり申すが顛末を報告するのもお役目でございます。噂では城の一大事に上手く立ち回られたと聞こえています。まずは、頭を挙げられてお話しくだされ」
小山は真田幸村を知りません。が、この態度や梅雪にヘコヘコしているのを見ると大した事ないと思いました。小田原で活躍した武将の名前に真田という姓はありませんでしたし、新参者か旗本の嫡男かというところでしょう。
真田という若造がいい緩衝材になりそうだと、小山は話し始めます。
「大殿。まずは大殿不在時にこの様な事を起こしてしまいお詫びのしようもありません。すぐ様腹を切ろうとしましたが大殿のご沙汰を受けるべきだと他の者に言われ、恥を知りながらここにおります」
梅雪は頷いた。幸村は小山を凝視している。
「きっかけが何だったのか?お夏様の侍女と知らない男が死んでいるのが見つかりました。争った形跡があり、調査を始めたのですがその時に城の様子がおかしい事に気がつきました。多くの者が気がふれたといいますか、呆けたといいますか」
穴山は少し考えてから、
「その原因はわかったのか?」
「わかりません。それがしは何ともありませんし、一体どうしてこうなったのか。死んでいた男の素性もまだわかっておりません」
「そうか、で小山。夏はどうした。何処におる?」
と聞きます。幸村は小山の顔色を窺っています。小山は、
「大殿。それが、お姿が突然消えてしまいました。城下も含めて探したのですが見つけられずにおります」
「馬鹿な!信正だけでなく夏まで失くすのか!」
怒鳴った後で少しの沈黙の後、梅雪は続きを聞きます。信正を探したところ、宇都宮の遊廓にいたので連れて帰った事、遊女にうつつを抜かしていて部下を斬ろうとしたのでやむを得ず斬った事、その場は多くの家臣が見ていたので確かめたうえで、沙汰を待ちたいと言いました。穴山は
「小山。大義であった。その方の言い分はわかった。他の者にも聞くとする。真田、何かあるか?」
幸村はさっきの違和感の正体がわかりました。夏がいなくなった事の答えをあらかじめ用意していたのがはっきりとわかったのです。普通、聞かれることを予想していたにせよ、動揺はするでしょう。この男は何かを知っている、そして何かを隠している!
「穴山様。実は某の友人が先日この地を訪れていた様なのですがその者が何かを知っているかもしれません。小山殿、井伊直政が来ていなかったか?」
小山が動揺したのがわかりました。
「井伊殿、はて?見ておりません。この城へ来ていたのですか?」
「そうですか。ご存知ないのならそうなのでしょう。あの男は真っ直ぐな男ゆえ、城に問題があれば首を突っ込んでご迷惑をかけてたかと思いましたが安心しました」
穴山は、
「井伊が来ていたのか?何をしに来ていたのだ?」
幸村は答えます。
「信平様、いえ、結城様に伺ったところ、最後の引き継ぎだそうで。この城は穴山様の前は結城様が治めておいででしたので」
「そうだが、律儀な事よ。だったら夏は井伊直政といるのではないか?小山よ、井伊を探せ!」
「かしこまりました。下がってよろしいでしょうか?」
穴山は頷いて小山を下がらせ、城の奥にある自室へ入った。幸村も一緒に。




