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佐助が夏を助け出す前の晩、小山の家に計画を知る部下達と風魔のおくにが集まっていました。
「おくに、信正はどうだ?」
小山は殿を呼び捨てにします。あんなやつ、たまたま武田の重臣の家に生まれただけの小僧だとバカにしているのです。
「宇都宮の遊廓にいます。お気に入りがいるようで嵌ってるようです」
これは本多正信の作戦だった。武田を中から崩すのに重臣達は手強い。武田に近いやつの方がダメージはでかいから狙いたいのだが特に穴山梅雪は手強い。ならば家族を狙えばいいのだ。丁度いいのがいたと、穴山の跡取りを狙うことにしたのだった。
しかも嫁は勝頼の娘と来ている。こんないいターゲットはいない。信正の性的不満を解消させるために小山に言って遊廓にお忍びで行かせたのだ。とびっきりのいい女を用意して。
「本多殿の策は見事だな。おくに、例の菓子も与えているな?」
例の菓子とは伊達家で騒動を起こした麻薬入りの菓子である。
「毎日食べるように遊女に金を握らせてます。あれを食べてするといい思いができるそうです。小山様も試してみては?」
「興味はあるがやめておく。そのような事で道を踏み外したくはないのでな」
小山は心の中で呟きます。本多正信の罠には嵌まらん、利用するのはこっちだ、と。そして部下の村松雄英に話しかけます。
「おい村松、城の様子はどうだ?」
小山は夏に会うと問い詰められる事を警戒してあれ以降城にはいないようにしていました。薬の効果がどれくらいなのかわからないのです。村松と呼ばれた部下は長年小山家に仕えていて今は小山の補佐をしている男です。
「はっ、夏様は騒いでおりません。城の者は皆楽しそうに笑みを浮かべながらぼーっとしています。突然走り出したり不思議な行動をしています」
「お付きの侍女達はどうだ?」
侍女は勝頼が付けてきた者達です。油断はなりません。
「皆、同じように見受けられました。忍びと聞きましたが大した事はないようです」
「そうか、手練れをこんなところには付けてこないとは思っていたがその程度か。安心したぞ。水は?」
「はい、水源を塞ぎ井戸の方へは行かないようにしていますので薬が薄まる事はありません。城の水が無くなる前に城の中は滅茶苦茶になるでしょう」
そうか。ならば信正を戻す時期を見極めねばな。この不祥事を起こした穴山信正にはこの地を治める力がないと思わせ、俺が制圧して勝頼へ報告する。梅雪は手強い。梅雪がいない間に薬で暴走した信正を殺して仕舞えばいい。さすれば褒美はもらえよう。徐々にのし上がる、あの秀吉のようにだ。
とは言っても小山は小悪党ですが馬鹿ではありません。保身しながら少しづつ上を目指しています。といっても目的は領地奪回、この周辺の領主になれればいいので天下などは狙っていません。ただ、いずれ武田か豊臣かどっちが天下を奪っても生き延びる事を考えています。
そのためにはどっちつかずでいけばいいと考えています。本多正信を信じてはいませんが秀吉へ小山は味方だと伝えてもらわなければいけないのです。
翌日も小山は城の中へは入りませんでした。村松に城に行かせ様子を見させています。城は地獄模様と化していました。皆が呆けて笑ったり怒ったりしていてまともな会話ができなくなっていると言うのです。水を飲むと意識がはっきりするそうなのですが、知識のない小山には不気味にしか思えません。おくにへは宇都宮に行って信正を連れて来るように指示しました。お気に入りの遊女と共にです。
「信正が来たら城へ同行しよう。中毒者を集めて牢に入れる。信正は抵抗した事にして、ム、フ、フ」
そんな妄想、いやシミュレーションをして夕方まで過ごしました。すると、村松が慌てて報告に来たのです。
「小山様、夏様が消えました」
「何を言っている?付きの女中にでも聞いてみろ。あの夏が1人でどこかへ行けるわけはない」
夏は武田の姫だ。
「それが……… 、城の様子ですが知らない男と、夏様の侍女の死体がありました。2人とも斬られて死んだようで、何が起きたのか?それ以外にも笑ったり呆けていたりする者が多く、夏様の行方どころかほとんど会話が通じませぬ。その薬とやらは恐ろしい。これはこの世にあってはいけない物ではないでしょうか?」
そんなになっているのか?
「わしも城へ行く。この目で見ないと信じられん」
小山は急遽城へ出向き、中にいる人を直接見ました。それは衝撃の光景でした。
「本多正信め、なんという事をしてくれたのだ。これでは城が………」
村松の言う通りだ。この光景は地獄だ。だが、もう後には引けない。
3日後、おくにが信正を連れてきました。城下の宿に信正と遊女を休ませて、小山は面会を申し出た。
信正は城の人間のようにはなっていない。普通に会話もできるし、意識もしっかりしているそうだ。
「菓子の薬と城のは違うのか?わからん」
小山は独り言をブツブツ言いながら、宿の部屋に入った。
「小山にございます。殿、城の一大事にこのような女と何をしていたのです!」
最初が肝心と信正を責める。だが、信正は何も悪い事はしていないという顔をしていた。小山ではなく遊女の方を見ていたのだ。
「殿!」
小山は城の様子を見て後悔していました。大変な事をしてしまったと、自分の行為が人道から外れていると思ったのです。だが、この信正を見て気が変わりました。こんなのが領主でいいわけがない、と。




