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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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夏の話

 あの日、井伊直政に小山を当てがい、夏は自室に入りました。穴山梅雪は駿河へ行っていて留守です。どうやらお祖父様が危篤のようなのですが正式には知らないことになっているので騒がずにいます。梅雪は元々勝頼というより信玄の部下です。死に目を見るまで戻らないでしょう。


 主人の穴山信正とは一応うまくいっています。勝頼の娘という事で信正は気を使ってくれて優しくしてくれています。大屋形の娘だからと言っても大名に降れば、ただの嫁です。それは姉の春からきつく言われていました。武田の娘という事を忘れて、嫁いだ家に奉公しなさいとです。


 ですが、やはり周りはそうは見ません。腫れ物に触るようにというとオーバーですが、夏の機嫌を損ねないように気を使われるのです。それは古府中にいる時よりも露骨でした。夏は賢い娘です。母以外にも彩、徳や市といった知識人??に様々な教育を受けてきました。今川家、織田家、ただの農家の娘からです。どうやってこの壁を越えるのか、このままでは生活していて面白くないのです。そこで夏は女中を集めてお茶会、現代でいう女子会を定期的に行うことにしました。最初は人が集まらず、強制的に参加させていましたが今ではみんなその日を待ちかねるようになっています。


 ただ、夫の信正は梅雪と違い今でいう草食男子で夜の営みもサッパリとしたものでした。実際は、もっと色々やりたいのですが勝頼の後光が見えるような気がしてできないのです。遠慮というのか、嫌われたくないのか本性を曝け出す事ができません。そしてその性的な鬱憤は外の女に向けられることになります。


 そんな事を知らない夏は優しい夫に満足しています。流石に夜の営みの事は母達や姉にも相談する事ができませんでした。というより箱入り娘の夏にはそんなもんだという理解でしたので相談しようがありません。


 今日は1週間ぶりのお茶会です。お茶と、夏が自ら作ったパンケーキもどきです。甲斐では勝頼が子供の頃、小麦粉からできたパンに改良を重ねてふっくら柔らかくて甘いパンケーキが作れるようになっていたのです。もちろん現代のものと比べれば酷いレベルですが、その味はこの時代の女中を垂らしこむには十分でした。


「さて、後は待つだけですね。お茶の準備をお願いします。お水を汲んできて下さいな」


 夏が女中に声をかけます。この女中は普段は厨房で下働きをしていてこの部屋には入れません。お茶会の時は参加者は自由に出入りできるのです。夏はあまりそういう事は気にしないのですが、周囲の人が規律だなんたらとうるさいのです。ですのでこの女中が気さくなお嫁様に会えるのも月に一度のお茶会だけです。


「はい、お夏様。朝、井戸からお茶会用に沢山汲んでおきましたです。早速湯を沸かしますです」


 この女中は名前を何と言ったであろう?女中の数が多くて名前が覚えられませんが、いつも明るく、ですですと変わった返事をするので、勝手におですちゃんと呼んでいます。心の中だけですが。


「お願いしますね。このお茶会もだいぶ参加者が増えました。皆さんが広めてくださるので盛大になって、夏は嬉しく思っていますよ」


「とんでもないですです。お方様にそんなふうに言ってもらえるなんておら照れてしまいますです」


 そう言っておですちゃんは、深くお辞儀をして厨房へ小走りに走って行きました。それを笑顔で見送りながら、お付きの侍女を呼びます。


「お幸、パンケーキを見てきてくださいね」


「はい、ですがお方様を1人にするわけには」


「大丈夫ですよ。ここはお城の中、危険はありません」


 お幸は勝頼が護衛につけた伊那忍びだ。伊達家に嫁いだ春には伊那忍びの棟梁、吾郎が付いているが同じように夏にも忍びをつけている。ただ、外様の伊達家とは違い穴山は身内だ。穴山家にも独自の諜報網や忍びがいる。穴山は武田信玄時代は外交を主に担当していた。それはつまり各地へ派遣する忍び集団を持っているという事だ。なので侍女として付けた世話係の中に忍びを入れたのだ。





 お茶会はいつもよりも盛大に行われた。夏特製のパンケーキを食べながらお茶を飲んで、雑談に耽っている。夏は、


「そういえば今日、井伊直政殿に会いました。相変わらず凛々しいお顔をしてましたよ」


 と女中が好きそうな話題を出します。女性陣はいつの時代もイケメンには弱いし、こういう話が好きなのです。おですちゃんが、


「そうなのですか?遠くからでも拝顔できればよかったのですが残念です。素敵なお方ですです」


「明日には遠江へ帰るそうです。残念でしたね」


 おですちゃんだけでなく、他の女中衆も残念そうです。井伊直政を起点として誰がかっこいいだのあいつは嫌なやつだのその日のお茶はいつもより皆がお喋りでした。なんかそんな事言って平気なの?と思うほどですが誰も気にしません。夏まで主人が優しすぎるとか普段は言わない事を言い始める次第。皆が明るく陽気に楽しんだのでした。



「義父上、その時はおかしいとは思いませんでした。皆が楽しく過ごせて良かったと思っていたのです」


「夏よ、徳様のいう麻薬とやらのせいであろう。続きを頼む」


 穴山は話を続けさせました。

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