直政の機転?
直政が城で待っていると小山が現れました。直政が来ているのを見て驚いています。
「井伊殿どうなされた?遠江へ戻ったとばかり思っておりました」
「どうも嫌な予感がして残りました。それで小山殿、井戸の水を確認したいのですが」
こいつ、水源に気づいたのか!さっさと帰ればいいものを、これもおくにがこいつに見つかったせいだ。どう誤魔化してやろうか。だが、こいつは武田信平のお気に入りだ。おくにの言うようにここで消してしまった方がいいかもしれんが疑われるのは不味い。
「井戸?ですか。何か気になることでも?」
「敵の狙いが井戸かもしれないのです」
「なんと!水が出なくなるとかですか?急いで見に行きましょう」
小山は知らないふりをして驚きました。直政は小山の反応にそうか、水が出なくなる事もあるのかと感心しています。ですが、普通最初に毒が頭に浮かぶと思うのだが、とちょっと不思議に思いました。そして城の外を歩き、2人が井戸に着くと女中が水を汲んでいました。
「これ、その水をどうする?」
直政が女中に尋ねると、女中は直政の顔を見て驚いたように
「料理やお茶や色々使いますです。台所の甕に入れるのです」
「昨日も汲んだのか?」
「はいです。毎日組まないと足らなくなるのですです」
女中は直政の事を知っていた。憧れの君です。その直政に声をかけられて言葉使いがおかしくなっています。
「やけにですが多いご女中だな。その水は飲んだのか?」
「これはまだ汲んだばかりですので、飲んでないです」
「それはそうであるな。聞き方を間違えた。昨日汲んだ水はもうお飲みになられたか?」
「はい。昨夜のお料理や奥方様のお茶会に使われていますです。私も賄いで汁をいただきましたです」
「そうか、何か変わった事はないか?」
女中は少し考えてから、
「皆で話したのですが、何か気分が明るくなりました。普段あまりしゃべらない者も陽気に話し出したりして楽しかったです」
直政は閃いた。そして話しながら小山を振り返った。
「小山殿、これはじ………」
小山は刀を抜いて直政に切り掛かっていた。
勝頼は新しくできた小田原城で馬場信春の跡を継いだ馬場昌房と面談している。
「美濃、小田原はどうだ?」
勝頼は昌房を父親と同じ美濃守として、美濃と呼んでいます。馬場の家臣への影響も考えてのことです。
「この土地の者は長年北条の支配にありました。その影響は大きな物で、民の中には小田原城がお屋形様の攻撃で燃えるところを見た者もいて人の噂で武田は恐ろしいと伝わっております。それがしは父の教えの通り、北条よりも年貢を下げ、民の生活を豊かにして武田に従う事の素晴らしさを伝えるべく努めております」
「それでいい。新しい土地、しかもここは特に難しい土地だ。お主に任せる、頼むぞ!」
「はっ」
同席していた山県昌景、穴山梅雪はうんうんと頷いています。この2人も嫡男に家督を譲った身、戦友の息子が大名になったのを自分の子のように見ていました。
小田原城を出ると、護衛の特殊部隊ゼット、チーム甲の錠が梟を連れて現れました。梟は上杉の忍びです。
「梟か、わざわざ姿を現わすとはあまりいい知らせでは無いな」
梟は錠に気を使ってか話していいかと言う顔をしています。錠は逆になんで話し始めないのかという顔をしています。仕方なく勝頼が促すと梟は話し始めました。
「上杉城下に本多正信が現れました。ところが」
「偽物だったか?」
梟は驚いて
「お察しの通りにございます。風魔の変装でした。その者を捉えましたが自害してしまいました」
撹乱だな。風魔の生き残りはもう少ないはずだが………。もうなりふり構っていられないというところか。
「それだけか?」
「兼続様からの伝言でございます。敵の狙いは勝頼様のお子だと」
想像はしていた。東北の各地に現れたという情報と、伊達の領地での菓子事件。それに麻薬が絡んでいる。敵は本多正信と風魔、ならば狙いはなんだ?と考えれば
・秀吉は自分の子と勝頼の子を比べて次世代にどうなるかを考えた。拾では信勝には勝てない
・自分が生きているうちに拾の時代を盤石にしなければならない
・邪魔者は武田だ。武田を弱体化させてから戦をし掛ける
・ではどうやって?
「信勝、信平ではないな。春、夏を狙うと?」
「御意にございます。伊達様、穴山様のご領地にお気をつけください。それでは失礼仕ります」
「待て!兼続はどこにいる?」
「春日山を出て上野から宇都宮に向かっております。越前の菅原様と共に」
「わかった。兼続に伝えよ、先に仙台へ向かえとな」
越前の菅原孝則は勝頼が見つけ出した武藤喜兵衛に匹敵する軍師だ。今はその功績を讃えて越前を治めさせている。前回の上杉、前田の争いでは上杉・織田連合軍が前田利家を迎え撃つために越前に陣取ったが、菅原は兼続の手紙が面白くないという理由で兵を出さなかった。実際は後詰めする気で待機はしていたようだったが出番がなかった。事態の終末を想定していたのだろう。勝頼は菅原には特に何も言わない。何かあれば言ってくるし今回は自ら出てきたという事は菅原なりに危険を感じたのだろう。勝頼は、
「菅原が腰を上げるとは。まさか徳のやつ根回ししたか?」
「大屋形様、それがしは先に行かせていただきまする」
穴山梅雪は勝頼の返事を聞く前に飛び出して行った。
「錠、頼む」
「はっ」
錠は特殊部隊チーム甲を連れて穴山に着いて行った。




