信玄の死
勝頼が諏訪原城から戻って2日後に、武田信玄が亡くなりました。遺言はただ一つ、歩みを止めるな!です。葬儀は天下を取ってからにしろと以前から言われていたので発表はしますが、葬式は後回しです。信玄時代からの重臣、死に目にあうべく山県昌景、穴山梅雪、内藤修理が駿府に詰めていました。この3人は信玄の指示に従わず駿府に来ていますが勝頼も目を瞑ってます。とはいえ、死に目にあえたのです、もういいだろうと
「一日だけ喪に服す。お主らも明後日には領地へ戻ってくれ」
勝頼は重臣達に東北での出来事、京の動きを説明してから領地へ戻るよう促します。すると、
「お供いたす」
3人がハモります。なんでやねん。穴山と内藤って仲あんまり良くなかった気が………。
「お主らには領地を守ってもらわねばならん。風魔めは何をしてくるか」
「そこに大屋形様が向かわれる、我らはもう家督を譲って隠居の身。家は信勝様にお預かりしたもの、今の当主がしっかりとお守りいたす。信勝様をお支えするのが今の当主、我らが守るのは大屋形様でござる」
穴山がはっきりと勝頼の目を見て言い放ちました。三雄の歴史では勝頼を見限った穴山ですが、若い頃から目をかけてきたのが聞いています。穴山の息子、信治には勝頼の次女 夏が嫁いでいる。これは三雄から言われて渋々決行しました。本当は他の大名に嫁がせるつもりだったのだが、
「穴山が裏切った理由として娘を嫁がせなかったからだという説がある。譜代も大事にしないとだぞ」
三雄にそう言われては仕方ありません。信豊にある程度自由にさせているのもその理由です。ちょっと違えば武田を継いだかもしれない連中なのです。
勝頼は考え直し穴山のところへ夏を出しました。結果的にそれはいい方向にいっています。将軍は信勝です。信勝は信玄から戦のあり方を、徳から知識を、そして本多忠勝からは武芸を教わりました。信勝に必要なのは戦がなくなった時代の政治です。まだまだ時間はかかりますが武田の世を続けるためには勝頼と徳のような戦をするのではなく、平和な世の政治なのです。その時に信勝を助けるのは譜代、汚れ仕事は勝頼がやらねばなりません。以前徳が、
「三雄殿の時代では徳川が戦国を制するのだけど、有望な次男ではなく平凡な三男に継がせたの。理由は次の時代に必要な君主はどうあるべきかよね。次男は面白くないから色々と事件を起こしたけど早死にするのよね。梅毒だって伝わってるけどその数年で三男にとって邪魔な人間が立て続けに梅毒で死んでるの、闇が深いのよね」
「伝わっている歴史が正とは限らない、と以前恵子殿が言っていたそうだ。暗殺だったのかもだが、兄弟の争いは見たくはないな。そういえば加藤清正も家康に毒殺されたのだっけ?」
「なんでそれを知っているの?それは一説、真実かはわからないし、この時代では元気でしょ。この間幸村が世話になったってよ」
加藤清正は最初は真田幸村を敵視していたが宴で打ち解け、大阪を案内してくれたそうだ。
徳は教科書知識を一通り説明してくれました。写したのは勝頼ですが頭には残っていないのです。その話を聞いた後の東北の事件、本多正信の狙いはやはり………。
それと徳は徳川御三家の話をしだしました。本家の血筋が途絶えた時に、家を継ぐ親戚に徳川を名乗らせ、それ以外は姓を変えさせたのです。
「今はそんな先の事は考えてはいられないよ。頭には入れておく」
今、武田を名乗っているのは勝頼本家と信豊のところです。信豊も嫡男の信昌に家督を引き継ぎました。勝頼の次男信平は結城を継いでいます。あとは三男の信和、それと甲斐姫が産んだ四男の四郎をどうするか。
水の道、人は水が無ければ生きてはいけない。故に井戸を掘る。結城を継いだ信平のために勝頼が穴山に命じて作らせた改築小山城。その井戸に通じる水源の前に風魔のおくにがいました。結局井伊直政の働きに報いるために結城家は遠江へ国替になり、今は穴山を継いだ信正の居城になっています。
「正信様はありったけ放り込めと言った。勿体無い気もするが」
この薬は高価なものと聞く。だが命令に従うのが忍びだ。おくには袋から出した粉を水源に放り込んだ。それは水に混ざりながら城の方へ流れていく。本来は井戸に直接放り込む予定だったのだが、日夜警戒が厳しく城の中の井戸には近づけなかった。仙台にいる吾郎から不可思議な菓子の情報が届き、穴山は警戒を強めさせたのだ。それが水に溶ける事はまだ知らないのだが、勘が働いたようだ。
井伊直政は遠江に引き上げる前にこの下野にも領地を貰っていた。そこには小山城の井戸に繋がる水源付近も含まれている。国替というのは大事で部下やその家族一同引っ越しになる。後から入る者達との引き継ぎもある。直政はきちんと引き継ぎをしないと主人に迷惑がかかると思い、皆の移動が終わった後にも定期的にこの地を訪れていた。結城家は名門である。結城といえば坂東武者と言われていた時代もあったのだ。信平はそれを家に入る時に聞いていて、直政に絶対に粗相が無いようにしろと指示をした。直政はそれを主命として守っている。だが、もういいだろう、今日でこの地を最後にするつもりだった。この後、城へ挨拶に行き遠江に戻る予定だ。直政は、毎朝日課で領地の周りを走る、今でいうジョギングを行っている。これは徳に教わったというか強制された。
「信平殿を守るのだからいざという時に身体が動くようにしなさい。走れ、走るんだ直政!」
と良くわからない事を言われたが、毎朝走ってみると一日がすこぶる体調がいい。信平にも勧めたが、
「領主が走ってたらおかしいだろ!」
と一喝された。今日も旧領地の中を走っていると見かけない怪しい女がいた。農民までは引っ越ししていないはずだが?
「これそこの女、見かけない顔だがどこの者だ?」
直政が息を整えながら聞くと、女は逃げ出した。走り方が忍びにも見えた。
「えっ、なぜ逃げる?」
一瞬追いかけたが逃げ方が尋常ではなく追いつけそうもない。すぐに切り替えて女がいたところに戻った。
「何をしていた?まさか、仙台にいたやつか?」




