異変
大阪では秀吉の弟で、家臣の信頼が厚い豊臣秀長が病により他界した。それがショックだったのか秀吉の母、大政所も亡くなってしまう。この事により秀吉を嗜める人がいなくなってしまった。
「拾に関白を継がせる。世の跡取りは拾だけじゃ。邪魔者は余の目の黒いうちに始末せねばならん」
「殿下。そうはいってもお拾い様が元服を迎えるのは当分先、焦ってもいい事は無いぞ」
黒田官兵衛は秀吉に意見します。もうまともに意見できるのはこの官兵衛と前田利家くらいしか居なくなってしまいました。その利家は、織田方から寝返ってきた時に世話になったので秀吉に強く言うことができません。今の地位があるのも秀吉のおかげなのです。
「官兵衛、お前はうるさい。ぼちぼち隠居し倅に家督を譲ったらどうだ?」
官兵衛は素直に引き下がり倅の長政に家督を譲る宣言をしました。半分は呆れて、もう半分は保身です。今の秀吉に逆らっても痛い目を見るだけです。官兵衛は大阪を出て、播磨へ戻っていってしまいました。そうなると、話し相手が細川幽斎という事になります。
「幽斎、東北に行った正信からの連絡は?」
「はい。風魔小太郎とやらと東北各地で反乱を起こす準備をしていて順調とのことでございます。何やら人が暴れ出す薬を使っているようで」
「正信め、堺で手に入れたというのはそれの事か。兵を挙げる準備をしておけ。何かあればそれをきっかけに関東へ出る。三成はどうしている?」
三成は聚楽に引き篭もっています。
「三成様からそれがしに話があるというので聚楽へ行ってまいりました。蟄居の身ゆえここへは来れないと申されまして」
「それで?」
「殿下との養子縁組を取りやめて石田三成という一武将に戻りたいがどうしたらいいかという相談でございました」
秀吉は一瞬間を置いてから、
「なんだと!勝手な事を。まあいい、それならば望みを叶えてやろう。聚楽を出て佐和山へ行くように伝えよ。聚楽はそうだ、利家にでもくれてやろう」
もうめちゃくちゃだ。だが秀吉の眼光は衰えていない。これは何を意味するのか。幽斎が部屋を出ると秀吉の独り言が聞こえてきた。
「拾が元服するまでは死ねん。それまでに邪魔する奴らは全員ほうむってやる!」
勝頼と信勝は駿府城で吾郎と影猫からの文を読んでいる。
「父上、上手くはいかないものですな」
「こちらの策は良いとこづくしでやっと成立するものだ。多少でも錯乱できたのだから良しだ」
「そういうものですか。三成がもっと仕出かすと思っていたのですが」
「島左近がいるからな。あれがいては三成も無茶はせんだろう。それに三成は単純に秀吉贔屓なだけだ。どちらかといえば周囲が揉めると思ったのだがな」
「島左近という男にお会いした事があるのですか?」
「ない。ないが、例の寧々殿が申すには歴史に残る武人だそうだ」
信勝には三雄との出会い、寧々との話を簡単に伝えてある。未来を知った勝頼は未来を変えてしまった。この時代には無い知識を活用して。すでに何が起きるかは誰にもわからない。
秀吉に子ができる事で内乱を起こす、勝頼が言うように色々と歯車が噛み合わないとそこまでは発展しないだろう。今回は島左近が要所要所で邪魔をしたようだ。だが、火種はできた。
影猫からの文には三成が聚楽を出て佐和山城へ移ったと書いてあった。天下の二代目候補から十万石の大名へ格下げだが、何一つ文句を言っていない。
「影猫は何かしら悪い噂が秀吉に伝わる事を恐れているのかもしれないと言っております。島左近が一切の不平不満は赦さずと家臣におふれを出したそうです」
「三成はしばらく大人しくしてそうだ。自ら養子縁組を解くなどなかなかできるものでは無い。まあ島左近の入れ知恵だろうがな。それと黒田官兵衛の隠居が意味するところは大きい。もう秀吉は誰にも止められない」
「あとはきっかけですか」
「そうだ。そのきっかけを本多正信めが作ろうとしているというのが吾郎の報告から読み取れる」
「徳様が分析したところ、阿片の変異種ではないかと。明国では阿片が流通していて日ノ本へ流れてきても不思議はないそうです。ただ、ただの阿片は医師が痛みを抑えるのに使うそうで暴動を起こすほどの効果はないはずだと仰っておりました。それと」
「なんだ?」
「水に溶けるというのです」
「ま、まずいぞ。どれだけあるかは知らんが例の件が実験だとしたら」
勝頼は錠を呼び出し、特殊部隊ゼットを各地へ飛ばしました。それと駿府に出仕している大名の家臣達を緊急で招集します。
「信勝、あんまり気は乗らないがいざとなればアレを」
「わかり申した。父上は?」
「ちょっと出てくる。あとは任せたぞ、将軍」
信勝は召集した大名家臣のところへ向かい、勝頼はこっそりと城を出ました。向かうは諏訪原城です。
本多正信は穴山領にいます。
「さて、仕掛けるぞ」
話しかけるのはおくに、播磨の阿国に化けていた風魔のくのいちです。




