播磨の阿国
吾郎は春が嫁いでからずっとくっついているので、片倉小十郎とも顔見知りだ。
「片倉様、どうされましたか?」
「吾郎殿に用があって参った。実はな……… 」
片倉がいうには最近京から来たという旅芸人の一座が人気なのだそうだが、その連中が来てから城下町で夜盗が出るようになったという。
「奴らが怪しいのだが尻尾が掴めん。吾郎殿は昔大屋形様付きの忍びだったそうだが、助けてはいただけないだろうか?」
「その旅芸人の名は?」
「播磨の阿国という」
後に勝頼が寧々にその話をした時に、出雲じゃねえのかよ!と言われたらしいがなぜか播磨の阿国だそうだ。
吾郎は旅芸人の多くは各地の情報集めの集団だと知っている。勝頼が東北に吾郎を配置した目的も。
「わかり申した。この地を守るのはそれがしのお役目の一つでござる。まずはそれがしの手の者で探りを入れましょう」
吾郎は5人の配下を連れてきていた。そのうちの2人に芸を見に行かせた。単純な客としてだ。2人の名は権左と太助という。
「権左、どうであった?」
「綺麗な女が座長で、傘や棒のような小道具を使った芸を披露していました。あれは、忍びの技の応用と見受けました」
「太助は?」
「女が3名、後は結構歳のいってる男が5名。背後に用心棒らしき男が控えていました。ご命令通り後はつけませんでしたが、怪しそうな集団です」
「そうか。ご苦労であった。怪しまれるのはまずいのでお前達はもう関わるな!」
吾郎はそう指示したのだが………、東北暮らしで刺激の無かった太助にはこの一座は魅力的だった。翌日もこっそり見に行き、結局常連になってしまった。この一座の芸は路上で行われる。観覧した人がお捻りを入れる仕組みだが、お金を入れると可愛い少女が小さなお菓子をくれるのだ。それがまた甘くて美味しいのでそれを目当てに人が集まってゆく。そして一月が過ぎた頃、太助が突然権左に斬りかかり殺してしまうという事件が起きた。権左は夜盗の調査をしていてもう少しで突き止められそうなところまで来ていたのに全てがおじゃんになってしまう。
吾郎は太助を捉えて訊問をしたのだが、
「こ、これは何か盛られているのか?」
片倉小十郎は吾郎に問うた。吾郎は、
「何か薬でしょうか、精神がおかしくなっております。まずは片倉様へお見せしようと殺さずにおきました」
「大屋形様へは?」
「使いを出しましたが駿河までは時間がかかります。指示を待っておっては」
「殿へ報告いたします。で、あの旅芸人は?」
「消えました。もう城下にはおりませぬ。一応各地の忍びへは連絡しておきました」
その後、播磨の阿国一座はどこにも姿を現す事はありませんでした。ところが佐竹、結城、南部、最上の領地へは過去に現れていてその後突然暴れる民が増えていたのです。
仙台のある屋敷で本多正信と風魔小太郎が会話しています。
「まずは上々。南蛮渡来の麻薬とやらの効果も確認できた」
「正信、だがこれでは一時的に撹乱しただけだ。どうやって反乱を起こす?」
「小太郎よ焦るな。まずはここに基盤ができた。お主はここに残れ。わしはあそこへ向かう。手の者を貸してくれ」
この屋敷、元今川家に仕えていた関口家が所有する屋敷だ。関口家は今川滅亡後徳川に味方していたが武田に拾われた。その後勝頼の東北征伐に同行し、伊達家に仕える事になっていた。関口家、そう、あの徳川家康の正室、瀬名姫の実家の一族だ。正信はそこに目を付けた。好きで武田に従っているわけでは無い連中はまだまだいる。武田領内に拠点を増やさねばならない。
正信は小太郎に策を預けて関東へと向かった。小太郎は仙台に残りゆっくりと作戦を実行していく。
片倉小十郎から報告を受けた伊達小次郎は城下に通達を出した。怪しげな菓子を見たら届け出る事、播磨の阿国一座を見つけたら褒美を出す事。城下ではしばらく突然暴れ出す輩が続出したがしばらくすると自然と治った。
「小十郎。これはどういう事だ?」
「吾郎殿によれば習慣性のある幻覚剤のようなものではないかと。菓子があったので駿河へ運んでいます。徳様なら分析できるとかで」
「徳様か。お会いした事は無いのだが春によるとすごいお方だそうだ。で、夜盗も消えたのか?」
「はい。吾郎殿によると小田原で見た忍びではないかと」
「風魔か?話には聞いたがまだ生き残っているのか?」
「吾郎殿は大屋形様に応援を依頼したそうです。一刻を争うとかで報告が後になり申し訳ないと」
それは仕方あるまい。これだけで済むとも思えんし。しかし一体どうしようとしているのか?内乱を狙うにしても東北の大名が武田家に逆らうとも思えんのだが。
小次郎の考えている事は的を得ている。当然策士である本多正信がわからないはずもない。狙いは別にあったのだ。
本多正信は阿国こと風魔小太郎の娘、おくにと穴山領に現れた。ここには勝頼の子で現将軍武田信勝の妹、夏が嫁いでいる。
「まずはここからだ。半蔵のやつが姿を現さぬから風魔という連中と連む事になったが、なかなか。これも縁」
服部半蔵はしばらく姿を現さない。正信にとっての半蔵は元々捨て駒でしかないが、手足は必要だ。正信は城下に用意された家に入った。北条家が関東を制していた名残で風魔に縁のある家だ。




