宴
大阪城の話はまだ続いています。
「真田殿。武田は不思議な武器を使うであろう。これも武器ではないのか?」
清正はしつこい。はなから疑っているようだ。
「違いまする。繰り返し申し上げますが武田は戦は好みません。これはゼンマイという武田が開発した特殊な機構を使っておりまする。もし戦を考えているならば、この機構をお渡しする事はしませんよ。あくまでも子供の玩具としてお渡しするのですから」
それを聞いて一瞬秀吉の目が光りました。幸村はそれに気付きましたが見ていないふりをしています。話はどんどん弾んでいき、徐々に幸村はこの一団と旧知からの知り合いのようになっています。
「いや、真田と言えばあの信玄公が苦労した砥石崩れの功労者と聞き及ぶ。それに真田幸村といえば小田原攻めでも活躍した武藤喜兵衛殿の子というからどんな荒武者が来るかと思えば話のわかる御仁であったとは驚くばかり。今後もよしなにお願いしたい物だ」
小早川隆景は途中から話に加わり楽しそうだ。この男はいつもこういうノリで話す。毛利元就の子でありながら早くから秀吉贔屓だったこの男、秀吉が毛利を従えるのに必要な重要人物だ。秀吉は毛利輝元の家族をこっそり処分させている。毛利を名乗ることもできるのだが、秀吉が天下を取ってからにすると遠慮している。今、毛利を名乗ると色々と反発が出る、それは得ではないという判断だった。すでに58歳、子がなく養子がいる。
黒田官兵衛は賑やかな中で冷静に幸村を値踏みしている。所詮この男は敵なのだ。敵ならば情報を取る価値はある。それまで黙って見ていたが、話し掛ける事にした。
「真田殿。先程信玄公の具合が良くないと申しておったが、お悪いのか?」
「黒田様でしたな。豊臣家の策士と聞いておりまする。お手柔らかにお願いいたします。信玄公は半年ほど前から床に伏せておられます。齢70ともなれば、と申しますか若い頃からだいぶ戦で無理をしてきた身体ゆえ衰えもいたしましょう。人生50年と申しますので長生きの方ではございますが、無理が利かなくなっておられです。今は信勝様に若き日の頃からの経験を日々語っておられます。信勝様も先人達の苦労話を聞き、民の平和に活かそうとしておられます」
「民の平和を考えるなら武田が殿下に従えばいい。そうではないか?」
「関白は関白、将軍は将軍。お役目が違いまする」
「それがおかしいと言っておる。それで民が平和になると申すか?」
「戦があれば、人が死に、作物の収穫は減り、大名が死ねば主君を失った浪人も増えます。この一年、戦は起きておりませぬ。今のこれが平和ではないと?」
「そのような理屈が通るとでも………」
そこに秀吉が、
「官兵衛!真田殿は拾の祝いに来てくれたのだ。失礼であろう」
官兵衛はおやっと思いながら黙った。
「真田殿、其方の言う通りだ。この一年、戦が収まった。これは公方の働きによるもの。大義だ、と公方に伝えよ」
「承知仕りました。それではそれがしはこれで」
「待たれよ。宿は取ってあるのか?」
「先日、武田の屋敷を大阪に建てました。今晩はそこへ泊まり明日戻ります」
「大阪に武田の屋敷?初耳じゃ。官兵衛、知っておったか?」
黒田官兵衛は初耳だという顔をしている。秀吉は一人一人の顔を見て、
「三成。お前か?」
「はい。武田より、大阪に屋敷を建てたいと申し出があり許可いたしました」
「なぜ余に伝えん?」
「武田が大阪に屋敷を建てるという事は豊臣の軍門に降るも同じ。問題は無いと考えまする」
「そんな事を聞いているのではない。なぜ余に報告をしなかったのかを聞いておる。答えよ、三成」
「殿下はお忙しいゆえ、この程度の事は報告するまでもないと思っておりました」
「武田の屋敷がこの大阪に出来るのが大したことがないと?三成、謹慎だ。しばらく大阪城へ来るでない。いやあ真田殿、お見苦しいところをお見せした。お詫びではないが、祝いの品の礼もある。今宵は宴を設ける故、関東の話でも聞かせてくれないか?」
幸村は、なんか話をうまく繋げられたと思った。これが秀吉の人誑し話術なのか。三成には可哀想だがこれも作戦。宴に誘われたら出るようにと勝頼に言われてきているしこれは風に逆らわずに行きましょう。
三成は下を向いてブルブルと震えている。幸村はその様子を見ながら、
「関白殿下。折角のお招きですので是非にお願い致します。こちらは田舎者ゆえ失礼があるかもしれませんがご容赦下さい。三成様は宴には?」
「出さん。清正、真田殿の接待を任せる」
加藤清正は幸村を信用していないのが顔に出ていた。それがわかっていて秀吉はあえて清正を指名している。三成は黙って席を立ち、部屋を出る時に一礼してから去っていった。怒りを抑えているのが見え見えだ。
宴の準備をしている間、秀吉は官兵衛と2人で話している。
「あれでよかったのか?」
「三成の事か。あやつを養子にしたのは失敗だった。拾が産まれた以上、三成の出番は無い」
「それならば本人にそう言えばよかろう。あれでは三成が可哀想だ」
「あやつは小早川にでもくれてやろうかと思っている」
「小早川には子はないが養子がいるぞ。それはそれで一悶着あるのではないか?」
「もう決めた事だ。あとは自然にそうなるように仕向ければ良い」
官兵衛は秀吉の気が変わる事を期待したがダメそうだ。秀長様がご病気でなければ諌められるものを、と思いながら宴に向かった。




