風魔再び
秀吉のところに風魔小太郎が現れた。風魔には瀬戸内海の無人島を一つ与えてある。その島の隣には小早川隆景の造船所が造られていた。小太郎は北条水軍の生き残りを集めて小早川水軍の勢力として加えさせた。そして風魔は造船所の警備も行っている。
風魔の島も造船所がある島も外海から近づくのは容易ではない。無数にある島群から見つける事は不可能であろうが、小太郎は警戒を怠らなかった。武田軍の恐ろしさをその身で感じた事があるからだ。特に空からの偵察には気を配っている。海からは近づけない、見えなくても空からでは容易なのだ。それを小太郎は自らが実施して感じた。空からの景色は驚くものだった。風魔の生き残りは少ない、少ないからこそ精鋭部隊にならなければならない。秀吉に必要だと思わせなければ一族は生き残れない。小太郎は態度には決して表さないが、実際は必死である。それに武田は仇でもある。
「なんだ小太郎。珍しいな。ちょうどお主に頼みたい事があったのだ」
「そう思ったので来たのだ。武田が将軍になったそうだな」
小太郎は秀吉に対しても強気だ。決してヘコヘコはしない。頼りになると思わせなければならないのだ。
「お主が来るという事は大方片付いたのだな。甲賀も使っているが、監視する範囲が広過ぎてわしの目が足らん。しばらくそばに居てくれ」
「わかった。で、何をすればいい?」
「細川に武田の調査を頼んだのだがどうも不安でな。京や公家には顔が効くから便利な男なのだが」
「あれはどうした?本多正信だ」
「正信ならここ大阪城にいる。武田を屈服させる策を練らせておる」
「本気で言っているのか?」
秀吉はニヤリと笑った。何か策があるのだろう。その上で配下にも考えさせているようだ。武田は屈服する事はないだろう。手際よく将軍になった事実は大きい。屈服するなら将軍にはなってはいないということだ。
「わかった。武田が将軍になった背景と京の武田の動きを調べよう」
「さすがは風魔小太郎。見事な読みだ。お主のような奴が大勢いれば助かるのだが」
「珍しく弱音を吐くな。あれはどうした?後継にした三成とかいう奴だ?」
小太郎は石田三成、今の豊臣三成にはあった事はない。いい噂は聞こえてこないのが実情だ。小太郎は秀吉が死んだ後のことも色々と考えている。一族の長として変化に敏感に対応していかねばこの戦国は生き残れない。
「あれは、わしが早まったかもしれん。悩みどころの一つよ」
「殺してやろうか?」
「ならん」
「わかった。では行くぞ」
風魔小太郎がすっと消えるように居なくなってから、三成を殺すと言った小太郎に恐怖を覚えた。その発想は無かった。殺してどうする?そこに、
「兄者、今のは誰ですか?」
「小一郎、聞いていたのか?」
「最後の方だけです。随分物騒なお話でしたな」
現れたのは秀吉の弟、豊臣秀長だった。秀長は今回大納言という位を貰っている。無茶をする秀吉の抑え役でもあり、配下のまとめ役、いわゆる番頭さんだ。秀吉は一部始終を話した。秀長は黙って聞いていたが、
「一つだけ確認させて下さい。三成はこのままですね?」
秀吉は大きく頷いた。秀長はそれが永遠なのか、一時的なものなのか聞く事ができなかった。
後藤信尹の屋敷では細川幽斎が、後藤の問いに思い出したように答えます。
「そういえば、我が忍び以外にも調査している連中がいたようです。敵ではなさそうなのですが正体がわからないと言っていました」
「細川様の忍びはどこのものですか?」
「長年足利将軍家に仕えていたものの末裔です。忍びの技に秀でているわけではありませんのが、それなりの力はあります」
「そうですか。秀吉様は細川様を信頼はしておられますが信用はしていないということです。細川様の裏を取っているのかも知れませんが、おそらく秀吉様直轄の忍びでしょう」
「なんと仰られる!」
「そんなに怒ることではないですよ。組織が大きくなれば人が増えます。秀吉様は人を使うのに長けているお方です。ですが、人の言う事を鵜呑みにするほど単純に物事を考えてはいません。ですが、話の中の機を感じるお力が優れているように思われます。機を逃さないでやってきたからあそこまでなられたのでしょう。ですから裏を取るのは当たり前とお考えになられた方がいいと思います」
「後藤殿は真の知恵者でござるな。それで、その、武田を屈服させる手立てを考えねばならないのだが、どうしたらいいだろうか?」
「それはそれがしにはわかりません。細川様は武田勝頼をご存知で?」
「ああ、足利義昭様に付いていた時に会った事がある。大将に相応しいお人だ」
「そうですか。それがしは会った事がないのです。ですが、話を聞く限り、武田が将軍になったという事実から考えれば無理でしょうね」
「それではここに来た意味がないではないか?助けてくれ、後藤殿。頼む!」
信尹は秀吉の本心がわからなかった。この男にそんな知恵はないし、誰が考えても武田を屈服させる事など不可能、いや、もしや?
「勝頼が死んで信勝だけになればどうですかな?」
幽斎は頭に稲妻が落ちたように衝撃を受けた。
「そ、それなら………、いえ、後藤殿。信勝殿も勝頼殿に負けないくらいの器量であったのです。おそらくはそれだけでは」
そうなのか?それは秀吉も知っているだろうからそれが狙いではないと言うことか。となると、秀吉の真の狙いはなんだ?




