謎を解かねば
3か月が過ぎた。秀吉は関白なのに禁裏へは出向かない。関白としての公事は九条家の者を連絡係兼代理として適当に行うようにさせた。元々帝になんやかんや言う権限はないのだ。権限はないが資格があるだけにややこしくなる。ならば、話を聞かなければいい。国の象徴としてのんびり美味い物でも食って遊んでいろ!
あの日、大軍を率いて京へ入ったのは民へ豊臣の権力をアピールするためだった。結果、それは成功したが新たに将軍が誕生してしまった。京の連中は武田を知らないのではと思っていたが、なぜか武田勝頼の名前は有名だった。京の連中は武田が将軍になって喜んでいるのだ。帰り道、それを雰囲気で感じ
「幽斎!どういう事だ?」
「すぐ調査いたします」
細川幽斎は京の屋敷に戻り調べ始めた。幽斎でさえ武田に人気がある事は知らなかったのだ。結局あの場は信勝という小僧にいいようにやられて表向きには鎖国をしなければならなくなった。だが、九州に領地を持つ島津、加藤はそれを不服とした。島津は独自のルートを持っていいたし、加藤は与力の立花から大友宗麟が異国から大筒を手に入れていた事を聞いている。今後の戦に南蛮の武器は必要だと考えている。帝は来年から鎖国を止めるように言った。やめた事をどうやって確かめるというのだ。九州まではこれまいて。
帝は戦をやめるように言ったがそんなのはいつもの事だ。口だけならなんとでも言える。今、日ノ本が戦国なのは誰のせいだ?国に力がないから、皆が好き勝手に振る舞ったのだ。その結果、戦が絶えない。それを棚に上げて偉そうに言いやがって。戦がなくなったらつまらないだろう。それに戦があるから豊臣の世は続くのだ。
秀吉は大阪城にいる。西国の大名には大阪に屋敷を持たせ家族を人質に置かせた。力で制御するのが織田信長から学んだやり方だ。今でも信長に怒られた事を思い出す時があるが、逆らう気が起きないほどの一方的な圧力だった。関白に逆らう気が起きなくするための人質だ。ところが、尾張から東の大名は大阪に屋敷を構えない。駿府に屋敷を構えている。しかも駿府には人質を置くことを強要していない。それなのに大名は率先して妻子を駿府に住まわせているようだ。これも気に入らない。
幽斎は京で武田の噂を流している輩がいる事をやっとの思いで突き止めた。兵を集めてその輩を捕まえようとしたが、家はすでにもぬけの殻だった。その事を秀吉に報告すると、
「武田を屈服させる方法を考えよ!」
とまた無理難題を突き付けてきた。あの武田が、帝を上手く使ってとしか思えない程の策士で力もある武田が秀吉に屈服するとは思えない。武田が将軍になるとは思ってもいなかったし、情報も無かった。五摂家の連中も誰1人知らなかったと言っていた。ではどうやって帝に接触したのだろう?禁裏に忍びを配置して見張らせたが異常の報告は無いし、なぜ帝が突然武田を将軍に指名したのか、あの場に武田が現れたのかがわからないままだ。
困った時の信尹頼み、幽斎は再び後藤信尹を頼った。信尹は京を抑えた褒美で大和を治めている。あの松永久秀が治めていたところだ。信尹は城では無く屋敷を建てて暮らしている。どことなく躑躅ヶ崎の館に似ているのは気のせいか?城を建てない後藤の事を領民は慕っているようだ。幽斎はその屋敷を訪ねた。
「後藤殿、八方塞がりでござる。是非お知恵をお借りしたいのです」
幽斎は、明智十兵衛の娘を嫡男の嫁にするために後藤信尹の知恵を借りた。だが、結果として上手くはいったものの幽斎は秀吉に逆らう事ができなくなってしまった。だが、今回も助けを求めるしか無かった。
「いきなりでございますな。噂を聞いております。それがしの助言の所為で肩身が狭い思いをされているとか」
幽斎は焦る。確かに何度かぼやいた事はあった。
「そのような噂をどこから?」
「街の噂です。ですが実際にそうなっていますね。ですが、どう転んでも今の関白様に逆らう事は無理でしょうから結局は同じ事です。そうお考えになられたから、再びそれがしのところへ来られたのではないですか?」
その通りだった。結局西にいては秀吉には逆らえない。
「さすがは後藤殿。その通りです。あの前田利家、加藤清正が信頼する知将、素晴らしい読みでござる」
「お世辞はあまり好きではないのです。ところで本日のご用件は?」
幽斎はここ数ヶ月京で起きた事を説明した。秀吉の無茶振りもだ。
「武田が将軍になったのは聞きました。あの上杉、織田を従えているのですから凄いお方だとは思ってはいましたが、まさか将軍になられるとは驚くばかりです」
「そうなのです。それも謎なのです。どうやって帝に取り行ったのか?そして京の町衆が武田贔屓なのも謎なのです」
「細川様が忍びまでお使いになられてお調べになった事をそれがしに聞かれましても流石にわかりませんが、」
「が、なんでござる?」
「秀吉様が細川様だけに調べさせているとは思えませぬ。何か気がついた事はありませんか?」
幽斎はそんな事を聞きにきたのではないと思いつつも、そういえば、と思い出した。




