武田信勝
勝頼は信勝の話を黙って聞いて聞いている。徳が信勝の話し方を
「教育するだわさ!」
と言ってこの1年、英才教育を実施していた。何やら昔、三雄からの資料に『人の心を鷲掴み!リーダーが読むべき本』 というのがあったらしくそれを教えるというのだ。書き写したのは勝頼なのだが全く覚えてはいない。なんせ教科書を写すだけでも一苦労で無茶苦茶時間がかかったのだ。だがその苦労があったから今の武田がある。
徳の教育講座はそれだけに拘らず、様々な分野の知識を色々な人間に施した。遠江にある高天神城、そこの開発基地とは離れた場所に武田学校という合宿所が建てられ、徳、竹中半兵衛、真田幸村が講師となって教育をしている。信勝は毎月一週間は合宿所に寝泊まりさせられた。
正室の茶々はお市と駿府に引っ越している。最近体調が優れない信玄の看病に忙しい。
徳は睡眠時間を惜しんで教育、開発に明け暮れている。最近見つけた昔昔に勝頼が写した紙に24時間働ける、という言葉があって、夜は寝るものと決めつけていた徳は目の鱗が取れたように働き出した。勝頼がその事を子孫の寧々に言うと、
「勝頼さん、一体いつのCMを写したのですか?それはサラリーマンが残業規制やらサービス残業やらにうるさくない時代の言葉で、今の日本ではブラックと言われちゃい………、戦国だからいいのかな?とにかく徳さんには休息を取るのも仕事と言ってください。いいですね、仕事、と必ず言ってくださいね!」
と言われて、徳にいうと
「時間がもったいないだわさ!」
と抵抗していたが、休むのも仕事と言ったら、
「仕事なら仕方ないわね。わかったわ。寧々さんにお礼を言っておいて」
と簡単に受け入れた。勝頼は改めて人の説得にはやり方があるのだなと感心した。信勝はうまく話を進めている。大した者だ。
それはともかく、ここは禁裏である。信勝に問われた秀吉は、子が出来ぬ事の苦しさを改めて感じた。第二第三の秀吉なんて論外だ。そんなのは蹴落とすだけだが、未来はどうなる?わしが死んだら?その時の事を考えて三成を養子にしたのだが、家臣は三成と距離を置いているように見える。このまま何事も無ければ豊臣は三成が継げるだろうが、その時の天下人は………、恐るべしは後陽世天皇。そこまで考えての二代将軍か。いや、そこまで知恵はまわるまい、近衛か、それとも………。秀吉は少し考えてから答えた。
「第二第三の者は現れない。余が関白になったのだ。今までの名前だけの関白ではない。多大な領地、武力を持つ関白だ。そのような者は関白の名において叩き潰す。位でいえば余の方が将軍より上だ。将軍とて逆らえば潰す」
「関白様。戦を無くすのが帝の命令でございます。日ノ本の武家の棟梁はこの私、武田信勝です。日ノ本の平和のため、民の平和のために邁進して参ります。先程関白様は異国との戦の話をされておりました。ま・さ・かとは思いますが、異国まで攻め入るお考えか?」
「奴らは攻めてくるぞ。ならば先に攻めるべし。戦は先手必勝、将軍はお若いからわからぬのであろう。のう、勝頼殿?」
秀吉は分が悪いので話を勝頼へ振ってきた。勝頼は、
「武田家の棟梁、そして将軍はこの信勝でござる」
その一言だけ、部屋全体に響くような大声で答えた。それを信勝は何も無かったかのように話を続ける。
「異国との戦ですか?長く続く戦国の世、そのせいで民は疲労、疲弊しております。私は東国を武田の配下にすべく周り、各地の民の暮らしをこの目で見てまいりました。多くの人が亡くなり生活に苦しんでいる。領主は戦のため、働ける男を戦へと招集します。百姓仕事ができなくなっているのに年貢も取り立てます。一家の大黒柱が居なくなり苦しんでいる者が沢山おります。武田では早くから武士と百姓を分けて戦に家族の稼ぎ頭を繰り出す事はやめていますが、それでも戦をすれば人が亡くなります。異国と戦うのにどのくらいの兵力が必要でしょうか?」
信勝は秀吉を見て聞いた。秀吉は、
「今のわしなら10万の兵はすぐに集まる。武田からも兵を出してもらう」
「その戦で得る物は何でしょう?」
「高麗、明国、全て帝へ差し上げよう。武田の不思議な船を使えば勝利は決まったような物だ」
「嫌でございます」
「何と申す?」
「繰り返し申し上げますが、帝は戦を無くすように仰せです。それがしは鎖国を提案いたします」
秀吉はしまったと思ったが遅い。この小僧に乗せられて言わなくてもいい事を言ってしまった。話を変えたいが………、
「公方よ、鎖国とはどういう意味であるか?」
急に黙ってしまった秀吉に変わり帝が発言した。信勝は作戦通り話が進んでいる事に満足しながら、
「はい。鎖国とは国を閉ざす事を申します。異国との貿易を禁止するのです。異国からは鉄砲や大筒のような武器、火薬、鉛が日ノ本に入ってきました。それらは戦のやり方を大きく変えてきました。ですが、その代償は大きくキリシタンが現れました。私はキリシタンではありませんが、信仰は自由だと考えています。誰でも困った時に神や仏に願う事はあるでしょう。ただ、かつての一向一揆のように国の秩序を乱す、法から外れる行為は見逃すことができません。信仰が戦に繋がるのは事実、キリシタンが戦の火種になるならこれ以上広まらないように抑えなければなりません。関白様が仰るように異国が攻めてこないように戦をやめて国力を増やすのです」
帝は、
「あいわかった。異国の物は珍しく価値があると聞いているがこの国に攻めてくる事も考えられる。関白は先手必勝といい、公方は防御し国力を高めるという。今、この場に皆が揃っているのも天運であろう。朕はここに宣言する。来年から鎖国する。異国と貿易は禁ずる」




