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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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武家関白

 帝、後陽世天皇は戦を好まなかった。平和な世界にしたいが自分には権力があるような無いような。戦をやめろと宣下しても何も世の中は変わらない。帝の言葉は重いのです、軽々しく指示などを出さないように、と忠臣達に言われてはいるものの実態のない権力だと理解するのに時間はかかりませんでした。


 即位する前からなんとなくわかっていた事が現実になっただけなのですが、失望感は消えません。即位して1ヶ月後、関白である近衛信尹からの報告で一条家の養子になった木下秀吉に豊臣の姓を授ける事になったと聞いて、好きにしたらいいと投げやりに応えました。近衛は残念そうな顔をしていましたが、朕になにができるというのだろう。禁裏に大量の寄付という名の賄賂を配り、五摂家を傀儡にしている秀吉に。


 歴史を見ても武家が政治を行うようになってから朝廷は権力を保てなくなっています。誰が天下を治めてもそう変わりはないと悟っていたのです。




 ある日の事です。夕餉をとり、風呂に入り、書物を読みといういつものパターンの1日が終わり、寝床に入ろうとしたその時、


「ご無礼ながらお伝えしたき事がございます」


 耳元で声が聞こえました。女の声です。ところが部屋には後陽世天皇しかいません。


「物の怪か何かか?朕を襲っても何も得るものはないぞ。所詮お飾りの帝じゃ」


「物の怪ではございません。武田勝頼の手の者でございます」


「ほう、あの武田か。関白から聴いておる。京の町がだいぶ世話になったそうだな」


 勝頼は近衛家を通じ、禁裏の改修工事や京の道路整備、橋の工事費用を寄付していた。その様子は帝に報告されている。


「武田は京までは来れないようだな。十兵衛の後は秀吉とやらが威張っておるようだし。一度会ってみたいものだが」


 その声を聞いて女は姿をあらわしました。突然後陽世天皇の3m前に現れ平伏している。


「ありがたきお言葉にございます。今日はご挨拶を兼ねてお伝えしたき事が1つございます」


 後陽世天皇は驚きながら平静を保って、


「申してみよ」


 女は帝と話し始めた。話は1つのはずだったがなかなか終わらなかった。帝があれこれ突っ込んで終わりが見えない。





「そのほうの話は面白い。次はいつ参る?」


「ご要望でございますれば毎夜でも」


「それは楽しみじゃ。で、そなたが伝えたかった例の話。明晩までに考えておく。そうか、武田か」


 そう言って前を見るともう女はいなかった。後陽世天皇は寝るのをやめて、


「朕は帝である。なにもかもは好きにはさせん」


 と独り言を言って、思慮にふけった。





 その日、大阪城から一万の軍勢が京へと向かった。途中で兵は千人単位で分かれて様々な趣向を凝らした衣装に着替えている。まるでパレードである。そしてゆっくりと京の町を進んでいる。京の町衆は、


「あれはなんだ?」


「噂が出ておったろう。秀吉が上洛すると」


「昔、信長の下でヘラヘラしておったあの秀吉かい。偉くなったなあ」


「京の町が穏やかであれば誰が治めてもいい。もう戦は懲り懲りだ」


 町衆の会話が飛び交う中、派手な色使いの衣装を着た馬群、歩兵がねり歩きその後をキンキラキンの光り物を羽織った男が馬上にいる。秀吉である。その周りを本多正信、細川幽斎他護衛の旗本が囲んでいる。周囲は黒い衣装を着ているため、秀吉のキンキラキンがより一層目立つ。


「幽斎、大義じゃ。見ろ街の衆を、皆驚いておる。これからわしに屈服する連中じゃ。わしに従えばいい生活ができると思わせるのだ」


「はっ、皆秀吉様のご威光に驚くばかりでございます」


 上機嫌な秀吉におべっかを使う幽斎を本多正信は冷静にそれらを見ている。街衆の動きもだ。ここで武田に襲われる事もあると、一週間前から道中周辺の警備警戒を強化している。それでも変な武器を使う武田だ、仕掛けてくるかもしれん。


 本多正信は、以前偽名を使って明智十兵衛配下となり、京や堺では一悶着起こした。顔が割れているため、頭巾で顔を隠している。秀吉に同行断りを入れたが却下された。顔が似ている別人で通せというのだ。そうはいってもと、顔を隠す許可だけはもらった。


 特に変わった事も起こらずに禁裏に着いた。中に入れるのは秀吉と幽斎だけだ。誰でも簡単に入れる場所ではないのだ。門の前で二条昭実が待っていた。一条家の者は出迎えをしなかった。一条の姓を捨てると聞き面白くないのだろう。


 中に入り待機部屋で少し待った後に呼び出しがあった。帝との面会だ。幽斎の手筈で豊臣の姓とともに関白を拝命することになっている。秀吉たちは官服に着替えて帝の部屋に入った。正面に帝が座っている。そして五摂家の代表が控えるように座っていた。上座に座っているのが関白の近衛信尹のようだ。秀吉は帝の正面に座り平伏した。その後ろに幽斎が座った。近衛信尹が話し始める。


「此度、帝の命によりそこの者、一条の秀吉に豊臣の姓を授ける。控えて拝命されるように」


 帝が手を挙げ、書面を持ち、近衛信尹に渡した。それを秀吉に手渡した。元の位置に戻った近衛は続けて


「加えて、豊臣の秀吉に関白を与える事となる」


 そういうと再び帝が手を挙げ書面を近衛に渡した。書面は2通あり、1つは近衛信尹への離職命令だ。近衛信尹は秀吉に関白の拝命状を渡し、下座へ席を移した。


 秀吉は帝に一礼してから、さっきまで近衛信尹が座っていた席へ移った。秀吉の目指す武家関白がここに誕生した。日ノ本の歴史を変えたのだ。自然と笑みが溢れている。


 細川幽斎は冷や汗だらだらだったが、ホッと息をはいた。何事もなく終わったのだ。長かった、と思ったところに帝が、


「朕より皆に話がある」

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