祖父様の話
少し前の事。武田信勝は天海を連れて清洲城を出ようとしていました。勝頼は天海を信勝のご意見番に据えたのです。これは事前に信玄と相談して決めていた事です。とはいえ、実際に天海に会ってみないと結論は出せない。なんせ相手はあの明智十兵衛、足利義昭を支えていた時からおかしな行動を取ってきたあの男ですから。勝頼は今回天海と話をして、勝頼なりに納得しました。そして予定通り進める事にしたのです。それが今後どう影響するのかは誰にもわかりません。信勝達2人が本丸の門をくぐり二の丸へ入ると、そこには待ってましたとばかりに
「魔神組一番、あい」
「魔神組二番、ひなた」
「魔神組三番、りか」
「魔神組四番、みれい」
「魔神組五番、りこ」
『5人揃って、魔神ゴー!』
特殊部隊ゼット、チーム戊の面々が懲りもせず声を上げて名乗りながら変なポーズをとっていた。信勝と天海はお互いの顔を見るが、双方とも不思議な顔をしている。天海は
「お屋形様。この衆はなんでございますか?」
「思い出した。前に信平が言っておった、そうそう、不可思議な道具を操る奴らだ。武藤喜兵衛の配下と聞いている。お主ら、この間も待っておったな。余に何か見せたいものでもあるのか?」
『はい!』
許しを得られたと思い早速準備にかかる5人の仲間達。あいが声をかける。
「いっくわよー!ほいきた」
「あらさて」
「呼ばれて」
「飛び出て」
「どっこいしょ!」
なんじゃそりゃ?信勝は真面目だ。こういうノリには慣れていない。信勝は今川義元の娘、彩の子だ。由緒ある大名同士の子で、それなりの教育を受けている。しかも長男、嫡男としての英才教育を。母もどきである異色の徳を見ていて多少免疫はあるもののあまり得意ではない。ただ勝頼からお屋形様というのは、多くの部下を持つ。それは色々な奴らがいる。そいつらそれぞれに公平に接しなければならない。平等ではない、公平にだ、と言われていた。そう言われてなんとなくわかったようなわからなかったような感じだったが、ここはこいつらの行動を見るべきだという事はわかる。彼女達は何か必死に準備してくれたのだ。ここで披露する事に大きな意味がきっとあるのだ。それは見ないと彼女達のやる気に影響するだろう。
武田は勝頼の時代に大国となった。美濃から東側の日本はほとんど武田、もしくは同盟国の領地だ。譜代の部下達が大名として各地を治めている。それらを公平に取り扱わねばならない。今の自分があるのは信勝の功績ではない。だが、今の当主は信勝なのだ。若輩なのは理解している、今は経験を積む時だ。
駿府に滞在時、祖父の信玄と話をしていたら、こんな事を言われた。
「わしは父上を追い出して家督を奪い取った。それはそうする事が家臣や民の為になると信じていたからだ。父上はそれをわかってくれた。わしは恵まれていたと思う。家臣に恵まれ、子も立派に育ってくれた」
「祖父様、今の私は恵まれすぎていると思っています。先日、父上の東北攻めに同行いたしました。そこで各地の国衆や民の生活をこの目で見てまいりました」
「勝頼は武田を大きくした。あいつは甘いところがあるが、それもあいつの良さだ。あいつも恵まれているよ。兄が蟄居したのは勝頼が何かしたからではないが、運命だったとも言える。それに徳、市、あんな嫁はなかなかもらえるものではない。それに真田兄弟を含む部下も優秀だ。だがな信勝、天下を取るには天運が必要だ。恵まれていると言う事は天運があると言う事だ。お前はその天運をどう使うかを考えるといい」
「天運、ツキがあると言う事ですか?」
「それもある。織田信長が今川義元を討てたのは雨が降ったからだ。それも運。雨が降らずとも勝てるように仕向けてはいたがな」
そう言うと信玄は、しまった、口を滑らしたという顔をしたが、そのまま話を続けた。
「恵まれている事を最大限に活かす、それにはどうしたらいいか、どう行動するのが最善なのか?お前の指示には部下や民の生活に大きな影響を及ぼす力がある。軽い気持ちで話した事で戦にだってなり得る。だがな、それをうまく利用する事もできるぞ」
「利用ですか?」
「あの秀吉は恵まれてはいなかった。百姓の生まれで信長のところで草履取りをしていたそうだ。それが今では西国を治める大大名。努力を惜しまず、機を逃さず、休む事なく働いたのであろう。だがそれができたのも天運あっての事。信長の機嫌が悪ければとっくに命を落としていた。秀吉は人を操るそうだ。相手をその気にさせて実力以上の働きをさせる。手強いぞ、お前の敵は」
信勝は考え込んでいる。信玄は続けた。
「信勝。お前はお前なりに今の立場を最大限活用する事を考えろ。勝頼はまだ前線を退く気はないし、いざとなればわしもいる。戦も大事だが、その後の方が難しいぞ。いつか近いうちにお前の時代が来る。その時は武田が天下を収めているであろう。そこで部下、民が豊かになる政治ができるか?それはお前次第だ」
「祖父様………、」
信玄には信頼できる家臣団がいた。勝頼にもだ。家督を継いだばかりの信勝には甲斐勢を中心とした旗本はいるものの軍師にあたる者がいなかった。
信勝と天海がチーム戊の動きから目を離さずに見ていると、その様子を陰から見ていた者がいた。信勝はそれには気が付いていない。信勝には当然ながら武田忍びの護衛が付いている。護衛が動かなければ危険はないし、ここはまだ清州城の中だ。
そして台車に乗って何かが運ばれてきた。




