敵か味方か
大久保信正の突撃の掛け声で、根来衆が一斉に本能寺に向かって走り出す。その中には槍を持った服部半蔵もいた。
「大筒だ。放てー!」
信正の掛け声とともに火縄がかけられた。標的は本能寺だ。砲撃で驚く本能寺に兵が乗り込んで一気に制圧する作戦だ。
『ドーン!』
轟音が響き渡る。砲弾が弧を描いて本能寺へと飛んでいく。そしてその砲弾は本能寺の前上部に着弾した。物凄い衝撃が建屋内を襲った。
「なんだなんだ?」
明智十兵衛は慌てて立ち上がろうとするが振動でこけてしまう。なんとか起き上がり襖を開けるとそこには見知らぬ黒装束の女がいた。
「な、何奴、グア!」
女は刀で思いっきり十兵衛を斬った。峰打ちなので叩いたというのが正解か。そして気絶した十兵衛を担ぐと後ろに隠れていた仲間に十兵衛を渡した。
「隠し通路から脱出しなさい。私は後から行きます」
大筒の砲弾は木造の寺を確かに直撃しました。ですが、思ったほど寺は崩れていません。十兵衛は衝撃で倒れたのです。攻撃側は作戦通り明智十兵衛の首を取るべく砲撃で混乱しているであろう寺に突入しようとしています。ところが、寺の反対方向から兵が進んできます。根来衆が動揺する中、服部半蔵は構わず突入しようとしました。
「構うな、狙うは十兵衛の首のみだ!」
半蔵の掛け声で勢いが弱まった軍勢が再び加速します。その軍勢に向かって矢が放たれます。
『うわー、グエ!』
根来衆がバタバタと倒れていきます。ここは街中で本能寺までは一本道、もうすぐそこまで来ています。ですがこのまま進んでも敵にぶつかってしまい寺へ入れそうもありません。半蔵は忍びらしく民家の屋根に乗り、別ルートを選択しました。
『ドーン!』
2発目の砲弾が放たれました。根来衆が到着する直前に着弾するように事前に計画されていた砲撃です。実際は根来衆は足止めされています。砲弾は寺を破壊………、できていません。半蔵が寺内に入るとそこには見たことのない壁がありました。
真・本能寺。木造の建物は外側だけの見せかけで、途中に鉄の板が張り巡らせていました。砲弾は外側の木造りの部分は破壊しましたが、鉄板にぶつかっただけで建物は崩れなかったのです。鉄板の上に壁が張られていて外側からは見えないようになっていました。
半蔵は今、その壁を見ています。なんだこれは?ただの寺ではないのか?しばらく呆然と立ちすくしていましたが我に返り寺へ入っていきました。作戦では砲弾は2発、これ以上は飛んでこないはずです。
「明智十兵衛、どこだー!」
「その声は服部半蔵だな。ご苦労な事だ」
「か、影猫殿?なぜ、ここに!」
「お主が来ると思って待っていた。どうする?お屋形様はお主を何も言わずに放免した。こんなにすぐに再会するとは思わなかったがこれも運命。どちらにつく?」
半蔵は脳みそ混乱中だ。影猫は武田勝頼の忍び、しかも相当の手練れだ。そんな奴がなんで本能寺にいるのか?
「十兵衛はどこだ?」
「死んだ。私が斬った」
「首を寄越せ!」
「それはできん。お主には選択肢がある。ここで死ぬか、こちらに来るか、だ」
「十兵衛、いや十兵衛様は本当に死んだのか?」
「そういえばお主は十兵衛が二重人格なのは知っていたな。私が斬ったのは攻撃的な十兵衛だ。この刀は神滅刀といって、徳様が設計し、鍛治師が毎朝諏訪大社にお参りして製作した精神を斬るという刀だ。理屈はわからないが徳様が精神を斬るというのだから斬れるのだろう」
「徳様。ああ、あの奥方か。さほどにすごいお方なのか?」
「ああ。それはともかくどうする?あまり時間はないぞ!」
根来衆を攻撃したのは十兵衛が念のためにと配置していた護衛の兵だった。その数は五十名と少ないが街中の警護としては十分な数だ。根来衆はなんとか持ち直し寺へ進み始める。
砲撃の音は京の都に響き渡った。その音はすぐ近くまで来ていた後藤信尹の耳にも届いた。
「この音は宗麟様が使っていた大筒ではないか?全軍、全速で京へと入る。目標は本能寺だ!」
後藤信尹率いる五千もの大軍が京へと入った。それは怒涛の如く進み、邪魔できるものはなかった。そしてそれは、大久保信正の陣を襲い大筒を回収、そのまま本能寺へと向かった。
本能寺では明智十兵衛の兵と根来衆が戦っていた。そこに信尹の兵が乱入し一気に制圧した。
後藤信尹は、二条御所へ使者を出し反乱を抑えるための進軍であり他意はない事を朝廷に伝えて、周囲の状況を調査させた。
・明智十兵衛はこの本能寺に来ていた。そして首のない死体がころがっていた。身なりや身につけているものから明智十兵衛と思われた。首は見つかっていない。
・反乱を起こしたのは大久保信正という男のようだ。信正の死体は大筒の近くに転がっていた。仲間に討たれたようだ。
明智十兵衛が京で討たれたという話は言いふらした訳では無かったが、翌日には京に住む人たちに広まっていた。街中のドンパチである、人の口は塞ぐことはできない。
そして前田利家が本能寺へ入った。




