敵は本能寺に ってそれ2回目
明智十兵衛は寺の中に入った。住職が出迎えてくれている。住職は人の良さそうなおっさんだった。案内されたのは和室で、特に取り柄のない普通の宿泊所のようだ。
「ご住職。武田勝頼にしては普通の部屋だな」
十兵衛は素直に感想を言った。大名集結の時の勝頼を思い出すと腹ただしいの一言だ。だが、自信に満ち溢れそれが見た目にも行動にも出ていた。その勝頼が建てたにしてはあまりにも普通だった。
「ここは普通の寺でございます。お金が武田様から出ているだけですよ」
住職は普通に答えます。住職が去った後、十兵衛はそんなはずはないと散策という名の調査をしようとしたが、次から次へと面会や書類が回ってくる。場所が変わっただけで仕事が無くなった訳がではないのだった。仕方なく仕事を始めた。現実は厳しいのだ。
本能寺。立て直したのは大工だが、設計には徳が絡んでいた。そう、ただの城、じゃない寺ではない。いつか武田家が京で何か事を起こす時に拠点となるべく設計されているのです。本能寺が燃えたのは徳の火炎放射器の暴走が原因でした。本人曰く不可抗力でしたが、ただで転ばない女、それが徳です。どうせ建て直すのなら…………だわさ、と言ったかどうかはともかく新しい本能寺は出来上がりました。その本能寺に徳が嫌いな明智十兵衛が泊まるなんて、人生何があるかわからないですね。
その頃大久保信正は、根来衆を集めていました。十兵衛を本能寺へと追い出す事に成功しました。十兵衛を亡き者にし、混乱している京を毛利家家臣に抑えさせるというのが秀吉と考えた作戦です。これを実現させるために数年前に明智家に入り込んだのですが、具体的にどうするかは決まっていませんでした。決起の機会がどう訪れるのか?その時に準備は間に合っているのか?明智十兵衛配下になってからずーっとこの機会を狙っていました。何が起きても対処できるように様々な方向に根を伸ばしています。そしてその機会がやってきたのです。直江兼続とやらの一通の手紙がきっかけになって。
堺の制圧、明智家臣の調略、周辺国衆の調略、ちょうどいいこのタイミングに、前田利家の軍が近くまで来ているのです。こんな絶好機はそうそうあるものではありません。まさに天運です。それに乗らない馬鹿はいません。
「今晩、本能寺を攻める。十兵衛に気付かれてはならん。今日なら警備も甘いだろう」
大久保信正が服部半蔵に向かって言います。半蔵は2日前に戻ってきていました。
「山影も今は堺に行っている。今なら確かに手薄だろう。だが、十兵衛が討たれたとなれば京は混乱するぞ。大久保殿がその後の指揮をするのはわかるが、誰に討たれた事にするのだ?」
半蔵は十兵衛に言われて山影の代わりに武田へ使者として行っていましたが、その事は大久保には内緒にしていました。東国の調査という理由で京を離れていた事にしています。
「山影か。あやつとお主は仲がいいのだろう。いいのか?」
「いいも何もわしは大久保殿についていくしかないのだ。三河を出て拾ってもらった恩は返さねばならん。それに十兵衛が居なくなれば山影も行き場を失う。その時に説得できればよし、ダメなら仕方なし。それよりも本当にうまく行くのか?」
「十兵衛を討ったらすぐに前田利家に使者を出す。近くまで来ているはずだからそのまま京の治安維持という名目で兵を置いてもらい、わしと一緒に関白と会う。そして秀吉を京へと導く。後は秀吉が考えるだろう。お前は武士になりたがっていたが、秀吉に録がもらえるようにしてやる。わしの部下よりもそっちの方がいいだろう」
半蔵の目が輝いた。半蔵は大久保信正、いや本多正信が怖かった。できれば離れたいのだが今は難しい。半蔵は諏訪原城の牢に入れられて尋問を受けた。だが、拷問は一切なく旨い飯を食わせてもらい、質問も答えられる範囲で答えれば良かった。その内に好きにしろと言われて解放されたのだ。武田家にも興味を持ってはいる。そこに秀吉の配下という餌が転がってきた。
「それは結果を出してから考えるとする。それよりわしが心配なのは十兵衛を討ったのは誰かという事だ。京で十兵衛が討たれるという意味は身内の裏切りを意味するのではないか?大久保殿が疑われるぞ」
「そこに気づいたか。さすがは服部半蔵、長い付き合いだけの事はある」
「策士なのは知ってはおるが。どうするつもりだ?」
「ちょっと耳を貸せ」
「………………、まさか!最初からそのつもりだったのか。恐ろしい男だ」
だが、それはうまくはいかない。でもここでそれを言うわけにはいかない。半蔵はそのまま準備に入った。
夜になった。攻めるのは丑三つ時だ。本能寺から200m離れたところに大筒は配置された。堺にあったキリシタンの船から押収したものだ。そして根来衆200名が槍隊と鉄砲隊に分かれて突撃の準備をしている。大久保信正は、皆に向かって言い放つ。
「敵は本能寺にあり。明智十兵衛の首を取り、前田利家へ渡すまでが皆の仕事だ。突撃だー!」




