京では
本多正信は大久保信正と名前を変えて明智十兵衛の家臣となっています。その大久保信正は、堺を牛耳るキリシタン寄りの商人、紋次郎を暗殺し、反キリシタンの宗右衛門に堺を支配させました。宗右衛門はキリシタンには興味が無く、というよりライバルの紋次郎に対抗し反発していました。宗右衛門は九州の大名やシャムとの貿易をメインにしています。シャムからは鉛を大量に輸入していて、毛利家へ横流しをしています。その支払いは明智から出ているのです。
「大久保様。格別のお取り計らい、感謝しかありません。仰せの通り、南蛮人は堺から排除いたしました。この堺は私の物、それは大久保様が堺を納めていると同じ事でございます」
宗右衛門は長年紋次郎と競ってきましたが、キリシタンの影響が大きくあまりいいところがありませんでした。織田も明智もキリシタンに対して優遇していたのです。それはキリシタンを認めるというよりは金が目的ではあったのですが、宗右衛門からしたらそんな事はどうでもよく紋次郎の失脚の機会を狙っていました。ところが、ある日突然やってきたこの男、大久保信正は明智十兵衛の配下なのに明智と親しい紋次郎を排除するから下につけ、と言ってきました。宗右衛門にとっては渡りに船です。
「宗右衛門殿、言っている意味がわからんが。紋次郎は居なくなったのだ。どこへどうしたのかは分からん」
「紋次郎の死体が海に上がりました。かなり時間が経っており着ている服と持ち物から紋次郎だと判断したようです。紋次郎が居なくなってからは私が堺を治めております」
宗右衛門は大久保信正がやったと確信している。排除すると言ったのは信正なのだから。だが、それを信正は明言しないのだ。宗右衛門は信正がそういう男だと理解しているのでそれ以上は突っ込まなかった。
「それで南蛮人ですが、堺には入れないようにしています。船は没収し、積んであった荷もあるところに隠してあります」
「何か変わった物でもあったか?」
「なにやら大筒のような物がありました。恐らくは明智様への献上品かと」
大久保信正は、その荷を確認しほくそ笑みました。これは使える、と。
明智十兵衛は大久保信正を呼び出しました。外交に通じていて重宝して使ってきましたが、密告があったのです。新参者でのし上がっていった僻みかと思いましたが、堺の紋次郎が居なくなったと聞き、調査をしたところ怪しい動きがあったのです。ですが、この時はまだ事の重大さに気づいていませんでした。
「信正、堺の紋次郎が死んだそうだがキリシタン共はどうしている?」
「はて?紋次郎殿の遺体が海に上がったと聞いて驚き、調べさせましたが主だった外傷もなく酔って掘りに落ち、海へ流れ出たというのが役所の見解です。あれだけ羽振りが良かったのに、人の命というのはあっけないものです」
信正は怪しいところはないと言いたいのだ。十兵衛は、その事は京の所司代から報告を受けていた。京の役人に堺まで行かせて調べさせたのだ。
「それは聞いている。キリシタンはどうした?あいつらの布教は面倒だが大事な資金源だ。公家共は無心すれば金が出てくると思っている。特にあの関白めは何かと金を要求してくるのだ」
関白は近衛信尹、武田勝頼の息がかかっています。明智の金は近衛家にストックされているのです。
「南蛮人ですか?すっかり姿を見せなくなりました。堺は今、宗右衛門というものが仕切っておりますので聞いてみましょうか?」
「そなたは知らんと言うのか?」
「存じませぬ。丹後や丹波、そして毛利との外交で手一杯でございますゆえ。今、毛利が上杉に戦を仕掛けております。先日ご報告いたしましたが、そのために明智様の領地を通りたいと大量の銀を献上して参りました。その銀を持って前田利家の通り道周辺の国衆に根回しをしておったのです。堺の事まで手が回りませぬ」
確かにその通りだ。国衆の説得を指示したのは十兵衛だし話は通っている。密告の内容は堺の税収が減っていると言う内容だった。紋次郎の死後、明らかに納税額が減少している。十兵衛は話を変えた。
「堺の税収が減っているのを知っているか?」
「存じませぬ。先程も申し上げた通り堺に構っている時間はそれがしにはありません」
「そうか。だが確かに税収が減っているのだ。このままでは不味い事になる」
「毛利からの銀もありますので。それよりもお願いがございます」
ん?毛利の銀か。あれは石見銀山から採ったものだと言う。秀吉は銀山をいち早く抑えたそうだ。銭のある者が戦に勝つ、これは道理だ。十兵衛は銀の話を聞いて一瞬緩んだ。信正から宗右衛門の話が出たのを疑問に思わなかった。銀のインパクトが大きかったのだ。その隙をついて信正のお願いが出た。
「願い?申してみよ」
「ここ、二条館でございますが、織田信長が建てた物でございます。先日関白様に偶然お会いした時に、明智が改築をして明智が建てた事にする事を望まれているようでした」
「関白様がそのような事を」
「それで改築に10日ほどかかります。その間でございますが、十兵衛様にはこの先の本能寺へお住まいを一時的に移していただきたいのです」
本能寺!次回、明智十兵衛 本能寺へ行く の巻




