徳の意見
諏訪原城。遠江と駿河の国境を流れる大井川の淵にある小山の上にそびえ立つ城だ。城からは大井川の向こうに駿河の田中城が見える。仮に西から攻められた時、ここを取られると駿河攻めの起点となってしまうため、城には深い空堀があり攻められ難いように作られている。この城の設計は老衰で亡くなった馬場信春によるものだ。
「徳、さっきのやつ、どう思う?」
勝頼は結局その場で殺さずに情報を取る事を選んだ。明智十兵衛からの手紙というのを読んでからでも遅くはない。
「胡散臭いだわさ。あたいは岡崎城の事件の時はいなかったけど、後から喜兵衛殿に聞いた話だとさっさとこの世から消すべき相手よ、本多正信は。喜兵衛殿は蒲生にやられてから少し慎重になってるの。少し調子に乗ってた自分に気付いたのね」
あいつはあいつなりに調べたのだろう。自分の城で起きた事件だから当然だが、この経験がいい糧になっているようだ。
「それでね、さっきのやつの事だけど服部半蔵についてはあたいも調べてた。佐助を使ってね。武士になりたがっている変わった忍びと伝わっているけど、実際は忍びだったのは半蔵の祖父までで配下含めほぼ半忍びだったみたい。松平に仕えてからは忍びの仕事はあまり無くて、夜襲や強奪が仕事になっていった。武士になりたいと言っているのは与えられる役目に格式が無かったからみたいね。正攻法が好きみたいよ。それでも半蔵は忍びの修行を欠かさなかった。家康が死んでからは伊賀に戻ってかなりの修行をしたそうよ。本多正信とは徳川家康時代に一緒だった。最近またつるむようになったんだけど、本多正信のやり方と合わないと周囲に漏らしてはいたみたい。ただそれが芝居なのか本当なのかまでは時間が無くて。まさかこんなに早く向こうから来るとは思わなかっただわさ。さっき佐助が何も言ってなかったからあれは服部半蔵に間違いないわ」
佐助は優秀な忍びだ。言葉は少ないが、何か言うときは重い意味がある。徳とは幸村を通して知り合った。元々は真田親族の矢沢家で赤子の時から鍛え上げられたという経歴を持っている。佐助に対抗できるのは武田の中では双子の与助か影猫くらいだろう。
「ただ伊賀忍びとはいっても服部の家は三河にいたでしょ。伊賀に残る伊賀忍びからは上に見られてはいないの。だから扱える部下もそう多くはない」
味方にできても期待はできないとでも言いたいのか、徳はそこまでいうと楽しそうに城へ入っていった。
「お屋形様が来ただわさ!」
徳が叫ぶと周囲から人がわんさか集まってくる。少し遅れて竹中半兵衛と真田幸村も上から降りてきた。三雄の歴史では半兵衛はもうこの世にいない年齢だが、武田家で振舞われる高栄養食のおかげか、健康そのものです。
「お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ」
「半兵衛、遠江半国の統治、見事である、と褒めたいところなんだが例の牢を使う事になった。準備を頼む」
「えっ、左様でございますか。すぐに準備をいたします」
半兵衛は驚いたもののすぐに冷静に対応する。こういう所が半兵衛の良さだ。何が起きたなんて後でいくらでも聞けばいい事と割り切れる所が。半兵衛が一瞬席を外すと真田幸村が、
「となりますと特別室の方がよろしいですね。準備は出来ております。それがしはそちらの処置に回った方がよろしいですか?」
「幸村。お前も特別室にいてくれ。そっちは佐助に頼む」
幸村はそれを聞いて、忍び絡みと確信した。そもそも竹中半兵衛が独自の諜報網を統治エリア内に配置しているのだ。その中で、しかも城内で何か起きるのは只事ではない。ここに忍び込めるのは佐助や影猫レベルでないと難しいと思っている。もしくは、
「空?」
勝頼はそれを聞き逃さなかった。
諏訪原城の特別室、諏訪原城内に設けられた勝頼専用の小部屋で周りを鉄板で囲まれている。徳が核シェルターをイメージして設計したといっていたが、勝頼は核シェルターがなんだかわからない。徳に好きにさせていたらこうなった部屋だ。窓はなく電球で灯をとる。
その部屋に勝頼、徳、半兵衛、幸村がいた。ここには忍びも近付けない。正規ルートを通ってでしか入る事ができない。勝頼は諏訪神社の戻りで起きた事を2人に説明した。
「お屋形様。その服部半蔵とやらは牢に監禁しています。佐助と錠が尋問をしています。まずはその文とやらを見てはいかがでしょうか?」
「半兵衛。そのつもりでここにきた。お前達と一緒に見ようと思ってな」
勝頼は三雄の言われた事を守っている。これから勝ち上がるにはこの2人、竹中半兵衛と真田幸村を使う事だ、と。そして三雄が娘を連れてきた意味が今、わかった。大事なのはつなげていく事だと。
徳が、
「これ、毒消し。一応飲んでおいて。皮膚から吸収されるのもあるから」
でもあいつ腕の中から出してなかったか?あいつが死んじゃうじゃん。と思いながら徳を見ると、
「備えあれば憂いなし、ってね。念には念よ。あの服部半蔵が敵か味方かわからない以上、敵としてみないとね」
皆が薬を飲む中、幸村だけが躊躇っている。徳がニヤニヤしながら
「薬が苦手な幸村殿、いいから飲みなさい!飲め、飲むんだ源二郎!」
なんだそれ?




