二重人格
山影は明智十兵衛が二重人格だと言いました。勝頼はキョトンとしています。二重人格がどういう意味かわからなかったのです。徳はその様子を見て、これはわかってないな〜、たすけるだわさ!と話し出します。
「二重人格ですか、山影殿、全く別の人間になったような感じですか?」
「そこまでではないのですが、どっちになっても記憶はあるようなのです。ただ性格が2つあるとでもいうのでしょうか。左馬助様がお亡くなりになってから戦をしなくなったのはそのせいもあります」
徳に助けられた勝頼はそういう意味なのか、と思いつつすっとぼけて話を続けます。
「公家の邪魔が入ったと思っておったが」
「さすがは武田様。それもあります。関白が帝の言葉として戦を好んでいないとしつこく言うのです。それで出陣しにくくなったのは事実です。ですが、本質はそこではなく、明智様ご本人の精神の問題だと思っています」
「つまり、戦をしたがる十兵衛は公家に抑えられ、もう1人の十兵衛は左馬助が居なくなり進むべき道を見失ったとでもいうのか?」
「面白い表現をされますな。そのような感じと思っていただければ。それがしは道を見失った十兵衛様には可愛がられておりますが、もう1人の十兵衛様には疎まれております」
「なぜだ。長い付き合いなのであろう?どちらの十兵衛もお主を使うのではないのか?それにそんなにはっきりと別人のようになっているのか?」
「別人とまでは。もう1人の十兵衛様は新参者の大久保信正の言うことを信じ、動いています。それがしはそれに反対しているのです。そのためにもう1人の十兵衛様はそれがしを避けるようになりました。そしてそれがしに監視が付くようになったのです。今回、十兵衛様に文を託されましたがその事は大久保陣営は知りません。ただ、京を離れてから、ずっと尾行が付いていました。三河で撒いたと思っていたのですが土地の者だったとは」
「あの2人だけか?」
「わかりません。尾行には気がつかなかったので。遠江に入り武田様の動きを探りました。警戒がきつく駿河へは入れませんでしたが、運良く大井川を渡られる武田様を見つけたのです」
「それは随分と都合がいい話だな」
「と、申されましても事実でございますので」
「そうか、事実は………、まあいい。余はお前があの2人を使って余に近づこうとしたと思っているが、違うか?」
「……… 」
山影は不意を突かれたのか言葉が出ない。なぜバレたのか、おそるべし武田勝頼!徳はやっぱり気付いていたのね、という顔をしています。
「どうやら図星だったようだな。うまく話を繋げたようだが、綻びがあちこちにあったぞ。で、どこまでが本当なんだ?服部半蔵!」
!!!、今度は全員がえっ!と言う顔をしています。
「はははははははは、お見事です武田様。これは参りました。改めまして服部半蔵でございます、お見知り置きを」
「本物の山影はどうした?」
「京におりまする。山影とは祖父が同じでございまして連絡は密に取っておりました。今回、本多正信が大久保信正と名を変えて、明智に潜り込んだ時に久し振りに再会したのでございます。ですが、山影は大久保信正に見張られています。大久保信正は根来寺の奴らを使っていて山影は身動きが取れないのです。それ故にそれがしが代わりに動きました」
やっぱり本多正信は明智のところにいたのか。しかも名前まで変えて!
「そうか。だがなぜあんな猿芝居をうった?最初から名乗ればよかろうに。そうだ、錠。お前さっきこいつを大名集結の時に見たと言ったな。どう言う事だ?」
錠は頭を抱えて考え込んでいます。
「遠目ではありましたが、この男によく似た者がおりました。似ておったので先程そのように申し上げました。例のお屋形様が織田信長と話している時に床下にいたやつです」
やっぱり。それが山影だったのだろう。こいつは親戚だから似ていたという事か。それを聞いて服部半蔵が錠をフォローします。
「お察しの通り、それがしと山影はよく似ております。遠目では区別がつかないのも当然。本物の山影は武田様のことも以前からよく調べていたそうです。そちらの徳様の事も」
徳は十兵衛にも合っている。当然だろう。半蔵の話が本当なら浅井長政の時にもどこかで見ていたのかも知れない。
「それはいい。その方の話をそのまま信じるわけにはいかない。それに、余はこういうやり方は好かん。死んだ2人はお前の駒として死んだ事になる。それに、」
勝頼はそこで間を開けた。考えがまとまらないのだ。手の内が本多正信に似てるんだよ、裏にいるんじゃねえのか?やり方も気に入らないし、けど利用価値はありそうだ。さて、どうする。ここでこいつを殺すのもあり、罠と知って乗ってみるのもありだ。こういう時は………、
「徳、幸村はどうした?」
「城で半兵衛殿と遊んでるだわさ」
ガクっとな、あいつは全く。真田幸村は徳のお付きになっている。武藤喜兵衛の子らしく頭が切れるのでどこかで取り立ててやりたいとは思っているのだが、なんせ芯がないというか何というか。三雄の話だと化けるそうなので期待はしている。
「佐助!」
勝頼が呼ぶと、真田忍びの佐助が現れた。今は佐助が幸村に、与助が源三郎信之に付いている。
「錠と組んでこいつを監禁しろ。誰も近づけるな」
そう指示して勝頼は諏訪原城内へ向かった。




