賊の正体
徳は勝頼に向かって叫ぶと同時に勝頼を庇うように立ち、懐から銃を取り出しました。リボルバーではなく、弾倉タイプの拳銃です。勝頼はそれを見て徳に背を向け、周囲を警戒します。城の周囲にはゼットの錠とチーム乙が警戒をしているはずです。それなのに付箋が無くなっていると言うことは誰かが勝頼達が入った後に襖を開けた事になります。こんな事が出来るのは一体?
「徳、何か感じるか?」
徳は周囲の何かを感じ取る能力があります。手練れの忍びの気配を殺した視線も何となくですが見られているようなところまではわかるのです。
「右の木の上、30mくらい離れてる。殺意はなさそう、見ているだけ。待って、その後ろにも何かいる。そっちはヤバイ!」
徳はそういうと、やはり勝頼を庇うように前に立ちます。勝頼はスッと後ろに下がり刀を抜き構えます。
「あたいが守るわよ。なんで刀抜いてるの?」
「敵は普通じゃない。それに俺はそんなに弱くないぞ!」
「鍛えてるのは知ってるけど40代の中年オヤジなんだからね。前線にいるやつら相手は危険でしょ」
完全なおっさん扱いである。まあ確かに勘は多少鈍ってるかもだが。やれやれと思っていると、勝頼と徳の動きを見て手前の木の上にいた賊?が木から降りてきた。両手を挙げて敵意がない事を見せている。全く危険に気づいていない、呑気なものだ
「おい、後ろだ!」
勝頼の声に賊が振り返ると別の賊が2人現れ、その賊に斬りかかった。
不意を疲れた賊だったが、そこそこ手練れのようで2人相手に善戦している。だが徐々に押され始めていて傷も増えてきている。二体一では流石に無理だろう。最初は様子を見ていた徳だったが、突然発砲した。
「ダン、ダン、ダン」
弾は賊の少し上を通って飛んで行った。最初から当てる気は無かったようだ。攻撃していた賊が怯むと手前にいた賊が持ち直す。苦無を投げる余裕ができたのだ。そこに銃声を聞いたゼットの面々が駆けつける。そうなると一方的な戦いになる。
「もっと早く来れば許すところだけど、錠!あんたこれがどういう事か分かってる?」
徳はどこかで見ているであろう弟の錠に話しかけます。するとどこからかスッと徳の前に錠が現れました。
「申し訳ありません。訓練を強化しないととても実戦では使い物になりません。桃、いるか?」
そういうと、攻撃していた敵と戦っていた味方の忍びの中から1人こっちに歩いてきます。
「お屋形様。この不始末、いかような罰もお受けいたします」
桃だった。桃は元チーム甲のメンバーで錠とは恋仲だ。今はチーム乙のリーダーだが、乙のメンバーは全員見習いから上がったばかりの新人だ。桃以外はまだまだ実力が届いていない。
「それは後で徳が決めるよ。なんか口出しすると晩飯に毒でも盛られそうだし」
横の徳を見ると鬼の形相です。特殊部隊ゼットは元々は徳の新兵器を戦場で使う為に集められたのが起源です。その時に農家を継ぐ予定だった徳の弟の錠が担ぎだされ、そのうちにメンバーが増えて武藤喜兵衛の支配下に置かれるようになりました。今でも一応トップは武藤喜兵衛という事になっていますが、徳は名誉顧問のような立場で、ゼットのメンバーは誰も逆らえません。
ゼットは過酷な任務に就くことが多く、人の入れ替わりが激しいのですが、生き残っている連中は手練れに育っています。その錠と桃を出し抜いてここに侵入した敵は一体?
勝頼は錠と桃に、
「まずはあいつらを捕らえよ。何者か徹底的に調べるんだ」
と言うと、桃が
「申し訳ありません。攻撃してきた2人はすでに毒で自決しています」
「そうか。身につけている物から素性を割り出せ!もう1人は?」
勝頼が見ると、最初に木の上にいた忍びは素直にお縄を受けていた。抵抗する意思はなさそうだ。
悔しがる徳を置いておいて尋問に入ろうとしたが、徳の声がうるさい。
「あんた達、こんな事でどうすんのさ!頭丸めるくらいじゃ済まないわよ!特に桃、あんた何訓練してんの!明日全員川根に集合しなさい。あたいが鍛え直してあげるだわさ!」
「いや、姉ちゃんじゃない徳様。徳様はお忙しいでしょうからそれがしが代わりに………、」
「だまらっしゃい!あんたもよ、影猫にいいようにやられてどうすんのさ。チーム甲と乙はあたいが預かる。いいわね!」
と言いながら、徳は履いているスニーカーの先端から苦無を発射した。その苦無は錠の身体をすり抜けた。
「まあまあね。これをまともに受けていたらとんでもないことになってただわさ。全員がこれくらいを避けられるレベルまで鍛えるわよ!」
あっぶねえー。なんだあの武器。またあんなのを作ってたのか姉ちゃんは。錠は徳の足を見た。草履ではなく変わった履物だ。その先端からさっきの苦無は飛んできたように見えた。あの履物、いいなあ。
「姉ちゃん。その履物だけど、俺にもくれない?」
「あんたねえ、褒美もらえるほど活躍できてないでしょ!まあ元々これはゼットの連中に装備させるつもりで開発した物だけど、今のあんたらにはもったいないだわさ。丙と丁、戊には先に送っとくよ。喜兵衛殿にも頼まれたし。お前達はまずは訓練訓練」
徳はノリノリです。こうなったらもう止められません。そう行っている間にも自害した忍びは調べられています。何が出るやら。
「さて、お主はどこの誰だ?なぜここにいる?」
勝頼は賊に尋問を始めました。賊は勝頼に向かって話し始めます。
「武田勝頼様。それがしは明智十兵衛の使いにございまする」




