調査
勝頼は、徳の予想外の反応にガクッとこけました。寧々殿が甲斐姫が好きだというところに反応するとは!
流石の勝頼も想定外でした。他にもっとたくさん突っ込むところあるのに………、寧々殿も徳もどっちもどっち、女ってやつは………。勝頼はブツブツ言いはじめます。それを見ていた三雄は勝頼の様子からなんとなく察して話を戻します。
「勝頼、まあそうブツブツ言わないで。徳さんにもよろしく伝えてくれ。それで本題のさっきの可能性の話なんだが、恐らくは秀吉の側近としての軍師は黒田官兵衛がいるので、本多正信はそれとは違った動きをするはずだ。なんて言うか、こっちの歴史の本多正信は変わり者なんだよ。ただ、伊賀越えからは忠義の人になってな。それにいくら忍びが近づけなくても秀吉の家中に正信が現れれば、いるかないかくらいはわかるだろう。つまり、だ」
寧々が声高らかに、
「秀吉のところには行ってないという事ね。外で何かを企んでる。たぶん明智のところか、東北か、どっちかね。それと可能性だけどやっぱりいつかどこかで内乱を狙うと思う。室賀で上手くいったから次も考えてるんじゃないかな?最上、佐竹、穴山、内藤、そしてこっちの歴史は登場しない信平。それからあなたがこれから作る子供達ね。これはもう想像がつかない。候補はたくさんいるわよ。それと服部半蔵を探すといいわよ。多分正信とつるんでるから」
勝頼は考えている。しばらくして話しはじめた。
「東北は忍びを使って調べさせていますが今のところ変な動きは無さそうです。伊達に嫁がせた春のところにも連絡係兼護衛として伊奈忍びをつけていますが、東北にはそれらしき男は現れていません。となると、明智ですか?十兵衛はそんなにバカではないと思うのですが」
「あの男はまっすぐだ。信豊との戦に負けてそれこそ手が足りなくなったはず。正信なら入り込めても不思議じゃあない」
「まっすぐですか?そうは感じていないのですが。何を考えているのかわからない男です。そのくせに鋭い」
徳が割り込んできます。
「明智十兵衛の話ね。やっと出番だわさ。あれは曲者よ、ただなんだろう、自信過剰なのかな?まるで全部自分の手のひらの上で転がそうとしているみたいな。でも実力がないからそれができない」
勝頼は徳の言ったことをそのまま伝えます。徳だけが会話に直接入れないのです。三雄の歴史に出てくる明智十兵衛は別人のように聞こえます。寧々はそれを聞いて、
「徳さんの感性が鋭いとは聞いていました。恐らくはその感じ方は正しいのだと思います。こっちの歴史の明智十兵衛はわかっていないことが多いのです。なんで本能寺の変を起こしたのかもわかってないし、出生も曖昧なの。織田であそこまで成り上がって裏切るなんて、いくら嫌な上司でもそこまでするかっていう。信長の癇癪の受け役は、十兵衛にとって、違うわね。織田信長にとって必要だったと思う。十兵衛もそれをわかっていたはず。私の推論では近衛前久あたりに唆されたんだと思うけど、証拠はないの。一番腑に落ちないのは家康を野放しにした事。普通なら信長、信忠を仕留めておいて家康を放っておかないでしょ、だから例の話が出てくるの」
「おい、それはこの間勝頼に託した。どうなるかはこれから次第だよ。で、勝頼。秀吉と戦うにも間に明智がいる。それは秀吉も同じ事。となると寧々の言うように本多正信の居場所は」
明智、と言う事になります。勝頼は少し考えてから、
「明智十兵衛は天下を取ろうとしている、けれどそれが無理だと気がついている、それがしはそんな気がしています。前回の武田との戦で負けた、そこから考えが変わったのだとみています。ただ、後に引けなくなっているのではないでしょうか?」
「勝っちゃん。それってあたいのせい?」
「そうだな。この2年、明智は仕掛けてこなかった。仕掛けられなかったのだろうが」
「あたいは、十兵衛の中途半端なところが気に入らない。あの戦は本当は明智の勝ちよ。うちは気球を使ってギリギリだった。昌輝殿が抑えていたとはいえ、本気で後詰めを仕掛けられていたら信豊殿も織田信忠殿も今頃はこの世にいないわ。あの時、なんで攻めてこなかったのか、それがわからない」
三雄と寧々は徳が話していると感じて黙っている。勝頼は、徳の話を伝えました。寧々は少し考えてから、
「はっきりとはわからないけど、邪魔した人がいるんじゃない?公家とか」
勝頼は近衛前久の顔が目に浮かびます。今の関白、近衛信尹が関白になれたのも勝頼の裏工作のおかげでした。こっそり恩返しをしていたのかもしれません。
「あり得ますね。それは確認してみます。となると面白いですね。色々な事が繋がって今がある」
勝頼は明智を今、調べさせています。また来月もお願いします、と言って神社を離れました。本多正信が明智にいるとすれば狙いはなんなのか?入り口というか神社の出口に向かって歩いて行くと、遠目の効く徳が叫びます。
「お屋形様、付箋がないわ!」




