娘
三雄は来月も話をしたいと言ってきた。ここ数十年では無かった事だ。つまり一大事という事だ。勝頼は不安になって聞いた。
「そんなに本多正信という男は危険なのですか?」
「秀吉と組むというのが、こっちの歴史ではあり得ない組み合わせなんだ。どうなるのか想像できない。ちょっと相談してみるよ」
「相談ですか?どなたに?」
「いや、実はな。娘がいるんだ。恵子と同じ様に歴史を勉強している」
「そうだったのですか。三雄殿と恵子殿のお子さんという事ですね。いつの間に」
勝頼は声には出さないが、ムフフという顔をしている。三雄は時代が違ってもこういうのは変わらないのかと思いながら、
「実は俺も最近知ったんだ。恵子と別れてしばらく会わない間に産んでいたらしい。突然訪ねてきてな。驚いたよ、若い頃の恵子にそっくりなんだ」
「三雄殿には内緒にしていたのですね。何故ですか?」
「俺と結婚する気がなかったからだと娘から聞いた。恵子はもう死んでるから本当の事はわからない。で、娘は勝頼の事を恵子から聞いたそうなのだが、最近まで信じていなかったそうだ。俺の存在は聞いてはいたけど、特に会いたいとは思わなかったらしい。で、恵子が死ぬ前に会いに行けと言われて、俺に会って始めてお前の存在を信じたそうだ」
「娘さんも歴史をと言いましたね。血は争えないですね。恵子殿はうちの源三郎が好きと言っていましたが、娘さんはだれか興味がある人がいるのですか?」
いきなりそれを聞くか?さすが勝頼だな。
「それがな、甲斐姫なんだ」
勝頼が固まった。
「……………、なんで甲斐姫なのです。正直驚きました。想定外にもほどがあります。そちらの時代では甲斐姫が天下を取るとか?」
勝頼は笑いながら変な事を言った。驚いて冷静さを失ったようだ。さっき甲斐姫の話をして布石は打っておいたのだけど流石に予想できないか。
「それはない。お前も冗談を言うんだな。甲斐姫は歴史マニアの間では人気なんだ。石田三成が、ってそいつもいたな。それはともかく、薙刀や弓を使って男勝りの戦をした姫で、結局は秀吉の側室になる。美女と伝わっているけど、実際はどうだ?」
「男勝りではないですよ。可愛い女子です」
「そうか、娘に伝えとくよ。さっき名前が出たが、石田三成、加藤清正、福島正則、島左近なんかが今後お前の前に立ちふさがるぞ。味方にできるといいけど。そういえば前田利家はどうなった?」
「前田利家は聞いたことがあります。確か、信長が死んだ戦で秀吉側に寝返った男です。後の者は知りません」
「そうか、利家と秀吉はそりゃ連むよな。歴史に名が残ってる連中は手強いぞ。あとは、蒲生氏郷とか」
「有名なのですか?」
「結構な。勝頼、東日本を抑えたとはいえ、まだまだ大変だな。銃とハンググライダーは敵も使ったと言っていたし、気球も見られたのなら対策がされると思った方がいい。あまり新兵器に頼らない事だ。最後は戦略と物量が勝つ」
「今回、その蒲生氏郷の攻めが素晴らしく武藤喜兵衛もヒヤヒヤしたそうです」
「蒲生氏郷か。確かこっちの歴史では伊達政宗に毒殺されたって言われてる。信長、秀吉に気に入られた武将だ。流石の真田昌幸も苦労したのか。蒲生氏郷対真田昌幸なんて、こっちの世界だとゲームでもなかなか出てこない組み合わせだぞ」
「そのゲームというのを徳がやってみたがっていました。あれは何にでも興味を持つので」
「流石に戦国時代にゲームは作れないだろう。だが、シミュレーションゲームっていうのは、戦略を考えるのに役立つ。多分、お前のところの竹中半兵衛とか真田、じゃない武藤喜兵衛は頭の中でやってる事だよ。色々な事態を想定してリスクを考えて手を打つ。こっちの世界では身近には戦がないから空想の世界で、って関係ない話になったな。要はたらればの繰り返しだよ」
「たらればってなんですか?」
「こうしたらどうなる、ではこうしたらどうなった?を繰り返し考えるんだ。だいたい、過去に失敗した事を次に起こさないために対策する時に使うんだけど、それだと事後対処なんだ。そっちの世界だと事後で悔やんでも遅い。ゲームは死なないからやり直しができるけど、そっちは死に直結してる。だから事を起こす前に色々と考える」
「それならば普段やっている事です。ゲームはやり直しができるのですか。それでは絶対に負けないですね」
「そっちだとそうはいかない。しっかし蒲生氏郷対真田昌幸か、それは見たかった。恵子が生きてたら大喜びだったろうな。それは置いといて、今日は置いとくのが多いな。敵もバカじゃない。一度見られた物は対策をされるし、真似もされる。いくら徳さんでも毎回新兵器は作れないだろう。あんまり難しい武器だと使える人が限られるしな。あ、そうだ。これ頼まれたやつ。写していけよ」
「いつもありがとうございます。徳が三雄殿にいつも感謝していると伝えてくれと言っていました」
「いやあ、俺の生き甲斐でもあるから。でもこれをどうするんだ?」
「さあ?」
徳の考えはわからない。だが、武田のためになるのは間違いない。
「それと、明智十兵衛の事なんだが………」
「いや、それは、さすがに………」
三雄は十兵衛について長々と話し続けた。勝頼はその事を信玄に相談することになる。




