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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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忠勝と正信

 場面は岡崎城内に戻ります。山県昌景が本多正信に問うた。


「そうか。室賀の首を見たか?」


「はい。見ております」


 その時、急に騒がしくなり襖が開いた。何かと見ると本多忠勝が仁王立ちしている。じっと本多正信を睨みつけながら。流石の本多正信も動揺した。正信はこの単細胞が苦手なのだ。忠勝が武田に従っている事は聞いていて、同じ三河の西尾を治めてはいるものの服部半蔵によると東北へ出陣していて不在という事だった。こいつが東北に行っていていないというのも作戦決行の一要素だった。こいつは何かと面倒なのだ。今日もいないと思っていて安心していたのにまさかここに乱入してくるとは!相変わらずの無法ぶりだ。


「武田様、この者は一体?」


 正信は冷静を装い、勝頼へボールを投げた。ここは自分に主導権が無い方がいい。その勝頼は、忠勝を避けて部屋に入ってきた信平を見て驚いていた。勝頼は武藤喜兵衛が信平に何と答えたのかを聞いていないのだ。信平と忠勝が揃って入ってきたのを見て、一瞬誤解した。


「信平。忠勝を口説けたのか?」


「父上、違いまする。それについては後程。忠勝殿とここに来たのはここにいらっしゃるという本多正信殿のお顔を拝見しに来たのです」


 この言い回し?何か考えてはいるようだが………。


「顔を見てどうする?」


「武藤喜兵衛殿より岡崎城へ先駆けるよう頼まれました。頼まれた以上せめて正信殿のお顔を拝顔しておこうかと思いました」


 なんだその言い訳は!突然入ってきて、来るなと言っていた忠勝まで連れてきおって。勝頼は一瞬頭に来たが、信平の目が自信に満ち溢れていたのを見て怒るのをやめた。一緒に東北へ行った信勝は戦を経験して少しだが考え方が変わってきた。もしかしたら信平もかと思ったのだ。信平が気球に乗ったところまでは聞いていた。こいつも成長したのかもしれん。その時に、信平の後ろに控えている者を見つけた。誰だ、こいつ?


「信平。その若武者殿はどちらのお方かな?」


 信平はさすが父上だ、気付いてくれたと思い、直政を前に出してから話し始めます。


「この者は井伊家の当主、井伊直政と申す者。武藤喜兵衛様殿に本多忠勝殿を貰い受けに参りましたが断わられました。代わりにこの者を推薦され、先の戦ではそれがしと共に行動しておりましたが、与力として十分と判断いたしました。この者を関東へ連れて行きたくお願い申し上げます」


 こいつがあの直政か。いい目をしている。そんな中、本多忠勝はひたすら一心に本多正信を睨みつけている。そこだけ明らかにオーラが違う。正信の方は山県昌景の攻めを受けていた時だったので空気が変わってホッとはしたものの、忠勝の視線が痛い。


「井伊直政でございます。お屋形様にお会いできまして恐悦至極にございます」


「お主の事は喜兵衛から聞いておる。小田原では大活躍したそうではないか。そのお主を喜兵衛が手放すと。うーむ……… 、今度喜兵衛に会ったら真意を聞いてみる。それで直政、この始末はどうつける?」


「信平様とそれがしに後ろに控えさせていただきたく。お屋形様の詮議を参考にさせていただきたく存じます」


「何故?」


「まだ若輩者です。今は学ぶ時と考えます」


 こいつら、ただの冷やかしか?


「言いたい事は山ほどあるがまあいい、信平、直政。本多正信殿の後ろに座れ。で、忠勝。お前は………、そこに立っとれ!」


 忠勝は微動だにしません。正信を睨むだけです。



 山県昌景が仕切り直しとばかりにゴホンと軽く咳込んでから、


「本多正信殿。改めて問う。室賀はなんと言っておった?」


 急に辺りが暗くなった気がした。背景がグレートーンになったみたいだ。山県の渋い声がそうさせたのだ。その声には嘘は許さん、俺は知っているぞという含みがあるように聞こえた。正信は、


「先にも申し上げました通り、室賀様とはお亡くなりになった後でしかお顔を見ておりません。話をしていないのでわかりません」


 山県はじっと正信の目を見ている。


「お屋形様。それがしは十分でござる」


 山県は全てを見透かしたように勝頼へボールを投げた。さて、どうするか。信平達の乱入は想定外だし、詮議を見たいとか言うし。


「同じ本多姓がいるので正信殿と呼ばせてもらうがいいか?」


「如何様にもお呼び下さいませ」


 雰囲気的に勝頼は配下に欲しがっていると感じた正信は腹の中で笑いながら答えた。ちょろいぞ武田勝頼。もちろん表情は変えずに、だ。


「正信殿はなぜ室賀を殺したのだ。その罪は重いぞ」


 これも想定内。


「それがしが城へ入った時には室賀様はもう………、」


「そなたの指示と聞いたが?城攻めの大将であろう」


「結果的にそうなりましたが、室賀様をどうするという指示はしておりませぬ。首を斬ったのは菅沼様の配下と聞いております」


 話は合っている。だけど合いすぎなんだよ。ほころびが無さすぎるんだ。


「質問を変えよう。余は室賀を許すつもりであった。室賀に詫びようと思ってここに来た。ところがもう詫びる事ができん。この始末はどうつける?」


それを聞いた忠勝は唸り声をあげた。ただ唸っているだけだ。


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