同じ本多姓
会話は続いている。直政はずっと気になっていた事を聞いてみました。
「本多様。岡崎城の件ですが、城を落としたのは本多正信という名前の者だそうですが、ご存知ですか?」
それを聞いた途端、忠勝は興奮し出し、顔が真っ赤になった。まさに赤鬼そっくりだ。
「忠勝殿、どうされた?」
信平は慌てて間に入った。直政が何か怒らせる事を言ったのだろうか?明らかに異常だ、顔に出るほど怒っている。
「その名前を聞くと頭に血がのぼるのでござる。同じ本多姓ではあるが、全くの他人。あの男は殿の、家康様の信頼を裏切り敵に寝返った男。主君が間違っていると言って主君を銃で撃った男でござる。わしは、わしはあの時あやつを斬るつもりであった。だが、家康様は殺さずに三河追放とした。もう二度と会う事はないと思っていたのだがこんな形で戻ってくるとは」
信平は父、勝頼が忠勝を遠ざけた訳がわかった。これは会わせたらやばそうだ。でも、もう岡崎城がすぐそこに見えるところまで来てしまっていた。なるようにしかならない。
「そうですか。それで今回は大人しくしていたのですね。主君に逆らい難い状況です」
信平のつぶやきに直政は、なんで信平が忠勝を与力にしたがっていたのかをわかった気がしました。俺もこうならないといけないのです。そして、気が付きました。
「本多様。あの、今更こんな事を言えた………」
「わかっておる。暴れなければいいのであろう。あの鵺相手に口では勝てん。ただ、睨むのみ!」
こえーーーーー。
一行は岡崎城に入りました。そこにはなぜか井伊谷の兵がいました。兵が直政を見つけると
「殿、どうしてここに?」
「ん?お主、いやお主らこそここで何をしているのだ」
すると、奥から声がしました。
「直政殿、直政殿ではありませんか?」
「げ!何でここに?」
奥から出てきたのは井伊直虎です。直虎は直政とは血の繋がりはありませんが、親子のような関係です。直政はこの直虎が苦手でした。危機に陥った井伊谷を救った英雄で、井伊家の元当主で尼さんです。全く頭が上がらない存在なのです。
「げっとは何ですか、げっとは。全くいつまでも子供ではないのですよ、井伊家の当主としての自覚を………、本多様?どうしてここに」
直虎は直政の横に大きな男がいたのは遠目に見えていたが本多忠勝と知って慌てた。勝頼から忠勝を近づけるなと言われていたのです。
「井伊直虎殿ですね。お初にお目にかかります。武田信平と申します」
「の、信平様」
直虎は慌てて跪く。そうしながらも何だこの展開?と思いどうしようかと脳みそをフル回転させている。
「直虎殿。実は直虎殿にもご挨拶と思っていたのですよ。井伊谷へ寄るつもりでしたが助かりました」
「私などに信平様がでございますか?」
直虎は訳がわからない。向こうは武田勝頼の次男、こっちはしがない国衆だ。何の用があるというのだろう?直虎が困惑していると、信平は畏まって
「井伊家の当主、井伊直政殿を我が与力として関東下総へ連れて行く事になった。御同意いただきたくお願いいたす」
えっ、えっ、ええええええええ!!!
「直政殿、これは一体?」
「先代、色々とありまして信平様に直接お仕えする事になりました。この事は武田信豊様、武藤喜兵衛様もご存知です。あとは先代とお屋形様のお許しがあれば、いえ、それがしはこの数ヶ月、信平様に仕えそのお人柄に惚れております。一生をかけるに相応しい主人と考えます。これは間違いなく井伊家の為、井伊家の発展に繋がります」
「直政殿。突然の事ゆえ、突然すぎて言葉になりませんが信平様。こんなうつけでよろしいのですか?」
直政はこのオババ、何を言うかと思ったが信平は冷静に、
「うつけと申されたが、かの織田信長もうつけと呼ばれていた。大物になる証拠ではないのか?冗談はさておき、私もこのクソ生意気な男を結構気に入っているのです。お許しいただけますか?」
直虎は井伊谷はどうなってしまうのか、と考えた。先祖代々の土地を離れる事になるのか、と。直虎は井伊谷を守りたい、この一心で女ながらに頑張ってきたのだ。
「井伊谷は?」
つい聞いてしまった。言ってから後悔したがもう遅い。自分の事しか考えていないような発言だった。咎められても仕方がない。だが、それを聞いた信平は安心させるように
「お屋形様へお願いしますよ。井伊谷は今まで通りになるように。まだわかりませんが、結城からも扶持を出しますゆえ」
直虎はホッとしたような顔をしたが、直政は怒っている。この先代はお節介なところが多いのだ。それが井伊谷を守る為だとはわかってはいても度が過ぎることがある。今の発言はその典型的なものだ。
「直政をよろしくお願いいたします」
直虎はそう言ってから言ってから直政をみた。直政が怒っているのがわかったが、そこに忠勝がいる事を思い出し、
「本多様、どうされるおつもりか?」
と話を逸らした。
「本多正信は?」
「今、場内でお屋形様と面会中です。私はあの本多正信という男が信用できませぬ」
「直虎殿が何を感じられたかはわからんが、きっとそれは正しい。信平様、ここからどうなさるおつもりですか?」
「その正信とやら、私も見てみたい。どうせ怒られるのです、行きますか?直虎殿、案内を!」
そう言って先頭を歩き出した。




