初陣
歴史では善光寺の後詰めの兵は善光寺から動いていません。つまり、歴史はすでに変わっていたのです。軍師殿から聞いた展開と同じようになっているので実は歴史が変わっている事に勝頼は気付いていません。三雄からの情報は大きなポイントだけでしたので当然ですね。勝頼の初陣も本来はこの後の箕輪城攻めですが、この戦がデビュー戦になりました。さて、ここで工場で秘密裏に製作していた新兵器が火を吹きます。
勝頼の指示で玉井、寅三が配下を使って砲台を用意しています。現代でいうバズーカ砲に似た持ち運び可能な鉄の筒を木材で作った架台に設置しています。狙うは後詰めの兵5000人が移動する方向ですが、将と思われる人間の周辺です。
「命中精度は高くはない。適当に狙え、どうせ当たらん」
勝頼のつぶやきに、源五郎がそういうものなのかと疑問に思うと、
「源五郎はこれを見るのは初めてだからな。まあ見てろ。玉井、撃っちゃっていいよ」
「はい、四郎様。撃ち方準備、第一砲台、撃てー!」
『ドーン!』
物凄い音がした。上杉軍がキョロキョロしていると敵将の10m程前方の兵が吹き飛んだ。周囲の馬が驚き騎馬の兵が落馬する。そこにいた敵将、高平左門は何が起きたのかわからず呆然としている。そこに、
「第二砲台、続けて第三砲台、撃てー!」
玉井伊織の指示が飛び砲弾が飛んでゆく。再び兵が吹っ飛んだ。運悪く三発目が高平左門を直撃し何が起きたのかもわからないままこの世を去った。
「あれ、当たっちゃったね。適当に撃って当たるとは運の無い奴」
勝頼は呑気につぶやいている。実際にその通りで命中精度なんて無いに等しいのです。だいたいあそこらへんに落ちる位の精度しかありません。
砲撃をくらった周囲にいた兵は恐ろしくなり引き返しましたが後方からは兵が進んできていて大混乱になりました。部分的にドミノ倒しの様に兵が倒れて戦闘不能になった者もいます。
「なんだ、どうしたのだ?物見を出せ」
後詰めを指揮する宇佐美正勝は後方にいたため、何が起きているのかわかっていなかった。ここはまだ犀川を渡る手前で、敵襲を受ける場所ではないし武田軍は八幡原か海津城にいるはずなのだ。
上杉政虎からは巳の刻(午前10時)には八幡原に到着する様に指示されている。このまま進めば間に合うのだが前方で大きな音がして兵が混乱している様だ。陣形も取らずにただ進んでいた状況での敵襲だとすると伏兵がいたのか?
宇佐美正勝は上杉軍の軍師とも言われている宇佐美定満の養子で、今まで大した実績を上げているわけではなく、この戦で戦果を上げて認めてもらいたいと強く思っていた。後詰めになった時は悔しい思いもしたがこの作戦がうまくいけば武田晴信の首を取れるかもしれない。無茶苦茶気合が入っていた矢先の出来事だった。
「申し上げます。前方で爆発が数度発生し、高平左門様以下数十名がお亡くなりになりました」
「敵襲なのか?」
「わかりません。馬が暴れ怪我した者も多数、また兵が慌てて逃げ出したため倒れた兵を兵が踏み潰す案件も起きております」
と、報告を聞いている間に前方から多数の兵が押し寄せてくる。味方の兵なのだが目が血走っている。
「どけどけ、俺は逃げる」
宇佐美は逃げ去る兵の1人を捕まえて、
「おい、何があった。なぜ逃げる?」
「ゼエ、ゼエ、あ、あんなのど、どうすれば、ゼエゼエ」
「どこの者だ?落ち着いて話せ。おい、水をやれ」
水を飲んだ兵は少ししてから話し始めた。
「私は高平左門様の隊にいました。突然前にいた兵が爆発して吹っ飛びました。周りの馬が暴れて馬に乗っていた方は馬から落ち、馬は周りの人を怪我させながら逃げて行きました。次に高平様が爆発しました。何が起きたのかわかりません。ただあそこにいたら死にます」
「わかった。だが逃げる事は許さん。この隊に留まれ。おい、高平殿がいたところを調べろ。全軍ここに停止だ」
急がねば。しかしこれでは。焦りと冷静さが混ざり合ってイライラしていきます。
その様子を山から見ていた勝頼は、
「どうやら進軍は止まったな。兵がまた進み出すまで待機だ。こちらに気付く事は無いとは思うが念のため準備はしとけ」
「勝頼様。これは一体どういうものなのですか?鉄砲は古府中で見た時も驚きましたが、このような物凄い爆発をする物ではありませんでした。火薬を使っているのはわかるのですが」
「そうだな、源五郎は大事にするように言われているし教えてやろう」
「お屋形様にですか?」
「う、うーん、まあそんなところだ。爆発といったが実際には爆発はしていない。鉄砲と同じ原理だよ、火薬で鉄や鉛の弾を飛ばしているのさ。これは中大砲と呼んでいるものだ。玉井、砲弾を見せてやれ」
玉井が装填前の砲弾を源五郎に見せています。これが空から飛んできて物に当たるとその勢いで周囲を破壊して爆発に見えるのか。すごい物だがどこで手に入れたのだろう?
「買ったわけではないぞ。作ってるのさ、俺の工場でな」




