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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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巡り合い

 本多正信は全く動揺していない。勝頼はじっと正信の表情を見ていたが慌てた素振りがないので返って不審に思った。勝頼の横には山県昌景が座っていてこれもまた微動だにしない。まるで空気のようでかえって怖い。正信は2人の顔を見て少し間を取ってから答えた。


「目的があるといえばありますし、無いといえば無いのです」


「ではある方を述べよ」


 勝頼は先程の井伊直虎の顔を思い出した。直虎は、人を見る目はある。直虎はこいつを信じるなと顔で語っていた。山県昌景によると本多正信は徳川家康の信頼が厚かったのに裏切った、裏切った理由は家康の為だと言ったそうだ。本多忠勝に聞いた話とは少し違った。


 正信は、


「それがしは徳川家康様にお仕えしておりました。ですが、家康様の民よりも国や家を守ろうとする振る舞いに喝を入れるべく、一向一揆に加担した経緯がございます。その後、本願寺で織田信長を相手に戦を行いましたが破れ、仕官先を探しておりました。正確に申せば、旅をしながら仕えるべき相手を探していたのです。たまたま通りがかった故郷の岡崎でこの戦に遭遇いたしました」


「この城は簡単には落とせない。どうやったのだ?」


「城を良く知る旧知の仲間がおりまして、以前築城に関わったそうです。その者によると、城門からでなく裏から侵入できる井戸があるそうで、そこから侵入した味方が城門を開けたのです。兵は旧徳川に仕えていた者達を使いました。ちょうど菅沼様が困っていらして合流させていただきました」


 ふうん、それを知っているとは。その抜け道を知っているのはゼットの面々だけのはずです。ですが、工事人ならあり得ます。


「主君を裏切るような男にできる振る舞いではないが、よほどの人誑しか?」


「武田様のご配下には旧徳川の者もいらっしゃるのでそれがしの事はお聞きになられていると思います。どう思われるかは武田様次第にございます。それがしは今ここにいるのは天命だと考えております」


「一向宗の教えに天命があるのか?」


「いえ、違います。通りがかりに行き掛かり上このような事になってしまい焦りました。正しい事をしたと思ってはいても手を下したのは事実にございます。とりあえず城を出て武田様がいらっしゃると思い、待機しておりました。待機している間に色々な事を考えました」


「それで?」


 正信は勝頼の顔を見てどう思っているのかを見出そうとして一息開けましたが、勝頼が間を埋めてしまいます。勝頼の事をやはり只者ではないと思いつつ、


「なぜ私はここにきたのだろうか?と、考えました。徳川家康様に三河追放と言われ三河を出ました。それが放浪している間にふとこの岡崎に来てしまったのです。その機に何故か事件が起こり、武田様に謁見する事になりました。これが天命で無いとしたらなんなのでしょう。それがしの目的、と問われましたが、当初は考えてもいませんでした。今は武田様にお仕えする事こそが天命だと考えまする」


 勝頼は話の辻褄は合っていそうだが違和感が拭えません。何かを見落としているような気がします。ふと、横から視線を感じてそういえばこいつがおったなと、


「山県、こやつの言い分、どう考える?」


「お屋形様。発言してよろしいですか?」


 勝頼が頷くと、山県は


「本多とやら、わしが聞きたいのは1つだけだ。室賀はなんと言っておった?」


「……… 、わかりませぬ。それがしは室賀様とは会っておりませぬゆえ」


「そなたが室賀の首を落としたのであろう?」


 山県はものすごいオーラを出して本多正信を睨んでいる。それに圧された正信は冷や汗を流し始める。山県の言葉は自信に満ち溢れていた。誰が話を漏らしたのか?菅沼には言い聞かせてある、正信は城攻めを指揮したが室賀とは直接は会ってない事にするよう打ち合わせ済みだった。


「それがしは城に入った時にはすでに室賀様はお亡くなりになっておりました。故に室賀様がどういうおつもりだったかはわかりませぬ」


「そうか。室賀の首を見たか?」


「はい。見ております」


 その時、急に物音がしだした。やけに賑やかだ。足音がし襖が開けられた。そこには来るなと言っていた本多忠勝が仁王立ちで立っていた。このタイミングで来るかと勝頼が怒ろうとしてよく見ると襖を開けた犯人は信平だった。井伊直政も一緒だ。






<ここに来るまでの信平>

 信平と直政は、戦後処理で2日は動けない武藤喜兵衛に先駆けて岐阜を出た。尾張を抜けて西尾城に寄ったら本多忠勝がいた。元々信平は本多忠勝に与力になって欲しくて武藤喜兵衛にお願いに来たのだったが、色々あって忠勝では無く井伊直政を手に入れたのだ。まさか忠勝が帰ってきているとは思ってなく、信平は


「忠勝殿、お久しぶりでございます」


「信平様ではありませんか?どうしてここに!」


「話すと長くなるのだが、そうそう、徳様、信豊様、武藤喜兵衛殿と戦に出ておったのだ。なんとか勝った」


「その面子でなんとか勝った?敵は明智でしたな?」


「蒲生氏郷という男だ。武藤喜兵衛殿に劣らない軍師であり大将であった。今回の戦、わたしには勉強になった。ああ、そうだ。紹介しよう、それがしの配下、井伊直政という」


「井伊直政でござる。本多様のご高名は井伊谷にも聴こえてきておりまする」


「直虎殿の?なかなかいい面構えをしておる。して、何故信平様に?」


 信平は今までの経緯を話した。忠勝も信勝と東北へ行った話をし始めたその時、井伊直政が、


「それどころではござらぬ。岡崎へ向かいながら話しましょう」

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