直虎登場
室賀謀反の話を聞いた勝頼は古府中を出て駿府を通り、遠江に入った。情報を集めながら高天神城へ寄り、気球が無くなっている事を確認して、やっぱしと思いつつ、そこから浜松城によると井伊直虎が待っていた。西の戦いも終わったと聞いたが徳が船で戻って来るのを待つ余裕はなかった。色々聞きたいのだが後にすることにする。そして井伊直虎はやっと会えたという顔をしていた。
「久しいの。隠居したのにここに来るとは何かあったのか?」
井伊直虎は直政に家督を譲り隠居していたのだ。その直虎がわざわざ会いに来るとは?
「お屋形様は岡崎へ向かわれるのですか?」
「そうだ。室賀が謀反という話が届いた。だが、どうもすっきりしないんだ。お前はどう思う?」
勝頼は直虎が来た理由はこの件だろうと思って聞いた。
「井伊谷にもその話は聞こえておりました。最初に聞いた話は岡崎城が何者かに奪われて室賀様が向かっているという話でした。それがいつの間にか城を奪ったのが室賀様だと言うのです。物見を出してみましたが室賀様が城を攻めていたのは間違いないようです。ですが、なぜでしょう?」
「室賀は手柄を欲しがっていたようだ。今までの功績から加増をと思っていたのだが、余の気配りが不足していたようだ。だが謀反を起こすとは考えてはいなかった。余の責任かもしれん。それで岡崎はどうなっている?」
物見を出していたというのだから情報を持っているのだろう。だからわざわざここに来た。そのはずだ。勝頼は勝頼ですでにゼットの面々を先行して派遣し情報収集に当たらせている。残念なのは、戦線が広がりすぎて当時の事を誰も見ていない。今わかるのは事後の情報のみなのです。それ故に、比較的近くにいた直虎の情報には価値があります。
「どうもはっきりしないのです。野田城に親しい者がいるのですが戦死してしまったようで周囲の者に話を聞いても室賀様が城を襲い、朝比奈泰朝を殺して城を奪ったとしか」
直虎の顔が少し緩んだのは気のせいか?直虎は許嫁を朝比奈に殺された過去がある。
「野田城の者か。室賀の配下ではないか?」
「それと一番気になるのが最初に聞いた話との違いです。室賀様は岡崎城へ城を奪い返しに言ったという話がいつのまにか謀反に変わってしまいました。何者かが話をすり替えたのではないでしょうか?」
面白い考え方だ。だが、誰が、何のために?勝頼はゼットの連中から聞いた名前を出した。
「それがその本多正信という男だと言うのか?」
「あくまでも可能性です。証拠は何もありません」
勝頼は本多正信という男が、謀反を起こし岡崎城を占拠した室賀正武を山家三方衆と旧徳川勢を使って取り戻したという報告を高天神城で受けた。今はその男が何者かを調べさせている。その本多正信は、すでに岡崎城から出て、城下に家を借りて住んでいるそうだ。
西の戦いが終わった後、武藤喜兵衛は岡崎の話を聞いて慌てて戻ろうとしているようだ。かなり苦戦したそうで後始末も大変なのだが信豊が早く行けと行ったらしい。そういうところで信豊に任せて安心と改めて思える。だが、勝頼の方が早く岡崎に着きそうだ。
直虎は不安なのだろう、護衛を申し出て許された。井伊谷から兵50名を連れてきていたのだった。その中には野田城に知り合いがいた者も含まれている。同行すれば何かがわかる。
駿河からは岡部が追いついてきた。朝比奈の盟友でもあるが、話を聞いて最も驚いたのが一色の存在だった。まさか生きていて室賀を誑かすとは?岡部は集めた情報から室賀を唆したのは一色だと思っているようだ。勝頼は岡部と直虎から一色がどんな男かを聞き出し、こいつの調査も重要だと考え、ゼットの連中に調べるよう命じた。岡部の情報では室賀の里に一色が出入りしていたという。裏を取るよう真田信綱に手紙を書いた。
岡崎の手前で勝頼は進むのをやめた。情報が不足していて判断がつきそうもない。何か間違えてしまいそうな予感がしたのだ。そこに本多忠勝が現れた。
「お屋形様。話を聞いて慌てましたぞ。置いて行かなくてもいいではありませんか?本多正信と聞いてすっ飛んで参りました。生きておったとは!」
「ああ、すまん。長い遠征だったからな。少しは甲斐の温泉にでも行かせろと信勝に言っておいたのだ。で、お前の城はどうなっている?」
忠勝の城は三河の西尾城だ。岡崎市からはそんなに離れてはいない。
「何事も起きておりません。それに正信なれば、それがしには手を出しますまい」
「さっきから聞いていると知人のように聞こえるが知っているのか?」
「あれは鵺でござる。口先だけで人を動かします。軍師と言えば聞こえはいいが平気で人を裏切るたわけです。以前三河一向一揆の時に、一揆側につき家康様を鉄砲で撃った不届き者です」
本多正信が鉄砲の名手というのはゼットの桃から聞いていた。本願寺にいた事も。だが、それ以前の行動が掴めなかったのだが、家康の家臣だったのか!




