真・岡崎城
室賀は念のため、今の状況を勝頼と武田信豊に伝えるべく使者を飛ばしました。その上で岡崎城を攻める事にしたのです。室賀は手柄が欲しいだけで武田を裏切る気は無いのですから。勝頼への不満が無いわけではありませんが、考えに考えて武田にいる以外の選択肢は無かったのです。
岡崎城はシーンとしていました。城門は閉じられ人の気配すらありません。室賀は偵察を出して報告を待つ事にしました。ですが朝比奈は気が気ではな焦り始めます。
「室賀様。それがしが戻り城へ入ろうとした時には遠くから矢を射ちかけられました。そして知らない男に城は乗っ取った、とだけ言われその後何とか城へ近づこうとしましたが戦力不足で叶いませんでした。今、城が静かなのは攻める好機なのではないでしょうか?敵はずっと城へ篭っております。食料でも尽きたと考えてもいいかと」
「朝比奈殿。焦るでない。どうもすっきりしないのだ。一色殿によると城を奪ったのは本多正信という輩らしい。知っているか?」
「存じませぬ。初めて聞く名ですがその男が何のために?」
「実はわしも一色殿から初めて聞いたのだ。徳川家康の家来だった男だそうだ。その男が武田に恨みを持っている者を集めたと言うのだが」
そこに一色が現れた。どこかで聞いていたのかもしれない。
「室賀様。何かご不審な点でも?本多正信という男は武藤喜兵衛様を憎んでいるようです。それで武藤様の城である岡崎城を、元は徳川家康の城でもありますからな。朝比奈殿の留守を狙って城を奪ったのでしょう」
「一色殿。そなたはその情報をどこから得たのだ?朝比奈殿もその本多というのを知らんのだぞ。本多といえば忠勝殿だがまさか関係があるのか?」
「その忠勝殿というお方は存じませぬが、本多正信の話は例の署名を集めている時に聞きました。城を乗っ取ろうとしていると。そして実際に動いたと」
朝比奈は署名というのが何の事かわからなかったが、今はそれよりも城だ、早く取り戻し武藤喜兵衛に謝らなくては腹を切らなければいけなくなる。
「室賀様。こうしていても仕方ありません。城を攻めましょうぞ」
「朝比奈殿。しばし待たれよ。物見がすぐに戻ってくる」
ところがいつまで待っても物見が帰ってこないのです。どうした?と配下に言ってもお待ちくださいとしか言わない。実際は物見を追加したが誰一人として帰ってこなかったのだ。室賀は流石に堪忍袋の限界で、
「城を攻める。鉄砲隊、弓矢隊前へ!」
ついに城攻めを指示しました。総勢三千名の兵が進み始めました。城は相変わらずシーンとしています。近づいていくと先に出した物見が死体となって地面に転がっていました。頭に矢が刺さっています。その周囲にも矢が落ちており城から狙われた事がわかります。ですが、今は室賀の兵が近づいても反応がありません。
兵が坂道を登って城門の前にまでたどり着きました。結局鉄砲隊は少し後ろで待機させて足軽部隊を前面に出して城門の解放を試みます。城門は閂で閉ざされいるようでビクともしません。伝令が走って来ます。
「殿、城門は閉ざされており中には人の気配がありません。城門は手で押したくらいではビクともしません」
「この曲がりくねった坂道を登らないと城門までたどり着けないというのは武藤喜兵衛の案だそうだ。全く攻めにくいわい」
室賀は感心しつつも門を開けるために太い木を用意させ、何とか坂を登らせました。そしてその木を大勢の兵が持ち門へとぶつけていきます。
「セーの!」
ドンという音がします。門は震えましたが開きません。何度か繰り返すうちに門を開ける事ができました。足軽部隊が城の中へと様子を見ながら入っていきます。まだ敵が攻めてくる様子はありません。それを見た朝比奈は、
「それがしも中へ入ります。室賀様は安全を確認してから来てください」
「バカを申すな。とはいえ不気味なのは確かだ。朝比奈殿は先行されたし。わしも後から続いて入ろう」
一色は室賀の横にいて朝比奈を見送りました。室賀は一色が朝比奈の命を狙っている事を知っているので側に置いて、変な事ができないようにしています。一色にとっては仇のような者であっても、武田にとっては今川を攻める時の功労者でもあるのです。何でわしが朝比奈を守らなければいけなくなっているのかと考えましたが仕方ありません。一色を側に置いておけばとりあえず安心です。
朝比奈が城に入った後、室賀と一色も坂を登りはじめました。まだ戦闘にはなっていないようです。もう先導隊は二の丸まで進んでいるはずです。敵は本丸に閉じこもっているのかもしれません。
その予想は当たり、結局二の丸前の広場に兵が集まっています。二の丸の門も閉ざされていて中には入れません。しかも二の丸は堀で囲まれていて狭い橋を渡らないと門まで辿り着けないのです。
「武藤喜兵衛、いい城を作るなあ、大した者だ」
室賀が感心して言うと朝比奈が近くにやってきていてそれを聞いていたようで
「いい城でござる。実に攻めにくい。ですがそうも言ってはいられません。城門と同じように木でこじ開けまする」
「そうしてくれ。頼んだぞ、朝比奈殿」
朝比奈は再び木を手配しに行きました。それを一色は怪しい目で見ていました。




