本多正信
本多正信。徳川家康の家臣だった男です。徳川の家臣団には同じ本多姓の忠勝がいますが、縁戚ではなくただの偶然です。正信は三河で起きた一向一揆の際、一揆側に付きました。そして一揆が家康により制圧されると行方をくらまします。そして顕如のいた石山本願寺に篭り、織田信長と戦いました。長い戦いだった本願寺と織田信長の戦が信長の勝利に終わった時、顕如が命を助けられた事が気に食わず、再び浪人となりました。宗教に嫌気が指したのです。
戦が終わる少し前から、本願寺に変な男が来るようになります。名を木下秀吉と言いました。どこかで見た事があると思って思い出してみると、そういえば松平家に仕えていた時に岡崎城で会ったあの変な男、織田信長の使者として時折来ていたあの男です。今は毛利の配下だと言います。正信は興味を持ちました。
ある時、秀吉に話しかけられます。
「もし、どこかで会った事はありませんじゃろうか?確か、三河だったと思いますが」
「よくお分かりで。確か藤吉郎殿でしたな。本多正信と申します。松平家康に仕えておりました。以前、岡崎の城でお目にかかった事があります」
「おお、それだ!本多殿、お達者そうでなによりですぞ。してなんでここにいらっしゃる?元康、いや家康殿は残念でござった。武田勝頼めがまさかにあんな仕打ちを」
「風の噂で殿が亡くなったとは聞きましたが、一体何があったのですか?」
秀吉は岡崎城でいかにして武田が徳川を攻めたかを事細かに過大表現で説明しました。正信はなんだこの男は?と思いつつも知らない情報が多かったので真剣に聞いています。
「空から城を燃やしたというのですか?武田がそのような武器を!」
「そこもとは興味がおありか?それならばまた次の機会にでもお話しいたしますぞ。今日は急ぐゆえこれにてごめん」
秀吉は本当に忙しいようで慌てて本願寺から出て行きました。正信はこの出会いが今後の人生を変えるとは思っていませんでした。
その後も秀吉はたまに現れては正信と話をしていきました。正信はだんだんとこの男が好きになっていきます。仕えるべき主君はもういません。本願寺顕如は色々と近くで見ていると俗物のようで正信は宗教から興味を失っていきました。そうは言っても戦は待ってはくれません。毛利の水軍が織田に敗れたようで食料の補給が断たれました。織田軍は本願寺を囲んでいて秀吉も来なくなりました。
本願寺が落ち、正信は解放されました。さて、どこへ行こうかと思っていると甲賀の忍びが接触してきたのです。その忍びは木下秀吉の手の者と名乗りました。
「秀吉様からの贈り物でございます。しばらくその金で諸国を周り、その後で良ければ仕えて欲しいとの事でございます」
正信は断る理由もなく金子を懐に入れて、
「わかり申した。ありがたくお受けいたすとお伝えくだされ」
それから正信は昔の伝手で尾張、三河、駿河を周った。そこはもう武田の領地となっていて治安も良く、民も平和そうだった。見た目にはそう見えた。駿河を周っている時に伊豆に徳川の家が出来て小さな領地を貰っていると聞いて尋ねてみたが、その家の者は知らない連中だった。松平の縁戚だそうだが今の正信には興味が無かった。この家に仕えても面白くないのだ。細々と終わるだけの人生になってしまう。三河一向一揆から始まった正信の戦人生の経験は活かせない。
諸国を周りながら武田、毛利、明智、そして秀吉の情報を集めた。本願寺にいる時に根来寺の僧と親しくなり生き残りに秀吉から貰った金子を分けて情報網として使っている。また、三河にいた時に顔見知りだった服部半蔵が伊賀に戻っていたので配下として使い始めた。ここにも秀吉の金が使われた。服部半蔵は忍びの出なのだが武士になりたがっている変わり者だ。
秀吉からは定期的に金が届いている。その金額はどんどん増えていく。そしてそれは惜しみなく情報入手に費やされた。正信が金の受け渡し時にもたらす情報は素晴らしいもので、草の情報とは視点が違い面白い物が多かったのだ。忍びよりも旅の僧侶の方が大衆の声は拾いやすい。そして秀吉が使う甲賀と服部半蔵がいる伊賀者は仲が悪い。それ故に競争心が働いたようで伊賀者達は必死に情報を集めてくれた。
そして武藤喜兵衛なる男が武田の軍師であり、空を飛ぶ武器を使う親玉という事がわかった。そしてその本拠地は岡崎城、ここに秘密がある、と。それを秀吉に伝えるとその事はすでに知っていて今、その武藤喜兵衛は明智との戦で留守だという。正信はこの機会に何かできる事はないかと考えた。明智との戦には武田の西側の主だった武将が参戦していて、留守を守る兵はさほどの勢力はないようだ。
その時、服部半蔵が面白い情報を持ってきた。
「旧今川家臣の一色昌典という者がおかしな動きをしています」
話を聞くと確かに面白い。正信は半蔵に引き続き一色の動きを見張るよう命じました。
これは面白い事になりそうだ。なんにせよ、手ぶらというわけにもいくまいて。




