米沢城の中
勝頼は、米沢城に先に入った穴山が後で教えてくれるだろうけど、と思いながらも
「そうか、輝宗殿もお亡くなりになったのか? お前が殺したのか?」
途中で二呼吸くらい間を取ってから嫌な事を言った。
「馬鹿な事を。俺は身内には手をかけん!グッ……… 」
手足が痛そうだ。ちょっと興奮して動かすと痛みが走ってるのがわかる。それなのにわざと怒らせてるおいらって悪いやつだね。
「小次郎殿の行方は余の手の者が探しておる。直にみつかるであろう。ところで風魔を差し向けたのは秀吉か?」
「そうだ。武田もあれが出てくるまでの天下だ。せいぜい楽しむがいい」
「やっぱりそうか。風魔の拠点は西という事だな。それさえ聞ければお前にはもう用はない。何か言い残すことはないか。家族想いの政宗殿」
「ない、いや、そうだ。そこにいるのは直江兼続だな。父上が同盟を持ちかけたのに断ったと聞くが、そんなに武田が怖いのか?天下の上杉は属国扱いで満足しているとは思わなんだ」
兼続は勝頼を見た。発言していいか、と聞いている。こういうところはさすが上杉です。しっかりしています。勝頼が頷いたのを見て、兼続は姿勢を正してから発言します。
「我が上杉は義を重んじている。失礼だが伊達殿のお誘いは私利私欲のみで義が感じられなかった。それだけでござる」
兼続は政宗を凝視しつつはっきりと言い放った。だからなんだ、文句あるのか、と態度で言っている。
「義か。義で飯が食えるのか?上杉も甘いは。だが、敵に下るのも生き残るためには必要な事なのかもしれんな。勝頼殿、小次郎を頼む。死んでいれば仕方がない、後は好きにしろ!」
勝頼はもう一度猿轡をさせて木の牢に政宗を放り込んだ。殺すのはいつでもできる。ゼットの面々が現れて周囲に敵の気配はないという。念のため兼続に聞いたが、梟も同じ見解だった。風魔の拠点がここにないとわかれば安心だろう。引き続き警戒は緩めないよう指示はしたが、とりあえずは安全だ。だが、他にも敵はいる。
政宗を山県に預けて、勝頼は馬場信春、本多忠勝を連れて米沢城へ入っていく。信勝は安全がわかるまでお市とともに待機だ。山上道及と直江兼続が護衛を兼ねて残っている。まだ未解決なのはどこで伊達家族が入れ替わったかだ。政宗は城の中でだろうが、小次郎と義姫がわからない。普通に考えれば小次郎と義姫が同じタイミングで拉致されたとみるのが妥当だし、となれば伊達陣の中に敵が混ざっている可能性が高い。伊達陣にいるのは小次郎率いる旧伊達軍、政宗を知っている者も多いだろう。今までのやり取りを見て不快に感じている者もいるだろう。つまり、まだ何か起きる可能性は残っている。
城に入ると穴山梅雪が待ち構えていた。
「お屋形様。城には一部の兵と政宗の正室がいるだけです。皆、覚悟を決めています」
暴れる様子はないという事です。
「政宗の正室は田村家の者だったな。確か、そうだ。相馬とも関係があったはずだ」
「田村は今回伊達側につきました。馬場殿が城を落とし、切腹させております」
「仕方あるまい。相馬へ預けるとしよう。で、輝宗はいたか?」
「地下室がありまして、そこに死体がありました。状態から見て、死後数日かと思われます。外傷はなく、病で倒れたようです」
病死でした。偶然このタイミングで病死というのも不思議ですが、異常はなさそうでした。
「輝宗が死んだ事が、今回の政宗の行動に関係していたのでしょうか?」
穴山が尋ねます。穴山は伊達の動きがおかしいと勝頼に聞かされてから色々と考えていたようです。
「無くはないだろう。まだ、政宗は生かしてある。後で聞いてみてもいいが、早く殺して欲しそうだしな。あれ以上は喋りそうもないし」
「なぜ生かしておいたのですか?」
「うーん、上手く言えないのだが強いて言えば小次郎かな」
「???」
穴山は意味がわかりませんでした。ですが、何かあると感じているのでしょう。政宗の正室、愛姫を相馬へ引き渡しました。愛姫の母親は相馬の親族なのです。城の中を検分し、ここは誰に任せようかと考えていた時に、ふと、室賀の顔が浮かびました。室賀正武、小県の国衆で、川中島では活躍した武将です。最近は表だった活躍はしていませんが、信玄が信濃を攻略し始めた時から武田に味方しています。
そこに伝令が飛び込んできました。そのために室賀の事はまた頭から消えてしまっています。
「お屋形様、伊達小次郎様が見つかりました」
伝令は錠でした。徳の弟で特殊部隊ゼット、チーム甲のリーダーです。
「で、生死は?」
「ご無事でした。山間の洞穴の中に縛られておりました。今、救出し陣へ向かっております」
「そうか。で、伊達陣内での動きはどうだ?」
「一部の兵が結託して行動を起こそうとしていたのを紅が見つけ、山県様がすでに包囲しております」
事前に防げたか。その中に風魔が紛れ込んでいるかもだな。勝頼はそう考えながら自分の陣へと戻っていきました。室賀の事は忘れて。




