政宗誘惑
伊達政宗は父、輝宗から家督を継いだ。それを母である義姫は面白くなかった。最上義光の妹である義姫は、伊達家と最上家を繋ぐための政略結婚として伊達家に嫁がされた。政宗が産まれ、小次郎が産まれた。このまま平和が続けばよかったのだが、東北は取ったり取られたり、仲良くなったり喧嘩したりを結局繰り返している。
義姫は大人しく家に籠っていられる女性ではなかった。自分が何とかして平和を築こうとした。色々と思案し亭主の輝宗や、兄、義光と相談もした。だが結果は何も変わらなかった。最上も伊達も相手を全く信用していないのだ。それでは自分は何のための結婚だったのか?
自らも槍を持ち馬に乗り、戦場にも出た。だが、求めているのは平和であって戦ではないのだ。ところが周囲の目はそうは見ない、好戦的女性として評価されているのが現実だ。だが、本来は好戦的ではなく、根本的な戦好きの政宗とは考え方が合わない。
それに比べて小次郎は素直だった。義姫の考え方を理解してはくれた。だが、小次郎は兄、政宗の事も慕っていた。義姫が政宗との仲が徐々に険悪になっていくのに困っていた。政宗と母の間の板挟みでうまく立ち回ってきていたつもりだった中、今回の戦が起きた。小次郎は蘆名を継ぎ、伊達家から離れる事を選んだ。ところが、そこから事態は二転三転する。
武田が来たのだ。しかも小田原の北条を滅ぼして。
武田と北条の戦が始まる前の事、政宗のところに使者が現れた。木下秀吉の使者だった。
「お初にお目にかかります。木下秀吉の使者として参りました、小幡竜乃進と申します」
「木下秀吉、ふん。信長を倒していい気になっていると聞くが?この政宗に何用だ?」
「それがしは普段小田原近郊に百姓として住んでおりまする」
「ほう、秀吉の草というわけか。小田原にな。西で忙しいのに東にも草を置くか」
どうやら秀吉は抜け目がなさそうだ。東にも目を配っているということは天下を狙っているという事だ。
「秀吉様は今、毛利家で活躍をされており近く毛利をも自分の物にする所存。そして秀吉様はいずれ天下を治めると申しております。北条氏政様とも同盟を結んでおり、伊達様とも共闘したいと申しております」
「わかった」
「何と?」
「わかったと言った」
即答するのか、面白い男だ。小幡は普段は二宮で百姓をしていて関東の様子を秀吉に定期的に伝えている。元は甲賀の出身だ。関東の色々な武将を見てきたが政宗のような男は初めてだった。
「何も聞くことが無いのですか?条件とかですが」
「なんだ、金でもくれるのか?」
「秀吉様は条件を聞いてこいとおっしゃっておられたので」
「そんな口約束に何の意味がある?元々伊達は北条とは敵対していない。敵が共通しておるからだ。だがそれも状況が変われば分からん。秀吉とも同じだ。今はその方が得だからそうするだけだ」
使者は帰って行きました。そして定期的に政宗の元にやってくるようになります。小幡は北条と武田が争いになった事を告げ、佐竹や結城もその戦に駆り出されたというのです。政宗は、
「これは北条を助けるという名目で攻める好機だ」
政宗は戦支度を始めた。するとそれをどこから聞きつけたのか義姫が
「最上と共闘しましょう。そして蘆名に小次郎殿を」
と提案してきたのです。政宗は母の事が好きでした。そしてその母に嫌われている事は知っています。ですが義姫が求めている事は女の戯言にしか思えません。平和?戦がない?そんな世の中が面白いのか?
答えは否、です。
ただ義姫の提案は尤もな物でした。義姫が小次郎を伊達家当主にしたがっていた事は知っていますが、すでに家督は政宗が継いでいます。となると小次郎をどうするかですが、勢力拡大を目指す政宗にとって、小次郎に蘆名を継がせる事はプラスになります。政宗はその案を採用して自らが相馬、岩城、そして常陸へと攻め上がっていきます。別働隊の小次郎に黒川城を守らせて。
武田が北条を攻めようが知ったことではない。秀吉も然りだ。領地を広げる好機、政宗にとってはただそれだけでした。ところが、常陸に入ったところで佐竹が息を吹き返します。武田の応援がきて伊達軍を攻め始めたのです。
武田の兵は日に日に増えていき、政宗は連敗を繰り返しついに引き上げる事になってしまいました。米沢まで引き上げ、共闘していた最上も引き上げていきました。そこに、今までとは違う者が使者として現れたのです。
「伊達政宗様。それがしは風魔の太助と申す者、小幡殿に変わって秀吉の使者として参りました」
「秀吉め。北条を見殺しにした上に俺に何の用だ?それと小幡はどうした?」
「まず小幡殿は戦に巻き込まれてお亡くなりになりました。武田の北条攻めは速い上に残酷でした。小田原城を空から燃やしたのです」
政宗はその話に興味を持ちました。武田軍の強さの秘密が聞けると思ったのです。




