直江兼続の独り言
直江兼続は上杉景勝の腹心である。景勝は、長尾家の出身だったが子供がいない上杉謙信の養子となった。ところがそこには先客の養子がいた。北条家から戦略的に送り込まれた?利用されたというのが本当のところだろうが景虎という男がいた。
自然と派閥ができて、謙信亡き後どちらが跡を継ぐかを争う事になる。謙信は結局死ぬまでどちらが跡を継ぐかを明言しなかった。遺言状で事件も起きたが結局勝頼のおかげで景勝が上杉を継ぐことが出来た。それ以降、上杉家は武田の従国となった。
景勝は謙信に習い、義を重んじている。謙信と同じように軍神とも言われる毘沙門天を敬っている。民を愛し国を守ろうと必死だ。兼続はそれを見て兜に愛の字をつけるようになった。この愛という字は、義、民への愛、それを守るための戦の勝利を意味している。兼続は勝つ軍を目指しています。そしてゲン担ぎで勝軍地蔵という仏にあやかったのです。勝軍地蔵は愛宕権現に祀られている事から愛という字を兜に付けました。この勝軍地蔵は毘沙門天とともに戦うという逸話が残っていて、景勝と共に戦い勝つという想いが込められています。勝頼の勝からとったのではないが、勝軍というのが気に入っていてこの次に勝頼に会ったら見せようと思っていま。
実際はなかなか出会えないのだ、というより距離を置いて見ているというのが正しい。
上杉お家騒動の後、武田は北条を攻めた。結果、信玄が殺され、勝頼は小田原城を燃やして北条家を滅ぼした。兼続はその様子を忍びを使って監視していたのです。兼続にとっては景勝のみが主人です。この戦国ではいつ何が起きるかわかりません。謙信が北条の忍びに殺される事だって実際に起きました。今は武田に従っていますが勝頼に同じ事が起きないとは限らないのです。
勝頼を知る、まずはそれが目的です。上杉が武田に従うとなった以上、この先どうなっていくのか、有事にどう動くのが最善なのかを判断するのには情報が大事なのです。
上杉お家騒動から発した武田と北条の争いに決着がついた後、兼続は忍びから情報を得ました。どうやってあの小田原城を落としたのか、です。上杉謙信公が10万の大軍で落とせなかったあの城を。
「空から油を撒き火矢を放ちました。海の上からの砲撃もありました」
「風魔は西へ移動しました。追跡した者は戻ってきておりません」
「武田勝頼公は自ら北条氏直を斬り捨てました」
兼続は武田がおかしな武器を使う事は聞いていました。上杉家にも謙信公がお気に入りの中砲という砲台があります。それを踏まえても報告は驚くべき物でした。兼続は図面上で何が起きたかを順番に再現していきます。兼続の独り言がでます。
「二の矢、三の矢とは言うが、恐ろしい。誰が考えた作戦なのだ?」
武田信玄が死んだ。北条の忍びにやられたという。その割には武田軍は意気消沈したようには見えない。勝頼のカリスマがそうさせているのかとも思ったが、信玄公時代からの重臣は皆活き活きと活躍したそうだ。これはおかしいと探りに出た。北条攻めが終わって関東に一時的に平和が訪れたのを機に、兼ねてから行ってみたかった下野へ行くことにした。
佐野宗綱は上杉と長年争っていて負けたことの無い武将です。兼続は興味があり機会があれば話をしてみたかったのですが、やっと機に恵まれました。長年の因縁を水に流すべく越後酒と米を持って訪れました。そこには山上道及という家老がいました。
佐野も山上も勝頼に惚れ込んでいました。すっかり勝頼贔屓になっています。一晩酒を酌み交わし語り合い感じたことは、勝頼ならば本当に世を平定できるのではないかという事です。
次に武田信玄が死んだ場所である宇都宮城を訪問しました。同じく酒と米を持って。そこでは、宇都宮国綱という若い当主が出迎えてくれました。
「宇都宮様、お初にお目にかかります。上杉景勝が家臣、直江兼続と申します」
上座に座った国綱は、
「直江殿のお名前は勝頼様から聞いています。上杉にこの人ありとまで言われておるそうで、お会いできて嬉しく思います」
国綱は当主だが腰が低かった。ただ、眼は力強い。上野は長年争いが絶えなかった。そこで家を守るのは大変なことだっただろう。兼続はそんな事を思いながら世間話の後、本題に入った。
「この城に武田信玄公がいらっしゃると伺ったのですが?」
「はて?信玄公はお亡くなりになったと聞いています」
「聞いている、と?世間ではこの城でお亡くなりになったと言われておりますが?」
「いかにも。私が外出している間の出来事であった。私も武田のご重臣方から聞いた話なのです。ご遺体も見ておりませんし、私にはそれ以上はわかりかねます。それがどうかされましたか?」
「正直に申し上げます。それがしは信玄公はこの城にご存命だと考えております」
「ほう、何故にでございますか?」
「そう考えないと辻褄が合わないのです。宇都宮様のご立場ではお答えする事は難しいでしょう。今日はここまでで結構でございます。お互いに武田に従っている家同士、これからもよろしくお願いいたします」
兼続はそう言って席を立った。武田の忍びに見張られている感じがする。兼続は梟を連れて来ていた。それとなく探らせたが警戒が厳重で近づけないエリアがあるそうだ。兼続の独り言がでる。
「どうやら当たりだな。さて、上杉も落ち着いてきたことだし、東北へでも出かけますか。愛の兜の初陣を兼ねて」




