徳の疑問
徳は坊主頭の武藤喜兵衛を見て笑いが止まりません。横にいる幸村は笑ったら殺されると必死に笑いをこらえています。
「喜兵衛殿。相手が手強かっただけだわさ。織田信長が惚れ込んだ男が相手だったんだから良く頑張ったわよ。信豊殿の機嫌が悪かったんでしょ、気にしない気にしない」
「師匠。最後はいいようにやられてしまいました。丹羽殿の機転がなければどうなっていたか」
喜兵衛は信豊に言われて頭を丸めましたが、それは信豊の優しさだと理解しています。喜兵衛は気付かぬうちに少し自惚れていたのです。敵の罠を見破り、新兵器を使い作戦がうまくいっていました。調子に乗っていたわけではありませんが、結果として最後の最後に無様な結果になるところでした。
頭を丸めたのは反省するのにいい機会でした。信豊は敢えてそう指示を出したのです。喜兵衛に期待を込めて。
「丹羽殿が間に合わなかったらあたいが出てたわよ。だから本陣は平気だったの。それよりも菅原殿は良く間に合ったわね。さすが昔の宴会仲間!」
それを聞いた菅原が、
「徳様、それは内緒のお約束では?それよりも徳様は一体何をやったのです?明智左馬助は何処へ?」
「ああ、多分そいつだと思うけどもういないよ。空からドカン」
菅原はここに向かう途中で戦意を失った明智軍を見つけました。最初は戦になると思いましたが、敵兵は意気消沈しており急いでいた菅原は彼らを相手にせずに駆け抜けたのです。その機転もあって戦に間に合いました。駆け抜けている間にあちこちで燃えた兵が転がっていました。あの中に明智左馬助がいたという事のようです。
「空からドカンですか。また新しい武器を開発されたのですね。海上にいるはずの徳様がここにいるのが摩訶不思議ではありますが、徳様ですから何があってもおかしくはありません。ですがその武器というのは高天神城で見たアレではないのですか?」
「そうだわさ。この間来た時に見せたアレよ」
「よろしかったのですか?秀吉との戦用と伺いましたが」
「仕方なかったのよ。かなの仇は取らないと。それに嫌な予感がしてね。明智十兵衛は嫌な奴だからこのくらいしとかないと安心できないのよ。お屋形様がこっちに戻るまでに明智の勢力を削っておけば楽になるしね」
「それでアレはどうしたのです?実は乗ってみたいのですが」
菅原は高天神城を訪れた時に熱気球を見ていました。ただ、その時は本当に飛ぶとは思っていなかったのです。
「実はね、昨夜襲われたのよ。敵の忍びにアレが降りるところを見られていたの」
徳は菅原と武藤喜兵衛に昨夜起きた事を説明しました。
「それで、その忍びなんだけど最初は明智の忍びだと思ったのよね。ところが」
そこに幸村が割り込みます。
「父上、それがしはその忍びとやり合いましたが正体は掴めませんでした。ただ、影猫が相手を見ていました。それが、例の錠に怪我をさせた忍びに特徴が似ていたというのです」
「まさかに。ここに秀吉の偵察が入っていたというのか?」
徳の弟である錠は、特殊部隊ゼットのチーム甲のリーダーだ。チーム甲が織田信長の死因を調べていた時に出くわしたのが秀吉の忍び、飛龍と地龍だ。錠は飛龍とやり合って大怪我をした過去がある。
「そのまさかだと思います。敵は気球の中に入ってどんな構造かを調べようとしていました。誰も口を割りませんでしたので秘密は守れていますが、空を飛ぶ乗り物がある事は知られてしまいました。以前、お話を伺った織田信長を殺したのが甲斐紫電もどきだとすると、秀吉との戦では空の戦いになるかもしれません」
「幸村、徳様はそれを承知で気球を使われたのだ。一度使えば情報は漏れる。だが、相手が秀吉となると………」
言葉を詰まらせた喜兵衛に対し徳が
「心配いらないだわさ!真似はできるだろうけどそれ以上の事は出来ない。ハンググライダーに拳銃、気球、あたいがそれ以上の物を作ればいいだけよ。それより明智十兵衛なんだけど、なんで攻めてこないの?坂本城からこっちに出てくれば勝てたのに」
それには喜兵衛が、
「兄上が抑えておりまする。明智十兵衛は今までは織田様が出陣するのを牽制していましたが、今回は見逃しました。ご存知の通り、わざと出陣させて織田様の首を狙ったのです。当然我らの背後を突かれる可能性もあり、兄上がそれを抑えたのです」
「昌輝殿か。それはわかるけどそれくらいで出てこないっておかしくない?丹波、丹後、甲賀の衆までつぎ込んでるのよ。海の油作戦は見事だった。あれで本当は明智の勝ちでもおかしくはなかった」
徳はこの戦、結果は勝ったものの腑に落ちていません。十兵衛が本気で攻めてきていたら?海軍が使えなかった事を考えると部分的には負けでしょう。
「徳様の熱気球、菅原様のご活躍。それが想定外で、それがなかったら明智が勝っていた。明智十兵衛は勝てると思い込んでいた。それだけの事ではないですか?」
「幸村殿の言う通りならいいんだけどね」
徳はまだ腑に落ちていない。




