蒲生氏郷の首
蒲生氏郷と八百のキリシタン兵が本陣に向かっています。護衛の多い中央ではなく、側面を狙って。ところが、
「撃てー!」
防御が薄いと思われていた左面に鉄砲隊が待ち構えていていました。そしてすかさず矢も飛んできます。蒲生の兵は一気に五十名減りましたが突進は止まりません。この兵は死を恐れていないので怖いという感情が欠如しています。何があっても信じる道を進むだけ、織田信忠の首を取るために。
それを見た曽根はすぐさま伝令を走らせ奇襲があった事を信豊に知らせます。他の部隊へ応援は頼みません。それは信豊の役目です。敵襲がここだけとは限らないのです。そして自らが槍を持ち敵と交戦に入りました。
「申し上げます。本陣左側より敵が襲ってきました。その数八百、曽根様が応戦中ですが数で負けています」
伝令は特殊部隊ゼットのチーム戊のリーダー あいでした。他のメンバーも見張りに出ています。信豊の護衛役のみれいを除いて。
「そうか。やはり隙をついてきたか。他の動きは?」
「今のところありません」
「曽根の援護に勝沼から五百回せ。それと手筒隊を用意させておけ」
信豊はそう指示してから考え出します。喜兵衛の策はうまくいっているようなのだが、何か気になるのです。その何かがわからないのでふと横の信忠を見ると考える人のポーズで足が震えています。落ち着かないのであろう。
「信忠殿。作戦はうまくいっている。大将はもっとどんと構えていれば良いぞ」
「信豊殿。余は今回、何もできていない。全て信豊殿に頼ってしまっている。それが歯がゆい」
「気にしない事です。お屋形様は織田を大事に扱うよう常々話しています。お市様のお家でもありますし、武田の家のようなものなのですから」
他愛もない話をしている間でも戦は続いているし、信豊も警戒を緩めない。そして曽根隊が突破されてしまい控えていた勝沼五百の兵も突破されてしまいました。死を恐れずに、怪我をしても倒れても歯向かってくる敵に武田兵は圧倒されていたのです。
「こいつら切っても刺しても止まらないぞ!」
「息の根を止めるまで油断するな!」
蒲生の目的は戦って勝つ事では無くなっています。欲しいのは織田信忠の首だけなのです。本陣目掛けての突進は止まりません。徐々に兵を減らしながら蒲生氏郷は進みます。そしてついに本陣までやってきました。
「撃てー!」
信豊と手筒隊が向かってくる敵に向かって桜花散撃を発射しました。信豊は素早く手筒をみれいに預け、両手に拳銃を持ちます。他の手筒隊が下がるとボーガン隊が前に出て矢を放ちます。桜花散撃が撒き散らかしたマキビシの効果でさすがに死を恐れない敵も足取りが遅くなっています。死が怖くなくても痛いものは痛いのです。そこを信豊の拳銃とボーガン隊の矢が襲います。
信豊は全弾撃ち尽くすと後方へ下り、旗本を前に出しました。拳銃をみれいに渡して弾倉を入れ替えさせます。その間に状況を確認します。信忠となぜかいる信平の周りには百の護衛がいます。今のところ他の奇襲は無さそうです。中央がどうなっているのか気になりますが喜兵衛がいるので大丈夫でしょう。
マキビシで進行が遅くなった蒲生軍に一度突破された曽根隊が後ろから襲いかかりました。これで挟み撃ちです。奇襲隊は全滅しましたが、武田軍の損害も大きくなっています。曽根が本陣へ戻り報告をしようとすると、信豊は
「曽根、まだ戦は終わっておらん。持ち場へ戻れ。報告は全てが終わってからだ!」
と言い、曽根を左側へ戻しました。曽根は、さすが信豊様だと戻ります。そうなのです。戦は気を抜いた方が負ける事があります。最後まで油断はできません。そして曽根は氏郷の首を探させます。蒲生の旗こそありませんでしたが立派な鎧をつけた武者がいました。あれが蒲生氏郷のはずです。
中央部では混戦乱戦が続いています。双方合わせて一万人以上の兵がぶつかっているのですから。ここの蒲生軍の目的は武藤喜兵衛の首です。そう言われているのです。そして誰もが我が先と六文銭の旗印を目掛けて進もうとします。たまに集団を抜けて武藤喜兵衛の目前まで迫る敵が現れますが、喜兵衛はそれを銃で倒していきます。特殊部隊チーム丙と丁の狙撃部隊もフォローしていますが誰もが我先で突っ込んでくるので防ぎきれないのです。
「殿、また敵を通してしまいました。申し訳ありません」
「これでいいんだ。信豊様の作戦はわしが囮になる事だ。兵の数はこちらが多いのだ。冷静に対処すれば勝つ。それにもう丹羽殿達が戻ってこよう」
喜兵衛がそう思う頃、敵陣にいた矢沢頼康隊が追いつき蒲生軍の背後から攻めかかります。その数五百まで減っていますが、後ろからの攻撃に蒲生軍は倒されていきます。丹羽長秀、佐久間の隊はまだ戻ってきていません。彼らは蒲生氏郷を追いかけていました。遠目に見失わないよう気をつけながら。
そして本陣左翼では曽根が部下が拾ってきた蒲生氏郷の首を取り、織田信忠の前に持ってきました。
「織田様、蒲生氏郷の首でございます」
「こ、これは?」




