直政の恋
もう1人の男、それは元特殊部隊ゼットで戦闘向きでないために高天神城へ配置換えになった助蔵でした。助蔵は気がつくと三郎が殺されているのを見てもがきます。飛龍はそれを見て、
「死にたくなければ答えよ、良いな」
と言うと男は静かに頷きました。よし、と猿轡を緩めます。その瞬間、助蔵は大声を上げます。
「あーーーー!」
飛龍は慌てて助蔵の口を塞ごうとしますが助蔵は口を抑えようとして飛龍の指を思いっきり噛みます。
「グワッ」
飛龍が手を離したすきに助蔵は大声で叫びます。
「自爆しろ!早く!」
自爆だと!いかん。飛龍は慌てて船から出て、
「地龍、爆発する、逃げろ」
と叫んで走り出しました。慌てて逃げ出し木陰に潜みます。ところがしばらく経っても何も起きません。飛龍は騙されたと気付き、
「小癪な、皆殺しにしてやる!」
と我を失っています。それを地龍が抑えます。
「兄者、どんな敵だった?」
「鍛冶屋のような、あの船を動くようにしていたようだった」
「そのような輩でも兄者ほどの者を相手にこれだけの事を。武田おそるべしでござる。一兵とても油断できない、この事を秀吉様に伝えましょう。引き際です」
飛龍は悔しがっていますが地龍の言う通りです。無事に戻らねば折角得た情報が活きません。仕方なく引き上げようとした時に、空飛ぶ船から何かが打ち上がりました。
『ヒュー〜〜〜ボン!』
「しまった、合図だ。兄者逃げるぞ!」
飛龍と地龍は別々の方向へ走り出します。こういう時はどちらかでも生き残ればいいと、別々に逃げるようにしているのです。
合図を聞いて駆けつけたのは影猫でした。影猫は逃げる敵を見つけ銃を発射します。
「バン、バン、バン」
三発撃ちましたが当たりません。元より当たるとは思ってはなく、威嚇の意味です。多少でも怯んでくれれば追いつけると思ったのですが、敵らしき者は全く気にせずに逃げていきます。影猫は仕方なく笛を吹き応援を呼びました。他の者に任せて熱気球へ向かいました。というのも影猫は影で徳の護衛をしていたのです。あまり遠くに離れるわけにはいかないので仕方なくです。ところが影猫はここで判断を誤りました。敵が逃げていたのでそれで敵が全員だと思ってしまったのです。影猫が見つけたのは飛龍でした。
反対側に逃げていた地龍は、熱気球に向かって歩いてくる徳と幸村の前に飛び出てしまいました。幸村は徳の前に出て刀を抜きます。地龍は素早く飛苦無を投げ、幸村が刀で弾いた隙に徳の足を払おうとして、
「ム!」
徳がそれを交わしたのに驚き一瞬動きを止めてしまいます。そこを徳が素早く抜いた最新式拳銃、トックーP78をぶっ放そうとした時、なぜか井伊直政が飛び込んできてしまいました。
「徳様、危ない!」
徳は直政が邪魔で銃を撃つ事ができません。その隙に地龍は井伊直政を軽くあしらって逃げていきます。直政は気付いたら地面に転がされています。それを見た幸村は直政に向かって
「井伊殿、情けない。それに折角徳様が賊を仕留めるところを邪魔をして。そもそもここで何をしておられるのです」
直政は徳が自分に銃を向けているのを見て焦っています。
「徳様、なぜそれがしに銃を向けているのです。私です。井伊直政でございます」
「本当に井伊殿?そっくりに化ける忍びがいるって聞いただわさ。あたいの邪魔をして敵を逃したでしょ。あんた敵なんじゃないの?」
「違います。本物の井伊直政でございます。お二人が本陣を出て行かれたのでついてきてしまいました。そうしたら突然賊が出てきたのでこれは一大事と」
「それであたいの邪魔をしたと。死になさい」
「ご勘弁を!ご勘弁を!」
直政は慌てふためき懇願します。幸村はおかしくて仕方ありません。熱気球の上で散々馬鹿にされていたのでいい気味です。とはいえ可哀想なので、
「徳様。井伊殿に悪気はなかったのです。勘弁してはいただけませんか?」
「まあいいだわさ。信平殿にとって大事な男のようだし、でも次はないだわさ。でもあの賊は何?蒲生の忍びかしらね?こんなところにいるなんて喜兵衛殿の失態ね」
徳の顔が再び険しくなります。幸村は不思議に思いました。父上らしくないと思ったのです。この3人が熱気球に着くと影猫が先にきていました。徳を見て跪きます。
「まーたまた可愛い子がいるだわさ。どこのどの子だい?」
それを聞いた幸村が、
「徳様、これは影猫と言いまして父上が育てた忍びです。特殊部隊ゼットのチーム丁のリーダーでもあります」
「貴女が、ふーん。話には聞いてたけど本当に美少女ね。ねえ、良かったらお屋形様の側女にならない?」
影猫は冷静に答えます。
「徳様。お言葉ではございますが、私は武藤喜兵衛様に拾われ育てられた身です。武田のために、戦さ場で恩を返したいのです」
「そう、残念ね。もう1人くらいいてもいいんだけど」
徳は教科書で信長の子、秀吉の子、家康の子についてどうなったかを知っています。男子は沢山いた方がいいと考えています。徳も幸村も影猫の真の素性を知りません。勝頼が聞いたらぶったまげたでしょう。影猫は徳川家康の隠し子なのですから。そこに武田の血は入れられないのです。
横を見ると井伊直政が影猫を見て固まっています。一目惚れのようです。幸村は何しにきたんだこいつ、と白い目で見ていますが直政は固まったままです。
そんな事を気にしない徳は影猫に冷静に聞きます。
「被害は?」
「数名殺されています。恐らくは先ほどの賊かと。西へ逃がしてしまいましたが、手の者が追いかけています」
「そう、そっちにもいたの」
「徳様、まさか?」
「あたいも逃がしちゃっただわさ、そこの井伊殿のせいでね」
影猫は直政を見ました。直政は目があってしまって顔が真っ赤です。それを見た幸村が、
「鬼の井伊殿が真っ赤になっておる。愉快愉快」
と冷やかすと、直政は本当の鬼のように怒り出しました。
「おい、幸村、貴様は何かと頭にくる」
「賊に転ばされた男が何を言うか、情けない」
「情けないと申したか?空の上の貴様の方が情けないわい!」
「あれは数に数えないでもらいたい。普通、人は空には浮かばん」
言い争いが続き見かねた徳が怒鳴ります。
「うるさいだわさ!直政殿、嫁は関東で見つけなさい。さて助蔵は生きてるかい?」
そう言いながら徳は熱気球の中へ入っていきました。影猫に周囲の警護を頼んで。




