裏の裏
源三郎が本陣へ焦って戻る中、丹羽長秀の部隊では丹羽長秀をかばって足軽大将級の者が味方に扮した敵に斬られてしまいました。敵は討ち取ったものの指揮官を失っています。丹羽長秀も信忠が危ないと考えて本陣へと向かいました。
そして本陣では、信忠を襲おうとした者達が本陣に近づく事なく殺されています。本陣へは顔の知らぬ者は合言葉が必要だったのです。合言葉は3種類あり、関所も3ヶ所あります。最初の関所は遠目で見てクリアーできましたが、2個目でそれを知らぬ襲撃者は同じ合言葉を言ってしまい呆気なく見つかってしまいました。そんな事はしらない源三郎と丹羽長秀が本陣へ駆けつけた時、武田信豊と武藤喜兵衛は討論の真っ最中でした。
「なあ、頼む。あの魔神なんとかのみれいという女が気に入ったのだ。操作係とはいえ少しは戦えるのだろう。俺の護衛兼側女として近くに置きたい」
「殿。お気持ちはわかります。ですが、あれはそういう目的ではなく、戦のために育てたのですぞ。女子ならそこらにもいるでしょう」
「わかってないなー!勝っちゃんを見ろよ、お市殿に徳ちゃん、それに姫がわんさか。そりゃ向こうはお屋形様だし、俺は分家だけどさ。まだまだ戦は続くだろう。戦える女を側に置きたいんだ」
「みれいはなんと?」
「5人の活動は辞めたくはないと。それ認めれば合意だそうだ」
「いつの間にそんな話を。さっき知り合ったばかりでしょうに」
「素早いのが俺の取り柄だ」
その話を後ろで徳と幸村が聞いています。徳は笑っていますが、幸村は可笑しくても笑えません。これで笑ったら後で騎兵にしこたまどやされます。その時、到着した源三郎が呆れながら、わざとらしく咳き込みます。
「ウェゴッホン!よろしいでしょうか?」
「な、なんだ源三郎。丹羽殿まで、どうされた?」
焦る信豊と違って2人は真剣です。長秀が話し始めました。
「敵が味方に扮して陣に紛れ込んでおります。それがしも源三郎殿も危うく斬られるところでした。殿はご無事で?」
「信忠殿ならそこに徳様と幸村と一緒にいるよ。そうか、そなたらも襲われたのか?」
源三郎が焦って、
「という事はこちらも襲われたのですか?」
「いいや、喜兵衛が合言葉を決めていたので近付けなかったんだ。もう始末した。で、相手の狙いだがそれだけだと思うか?」
信豊の言葉に源三郎が考え込みます。そこに幸村が、
「信豊様。発言してもよろしいでしょうか?」
「かまわん。許す」
「兄上。敵の狙いは新兵器ではないでしょうか?それがしはその魔神一号機とやらは見ていませんが、恐らくは敵から見た未知の攻撃の正体を探っているのではないかと。兄上を狙ったのはあわよくばで、氏郷の真の狙いはそちらではないでしょうか?」
「大砲も敵にとっては未知だろう。父上、砲撃隊はどこに?」
「明日の準備で大砲、中砲を運んでいるところだ。源二郎ではない、幸村の言う通りだとすると危ないな」
「そんな呑気な!殿もこの一大事に女子のことなど………」
「黙れ!お前は殿に意見できる立場ではない。既に砲撃隊は敵の攻撃を受けた。何人かはやられた。敵は大砲を奪おうとしたのだが流石に簡単に運べる物ではない。運ぶ途中に仕留めたから安心して自陣へ戻れ。ただ、殿の件は言いたくなる気持ちはわかる」
そう言って喜兵衛は信豊をみた。信豊は横を向いて口笛を吹いている。
「殿、夜中に口笛を吹くと蛇が寄って来ますぞ!」
「子供の頃、聞いたことがある。で、なぜ蛇が寄ってくるんだ?」
「それはですな、笛の音は自分の居場所を知らせてしまうので、そこに色々な物を呼び寄せてしまうからと言われております。悪しき者を呼び寄せる事から蛇と言われるようになったのです」
「おお、さすがは武藤喜兵衛。そんな事まで知っているとは。お前を家臣に持って俺は心強いぞ」
「おだててもごまかされませんぞ。みれいの件は承知しました。ただこの戦が終わるまでは遠慮して下さい。さて明日の策ですが、源三郎、丹羽殿。丁度いい、話を聞いてから戻ってくれ」
その後ろでは信忠がそのやり取りを聞きながら、
「徳殿。武田はいつもこんなに賑やかなのですか?」
「そうですね。大屋形様の重臣の皆様は堅物が多いですが、お屋形様と同世代は比較的緩く見える事でしょう。見えるだけですが。それが賑やかに感じられたのだと思いますよ」
「と言うと?」
「信豊殿はああ見えて鋭いし頭も回ります。喜兵衛殿は信豊殿と話をしながら自分の策に見落としがないかを確認しているのです。ただの言い合いに見えるでしょう?」
信忠はこの戦で、勝頼がいないのに逞しい軍に驚いている。その秘密はどこにあるのだろう?
「殿。軍議が始まります。こちらへおいでください」
丹羽長秀が信忠を呼んだ。徳は信平に軍議を聞いておくように指示し、幸村を連れてどこかへ消えて行った。
夜襲の結果は織田・武田連合軍 死傷者五百名。蒲生軍 死傷者百五十名だった。山間の蒲生軍は全滅した。
氏郷は戻ってきた兵から詳細を聞き、丹波、丹後、甲賀の兵を集めた。皆、爆発から逃げてきた者ばかりだ。
「敵の兵器は大砲と呼ばれる焙烙玉と判明した。射程距離は鉄砲よりも長いし威力も段違いだ。だが、連発できるものではない。また近づけば撃てない。つまり、戦のやりようはあると言う事だ。今晩、敵に夜襲を仕掛けた。奇襲をかけ敵の鉄砲隊を壊滅させた。明日の戦では鉄砲は素人が撃ってくるにすぎん。敵とてえ同じ人間、何も怖いことなどない。明日、我らは決戦を仕掛ける。皆の大将は既にこの世にいまい。仇を討つ絶好機である。皆には不本意ではあろうが、この氏郷の配下を付けるので従っていただきたい。明日は敵を必ずや打ち破る。決行は三刻後、それまで十分に休むがよい」
氏政は話しながら皆の顔色を見ていた。不安げだったのがやる気が出てきたように見えた。武藤喜兵衛、明日泣くのはお前だ!




