真田幸村
影猫の話を聞いた武藤喜兵衛は丹羽長秀、源三郎を連れて本陣へ報告へ行きました。前衛には夜襲を警戒して矢沢を残しています。本陣ではイライラする織田信忠と、ニコニコの武田信豊が待っていました。喜兵衛は、はて?何であんなに笑顔なのかと思いつつ
「殿。忍びからの報告です。徳様の攻撃で明智左馬助は死亡、応援の軍は足止めをされているそうです。応援の軍は来ません」
それを聞いた織田信忠は、前のめりになり
「誠か!では滝川は助かったのだな」
「はい。報告では松坂城を攻める前にこちらへ向かったようなのでご無事でしょう。で、殿。知っておったのですか?」
「いや、知らんぞ。始めて聞いた。さすがは徳ちゃんだがどうやったのだ?海にいたはずなのだが?」
「空からだそうです。詳細はその内にご本人が現れるでしょうからその時にでも詳しくお聞き下され。で、そうだとしたら何でそんなに笑顔なのです?」
「うん?別に、そんな事はないと思うぞ」
「殿。もしや、チーム戊の連中にお会いになられましたか?」
「おう、あの魔神ゴーとかいうのが気に入っての。あいつらを清洲に置いてくれぬか?楽しそうだ」
「却下です」
「お前、俺の部下だろう。いつもいつもあれもダメこれもダメと、小姑かお前は」
「部下だからこそです。それにあいつらはそれがしの部下です。それはつまり殿の部下です。それでいいではありませんか」
「そ、それがだな。あの中に一人、いや、今は戦が先だ。喜兵衛、徳様が来られる前に蒲生を倒すぞ。軍議だ!」
信忠はホッとしていて気が抜けたようで、この漫才を聞いていませんでした。滝川を助けに行く戦なのになかなか前に進めない状況にイライラしていたのですが、危険が去ったと聞いてしばらくどこかへいっていたようです。信豊の軍議だ!の声で我に帰り、いきなり叫びます。
「長秀!忠三郎の首を持って参れ。あいつは許さん!」
「殿。承知つかまつりました。武藤殿、あいつは手強い。応援が来ないとはいえ簡単には崩れまい。こちらの補給も切れているし」
丹羽長秀は百戦錬磨。こういった状況でも冷静です。織田・武田軍は退路を断たれています。それは補給が途切れている事を意味しているのです。
「兵の食料はあと2日、保存食を使ってもこの兵の数では3日というところでしょう。海が落ち着けば船で運んで来れますがまだ煙が残っているようです。明日、決着をつけましょう。そうでないと徳様が来てしまいます」
「もう来てるだわさ!」
徳の甲高い声が本陣に響き渡ります。武田信平、井伊直政、武藤源二郎改め真田幸村も一緒です。皆が驚く中、
「あたいは何もしない。お手並み拝見だわさ。信豊殿、敵の応援は気にしなくていいわ。もうすぐ菅原殿が追いついてやっつけちゃうから。ここに集中してくださいな。信忠殿、滝川殿も菅原殿を追いかけて来てますから生きてれば会えるでしょう」
信豊は、
「ねえ、徳ちゃん。何したの?どうやったの?」
信忠は、
「徳様というのは本当に戦力なのか?」
源三郎は、
「あれ?何で源二郎がいるの?」
喜兵衛は、
「お師匠様。さすがでございます。明日は見ていていただければ大丈夫です。この喜兵衛、全勢力を持って敵を討ち果たしますぞ!」
信平は、
「私もいるのだが、蚊帳の外か!」
一同、信平がいるのに気付き、慌てて信豊が
「信平殿。一皮向けた顔をしている。いい経験をしたのだな」
「信豊殿。はい、船で聞いたお言葉を噛み締めここまでやって参りました」
信平は信豊の目を真っ直ぐに見つめます。迷いは吹っ切れたようです。信平は、織田信忠に、
「織田信忠殿とお見受けいたします。武田信平にございます」
「お初にお目にかかる。織田信忠だ。勝頼殿はいいお子をお持ちのようだ。何をしにとは聞くまい。この戦、しかと見ていかれると良い」
「徳様と一緒に拝見いたします」
信平と織田軍の顔合わせが終わると、ここだとばかりに源二郎こと幸村が、
「父上、徳様に名を変えるよう申しつかりましたのですが、武藤を捨てて真田に戻れと。しかも徳様の下に付くようにとの事。断って………、」
「なんと。徳様、不出来な愚息でございますは何卒よろしくお願いいたします。源二郎、励めよ」
「喜兵衛殿。源二郎は名を変えたのです。真田幸村と」
その名を聞いた時に、喜兵衛の頭の中に何かが浮かんだ。どこかで聞いたような気がしたのだ。だが思い出せず、
「そうでしたか。幸村、しかと勤めよ!」
「父上、それでよろしいのですか?」
源二郎じゃない幸村は泣きそうです。喜兵衛は、
「何か不満でもあるのか?ところで徳様、どうやってここに?」
「徳徳秘密だわさ!」
武田勢は固まります。織田勢は何それ?という顔をしています。
「わかりました。それでは本陣にいてください。げじゃない幸村。徳様をしかとお護りしろ」
幸村はもうどうにでもなれと思いつつ、それならばそれでやるしかないと気持ちを前向きに切り替えます。地面に足がついているので気持ちも落ち着いてきました。
徳が着陸するところは、この戦を見届けるために派遣された秀吉の忍び、飛龍が見ていました。飛龍は双子の兄弟、地龍とともにこの戦を見ています。秀吉は武田がまた変な武器を使う筈だと考えて情報収集を欠かさないようにしているのです。いつかぶつかる時のために。




