空からこんにちは
明智左馬助は滝川の城を一つ一つ落としていきました。焦って滝川一益のいる松坂城を落としてしまっては、せっかく出てきた織田信忠が帰ってしまいます。美濃を攻めればいいのですが、明智十兵衛光秀が故郷の美濃はできれば攻めたくないと言うのです。せっかく向こうから出てきてくれるのだからそこで殺せばいいというので、この作戦を取りました。ですが、蒲生氏郷の言う通り面白くはありません。数の暴力で城を落としているだけなのです。戦というより蹂躙でした。
その蒲生が泣きを入れてきました。自分だけで信忠を倒すとか言っていたくせにです。左馬助は、
「ほれ見たことか、偉そうに俺に任せろとか言いおってからに」
と上機嫌です。左馬助とともに進軍していた筒井定次は冷静に
「当初の思惑通りになっただけではないですか?急ぎ戻りましょう」
と自軍に戻って行きました。左馬助から見るとこの筒井定次はつまらない男です。筒井家の家老だった島左近はすでに浪人となっていていません。とはいえ大和一国を治めているのですからその勢力は侮れません。
「まあいい。筒井の言う通り戻る事にするか。あの信忠の首は目の前ではねてやりたいものだ。あの時の屈辱、忘れはせん」
突然ユーターンして引き上げていった明智軍の情報は、滝川一益に伝わるのが遅れました。左馬助は引き上げる際、滝川に情報が漏れないよう忍びを配置して連絡されないようにしていたのです。そのため、滝川は左馬助の後を追う事が出来ませんでした。
志摩に上陸した菅原隆則は母艦を返し、兵一万と共に一気に北上を始めています。松坂城を目指して山道を進んでいます。
「間にあわせねば。ここにきた意味がなくなるぞ!」
翌日、先兵のみですが松坂城に辿り着きました。菅原を筆頭に後続を気にせずに走り続けたのです。到着して辺りを見渡しましたが敵の影すらありません。旗印を掲げて立っていると、城門が開きました。中から50人程の人が出てきました。明らかに将に見える人がいます。菅原は前に出ました。
「武田信豊様の命により参上仕りました、菅原隆則と申す。滝川一益様にお目にかかりたい」
「そなたが菅原殿でござるか。わしが滝川一益じゃ。よくぞここまで辿り着いてくれた。礼を申す」
「滝川様。お初にお目にかかります。敵兵は何処に?」
話していると続々と兵が追いついてくる。取り敢えず危険はなさそうだと思い、菅原は兵を休ませることにした。そして自らは城に入り情報収集だ。
「明智軍はどこですか?」
「それが牛のように遅くなかなか攻めてこない。城を一つ一つゆっくりと落としてこちらに向かっていたはずなのだが、物見によると姿を消したようなのだ。その前に出した物見は帰ってこなかったしどうもおかしい」
菅原は話を聞いて閃きました。これは危ない、急がねば!
「滝川様、すぐに出陣の準備を!」
「菅原殿。どういう事だ?」
「明智軍はここには来ません。敵の狙いは織田様です。ごめん!」
菅原は外に出て、再び兵を煽り走り出しました。間にあわないかもしれない、だが行かねばならぬ。
明智左馬助は兵二万を連れて急ぎ足で桑名へ向かっています。丁度海山道の辺りまで来たところで蒲生氏郷の伝令が到着しました。
「申し上げます。織田・武田軍は人馬入り乱れ配置換えをしており、明智様の到着前に仕掛けてくる様子。お急ぎくださいとの事でございます」
「あいわかった。氏郷殿には明日には合流できると伝えよ」
我らが戻った事を知っているのか。かなり早く戻ったはずだが、優秀な忍びがいるようだ。左馬助は兵を少し休ませて食事を取らせる事にした。どうせ合流できるのは明日だ、敵にばれているなら焦る事はない。直ぐに戦に入れるよう休息も大事だと考えての事でした。
半刻ほどの休息の後、再び進軍を始めました。敵は二万、こちらは合流すれば四万にはなるでしょう。兵も牛歩作戦に飽きています。鬱憤を晴らすのに丁度いい戦です。その明智軍の移動の様子を空から見ている者がいました。
「源二郎、いつまで怖がっている?情けないぞ!」
信平は笑いながら怯えている武藤源二郎に話しかけます。
「信平様は怖くはないのですか?だってあんなに人が小さく見えるのですよ。あっ、敵です。明智軍です」
井伊直政の興味は敵よりこの乗り物です。
「殿。これはなかなかいい物です。さすがは徳徳秘密。ですが、よろしかったのですか?飛んではいけないと伺いましたが?」
「父上に飛ぶなと言われてはおったが、それは甲斐紫電の事であろう。これは構わんよ。さて、敵はのんびり進んでいるな」
「殿。のんびりに見えるだけです。結構急いで移動してますぞ」
「そうか。直政、お前はムカつくが頭は切れる。お前を貰えて良かったよ」
「それは褒めているので?」
「もちろんだ」
茶番劇?源二郎には余裕がありません。何をふざけていらっしゃる。帰りたい、今すぐ戻りたい」
「信平様。早く戻りましょう。ここは私には厳しいです」
源二郎は高所恐怖症だったのだ。




