膠着打破
桑名では小競り合いが続いていました。蒲生氏郷の軍が海からの煙のお陰で攻め時を逃し、織田・武田連合軍も焦る信忠を武藤喜兵衛が抑え膠着状態です。長良川の橋を落とした蒲生軍に対し、織田軍は膠着状態を利用して橋を架けようとしました。このままだと退路がありません。それをどこからか山伏が現れて邪魔をするのです。
「しゃらくさい、どこから現れるのだ、あの山伏は?」
橋の工事を提案したのは武藤喜兵衛の嫡男、源三郎でした。提案した手前、何とか成功させたいのですがある程度工事が進むと山伏が壊していきます。膠着状態とはいえここに兵を割く余裕はありません。源三郎は困って武藤喜兵衛に相談します。
「父上、佐助を使ってあの山伏の居場所を探れませんか?こっちから仕掛けてやりたいのです」
「お前が提案して殿が了承したから何も言わなんだが、橋は今作る必要はないぞ。兵が何かしてないと落ち着かないと思って許可してるだけだと思え」
「父上、退路は不要と仰るのですか?」
「そうだ。退路を気にして勝てるほど戦は甘くはない」
「ですが、信玄公ですら一度退却し、それから立て直した事もあると聞きます。万が一を考えるべきです」
「それはそうだ。だが、お前のような若い者がそんな気弱でどうするのだ。若い者は失敗を繰り返して強くなる。失敗の経験が必要なのだ。だが、山伏の居場所を探るのはいい案だ。蒲生は土地の利を利用してあちこちから仕掛けてくるだろう。山伏もその一つだ」
「膠着状態が解ける前に敵の拠点を一つづつ潰していったらどうでしょう?」
「良いだろう。お前に佐助と兵200を預ける。任せたぞ、橋は放っておけ。どうせまた壊されるだけだ」
源三郎が下がったあと、喜兵衛は
「山伏を炙り出したのだから橋を作ったのは結果的には正解だった。だが、そういった事を考えるのは重臣だ。源三郎は賢すぎるのかもしれんな」
そう呟いて、源二郎を思った。あいつは今どうしておるのか?
翌日から、源三郎は山伏の拠点を攻撃し始めた。いきなり桜花散撃を撃ち込まれ、逃げるところを滅多斬りだ。そして、徐々に山間の奥の方へ入っていき、ゲリラ戦を仕掛けようとしていた敵兵を見つけては無効化していった。これで側面からの奇襲はほぼ無くなったと見てもいいだろう。
得意顔で本陣に戻った源三郎だったが、場の雰囲気が重苦しい事に気付いて気を引き締める。一体何があったのか?
「父上、山間にあった敵の拠点を潰して参りました。何かあったのですか?」
「そうか、よくやった。蒲生めがなりふり構わない策を取りおった」
牛歩で松坂を目指していたはずの明智本隊が蒲生軍に合流するために向かっているというのだ。そうなると敵兵の数は3万強に膨れ上がる。甲賀の支援も考えるともっと増えるかもしれないのだ。
丹羽長秀は、若い頃の蒲生氏郷を思い出しながら、
「忠三郎はそういう男であった。意地を大事にはするが、大局観を見失わない。立てた策を武藤殿にことごとく潰されて違う手を打ったのであろう」
武田信豊はそれを聞いて黙っている。武藤喜兵衛は、
「手強い相手ですな。では、軍議を行いまする。敵は明日には全軍が合流するでしょう。今までの牛歩が嘘のように速度を上げて進んできております。敵はおそらくは四万近く、我らは二万です。すでに菅原殿の兵一万が志摩から向かってきておりますが明日には到底間に合いません」
それを聞いた織田信忠は、
「丹羽、滝川に敵の背後を追うように伝えよ!」
「殿。今からでは間に合いません」
「それでも構わん。牽制にはなる!」
伝令が滝川に届く頃には戦は終わっているかもしれません。ですが、手は多い方がいいのです。万が一が起きるのが戦です。喜兵衛は信忠に感心しつつ、
「我らは敵を抑えて援軍が届くのを待つか、戦を避けて退却するかの選択を迫られております」
信忠は強く言い放ちます。
「退却はあり得ん。ここで戦って勝つ、それだけだ」
それを聞いた武田信豊はパッと目を開き
「その言葉を待っておった。喜兵衛、大砲隊、中砲隊、それと特殊部隊ゼットを使った撹乱戦を仕掛よ。まともに戦っては数で負ける。ならばまともに戦わなければいい。誰だっけ?これ誰かの受け売りなんだが」
「殿、誰でもいいではありませんか。源三郎、よく見ておけ。これが武田の戦だ。お前には大砲隊を指揮してもらう、良いな!」
陣営が騒がしくなります。配置換えもろもろで人馬が動き始めました。源三郎は前衛に佐々隊の生き残りを配置し、その後ろに大砲隊、中砲隊を並べました。遠方の敵に大砲を打ち込み、進んできた敵に中砲を打ち込む作戦です。
「佐久間殿、お願い致す」
源三郎が声をかけたのは佐々成政の義理の子、佐久間勝之です。佐久間は佐々成政の娘婿にあたり、この戦では佐々隊に配属されていました。成政は行方不明のままですが、あの海の火事は成政が何かをしたと皆が思っています。そして生きてはいないだろうとも。佐久間勝之は、信忠から佐々隊を引き継ぐように言われ父の仇を取るべく前衛に名乗り出たのです。
「武藤殿、我らはこの大砲とやらを使えません。指揮はお任せします。この戦、我らにとっては父の弔い合戦でござる。負ける訳にはいき申さぬ」
「わかりました。合図を決めましょう」
織田・武田陣営が戦の準備を始める中、蒲生氏郷は物見の報告で山間の拠点が全て潰された事を聞いてすぐさま甲賀に追加支援を依頼しました。山を走れば戦には間に合う距離です。
「武藤喜兵衛とやら、手強い相手だ。だが、数には勝てまい」
氏郷は明智左馬助に方向転換を依頼しました。非常手段です。元々、明智軍が牛歩で進んでいたのはこの方向転換を考慮していたからなのですが、氏郷が俺に任せろと言って強気に出ていたのです。ところが策がことごとくうまくいきませんでした。だが負ける訳にはいきません。織田を裏切って明智についた以上、織田信忠の首を取るしかないのです。




