戦闘開始、進めよさっさ
織田、武田連合軍は清洲を出て海沿いに進路を取りました。伊勢への最短コースを行こうとしています。先鋒の佐々成政隊は急いでいます。とにかく急げと共に進んでいる丹羽長秀隊がついてこれないのも気にせずに進んでいきます。流石に先行しすぎたかと木曾川を渡ったところで部隊に小休止をさせて物見を出しました。
このまま桑名へ向かって進もうとしていましたが、物見からこの先の長良川を渡ったところに明智軍が待ち構えているとの報告がありました。敵の数は三千、こちらは千名と分が悪いです。
織田、武田連合軍の動きは当然敵にも見張られています。
「織田軍が動き始めました。先鋒隊がかなりの速さで桑名へ向かってきております」
報告を聞いているのは蒲生氏郷です。
「どうだ、焦っておるか?」
「佐々成政の軍ですが他の隊がついてこれないのも気にせず突っ走っているようです」
そうか。信忠の性格からして自らが突っ込んできそうなものだが、佐々殿を使うか。いや、そうではないな、焦っている信忠を佐々殿が抑えて自らが突っ込んできたという事かもしれん。信長公なら悩まずに単騎でも駆け抜けてきそうなところだがそうもいくまい。氏郷にとってはこの戦は信忠の首を取るのが目的です。滝川などどうでもいい、ただの餌です。餌に食いついてさえくれれば後は倒すだけです。
「なんとか信忠を引きづり出さねばならぬ。よいか、伝令を飛ばせ!」
流石の佐々成政も長良川を渡るのは躊躇しています。川の向こうには三千もの敵が待っているのです。そうこうしているうちに丹羽長秀隊が追いついてきました。
「成政、ご苦労である。ここからは急がなくてもよかろう」
「敵はどう出るでしょうか?」
「下がる、と武藤殿は言っておった。そうなるか見ていようではないか」
兵の数が織田の方が増えてきました。それを見た蒲生の軍は下がりはじめました。氏郷の指示で時機を見て下がるように伝令が来ていたのです。蒲生兵はどんどん下がっていきました。
それを見た丹羽長秀は、
「では進もう。長良川を渡ったら再び頼むぞ成政」
「武藤殿のいう通りになっていくな。知ってはおったがすごい御仁だ」
「ここまでならわしでも読める。問題はここからだ。戦を早く終わらせたい織田と長引かせたい蒲生。蒲生の狙いは我が殿のはず。さて忠三郎め、どう出るか?」
丹羽長秀は蒲生氏郷をよく知っています。逆に武藤喜兵衛は話には聞くもののどこまでが本当なのかはわかりません。丹羽は現実派なので噂をあてにはしないのです。長良川を渡ったところで後発隊が追いついてきました。丹羽長秀のところへ伝令が来ます。伝令は源三郎でした。
「丹羽様、武藤喜兵衛からの伝言です。そのまま進まれたし、です」
「あいわかった。作戦通りだな、殿をお願いすると伝えてくれ」
「承知!」
源三郎は後方へ戻って行きました。丹羽長秀は佐々成政に、同じように突っ走る指示を出します。蒲生には伝令が来て焦って進み出したように見えるでしょう。見張られている事は承知の上です。
蒲生氏郷は最初、桑名城を拠点に長良川で敵を待ち構えようと考えました。ですがそれだと狙いの織田信忠が川を渡って来ないかもしれません。戦には勝ててもそれでは意味がないのです。仕方なく兵を引かせ、大矢知に兵1万を配置します。
氏郷の城である日野城は甲賀が近く、甲賀武士との付き合いもあります。氏郷は山間のあちこちに甲賀の者を配置して奇襲を狙っています。それだけではありません。臨機応変に仕掛けられるよう手配済みです。
源三郎は織田信忠、武田信豊のところへ戻りました。父、武藤喜兵衛はなぜかいません。
「丹羽様のところへ行ってまいりました。作戦通り蒲生軍は下がり、自軍は長良川を渡りきりました。これからまた佐々様が走り出します」
「わかった。我らも川を渡るとしよう。信忠殿、敵の狙いはそなただ。囮になってもらわねばならん」
「信豊殿、この作戦に承知はしましたが囮になるくらいなら自らが前線に出て戦いたいというのが本音です」
「気持ちはわかります。それがしもそういうタイプですからな」
「タイプとは何ですか?」
「おお、失礼仕った。異国の言葉でな、種別とか分類、ん?違うな。仲間でござるな、つまり俺でもそう考えるという事です。ですが、戦には策が必要。ここは武田に従っていただきます。そういえばお松殿は達者ですか?」
信豊は得意の話術で話題をすり替えた。信忠には言うことを聞いて貰わねばいけないのです。位置的には織田は武田の下、信豊の与力扱いですがなんだかんだ言っても織田家の当主、結構我が強い。昔天下人の階段を登っていたと言うプライドが残っています。
信豊が話を出したお松。武田信玄の娘で勝頼の異母妹です。勝頼が信忠との縁を強くするために嫁がせました。信豊はお松の従兄弟にあたりお松が超美少女の頃から知っています。
お松の話をされた信豊は顔から緊張感が抜けます。
「ま、松は達者です」
デレデレじゃん!




