勝頼とキリシタン
勝頼は以前、宣教師に会った事があります。元々は信長に取り入って珍しい舶来品をお土産にキリスト教の布教を頼んでいた連中です。各地に侵入した宣教師はキリスト教を広めていきました。ですがそれには領主の許可がいります。突然入ってきた異国人は目立ちますのでこっそりとはいきません。信長は神仏を恐れる、信じる事はしませんでしたが、利用価値があるとして宣教師との関係を継続していました。信長の調査では宣教師は軍議金を隠していて、いずれ日本を乗っ取る気であろうという事をわかっていながら利用する方を選んだのです。
信長の死後、宣教師は権力者である勝頼にも接触してきたのです。勝頼はそれ以前に三雄にキリスト教について聞いていました。
「なぜかはわからんが人間は拠り所を求める。何かに頼りたくなるんだ。俺の時代では依存というのだが、何かしら人は依存している。それが宗教という人も一定数いる。宗教にも色々あって、そっちの日本だと八百の神がいてそれぞれ土地神がいたり祭りがあったりするだろう。ところがキリスト教は神様は一人なんだ」
「一人で全てを見ているのですか?」
「面白いな勝頼は。そういう事になる。世界にはイスラム教やヒンズー教、その他にも沢山の宗派があって、それぞれに神様がいる。だいたい神様が一人のところが多いかな。そしてその宗教間、もしくは宗派間で戦争が起こる」
「どっちの神が強いか競うのですか?」
「神様が強い方が勝つわけではないから無意味なんだけどな。戦うのは人間だから武器がいいとか人数が多いとか様々な要因で勝敗は決まる。そもそも神様っていないし。ただ、神様は争いの種になる。それを利用して権力者が戦を起こすこともある。ただな、人間と宗教は切り離せないんだ。俺の時代の日本人は多くの人が無宗教と言いながら墓参りはするしクリスマスも楽しむ。お盆休みは休むくせに墓にはいかない人も多い。そして政治家は票が欲しくて宗教団体とつるむ。おっと悪い悪い、言いたい事はそれじゃなかった。世界で一番長く続いている商売ってなんだと思う?」
「話の流れからすると宗教ですが、商売なのですか?」
「そうだ。もう2000年以上も続いている。民は神に向かって、正確には神ではなくその間に入る信仰者に金や食料を寄付する。寄付すれば神に認めてもらえると思い込んでしまい、寄付を続ける。身の丈にあった寄付ならいいが、中には生活を崩してまで神に尽くすという寄付に勤しむ」
「なぜそのような?」
「安心したいんだよ。苦しいことや悲しいことがたくさんある中で、自分が救われた気になるんだろうな。結果が出れば神様に奉仕したから、結果が悪ければ神様への奉仕が足りなかった、まあ本人がそれで良ければ問題はないんだけど、俺の時代だと家族が犠牲になったり色々あるよ。信玄も寺に寄進とかするだろう?」
「はい。父上は寺への寄進は惜しみませんでした。それがしも諏訪大社の大祝を勤めた事もあり、寄進は惜しみません」
「なんで寄進するんだ?」
「それは感謝だと思っています。飢饉や洪水が起きず、農民が食物を育て、それが年貢となり領地が豊かになるのです。それと、」
「なんだ?」
「民からの信頼向上でしょうか。土地の寺への寄進は民への寄進だと思っています。その土地にお金を返すというか。戦や有事には民の助けが必要です。民の信頼無くして政治は成り立ちません」
三雄はそれを聞いて頷いています。
「そうだろうな。宗教は民をまとめる力があるんだ。それとキリスト教は死んでも復活するという教えがあるんだ。神を信じて神の教えを守れば死後、平和な世界で復活できる」
「人は死んだら終わりです」
「俺もそう思う。信玄は金の力で顕如を使い一向一揆を起こした。本願寺、紀伊の雑賀衆や多くの神を信じる者達は信仰のためならと死を恐れないで戦った。それで徳川家康も上杉謙信も相当に苦労したはずだ。死んでも復活はしない、信仰を守るためならと死んでいった。ところがキリスト教は死んでも復活する、死ぬ事が怖くない、平和な国で復活できると信じた兵は………」
「恐ろしく強い」
「元々宗教の多くは争いを禁じている。勉強した事があるのだが、宗教の教えは誓約をさせて正しい事をしろと言っているものが多い。宗教が悪いわけではなく利用する人間が悪いのだと俺は思う。俺も最近はまっているアイドルがいてお布施と言ってグッズを買っている。悪い事をしてそのアイドルのファンだからと叩かれたりして彼女らに迷惑をかけたくないから生活が正しくなる。一種の宗教だと思っている」
「後半の話が全くわからないのですが………」
「すまん、脱線した。一向一揆よりもキリシタン兵の方が手強いということだ。それは覚えておけ」
勝頼はキリシタンをどうするかはまだ決めかねていました。ただ、敵に一方的に利用されるのは不利になります。
喜兵衛の文にはキリシタンを明智十兵衛が利用してきた。キリシタンの軍資金を使って朝廷を買収していると書いてありました。十兵衛で良かった、秀吉じゃなくてと思いながら喜兵衛への手紙を書き始めました。




