伊勢湾へ
そして信平は、井伊直政に岡崎城を案内してもらい、特殊部隊ゼットのチーム丙の訓練も見学させてもらいました。チーム丙は小田原攻めでリーダーの弾以外は生き残れませんでした。その弾も風魔の毒手裏剣を受け、命は助かったものの戦場に戻るのは無理と判断され、後輩の育成に専念しています。弾と直政は顔なじみのようでした。戦友のような会話をしています。
「弾、あの時はすまなかった。俺がもっと上手にできていれば」
「何を言いますか?井伊様があそこまで敵を防いでくれたからうちのメンバーが飛び立てたのです。チーム丙は立派に成果を上げることができました。これも井伊様のおかげですよ」
「そう言ってもらえると助かる。それで新しい奴らはどうだ?」
「まだまだです。とても実戦には使えません。今はチーム丁の連中が東海エリアのメインチームですよ。甲と乙はお屋形様に付いてますし」
信平はその会話を聞いていて井伊直政が気に入ってきました。武藤喜兵衛の目は節穴ではありません。忠勝の代わりに紹介してきたという事はそれだけの男という事です。年も若く信平にとって適任なのかもしれません。と考えていると、そこに突然真田忍びの佐助が現れました。横にいた武藤喜兵衛は驚いて
「佐助ではないか?源三郎と岐阜城にいたのでは?何かあったのか?」
「織田と明智の戦が始まります。源三郎様から船を伊勢湾にとの事でございます」
そうか、始まるのか!と、喜兵衛が考え始めた時、その横では徳が馬に乗って駆け出していました。こういう時の徳の速さは忍び以上なのです。
「おおっと、佐助、半兵衛殿に言って徳様を抑えるように。って無理か。仕方がない、すぐに追うぞ!」
「出番だわさーーーーーー!」
徳は叫びながら一気に海辺まで馬で走り、小舟に乗り込みます。目指すは沖に停泊している戦艦駿河マークIIです。今回は楓と新型の母艦を連れてきています。母艦は試運転も兼ねています。
「さっさと出港だわさ!」
「徳様、先程伝令が来て信平様も連れて行くようにとの事でした」
「伝令?あたいは結構な速さで来たよ、誰よ、それ」
と、隠れていたのでしょうか。後ろから声をかけられました。
「徳ちゃん、久しぶり!」
「何してんのさ、ここで?」
伝令と言って船に先に乗り込んでいたのは武田信豊でした。信豊は徳の作る武器が大好きなのです。新しい物好きで自分で使いたがる子供のような性格をしています。信豊は勝頼の従兄弟で普段はこういった砕けた感じで話します。
「与助という忍びから連絡があって、駆逐艦椿に乗ってきたんだ。欅は先に伊勢湾に偵察に行かせた。源三郎が言うには何か武田海軍に対する備えがあるはずだってさ。俺もそう思う、十兵衛に会った事はないがバカではあそこまで成り上がれない」
「そう、なら欅の報告を聞いてからの方がいいわね。さっさと撃ちまくりたいけど仕方ない。信平殿と半兵衛殿が来てからにしますか」
「喜兵衛は?」
「多分岐阜城に行くと思う。ところで信豊殿はここにいていいの?」
「ここのところ出番がなくてさ、うずうずしてたんだよ。そしたら徳ちゃん来るって言うからさ。俺もね、喜兵衛に教科書習ってんだ。まだまだだけど、これからの戦術に生きると思ってる。ところであの大きな船は何なの?変わってるけど」
「母艦よ、出番がないといいけどもしかしたら連れてきてよかったのかも。十兵衛か、嫌なやつなのよね、生理的に合わないわ。きっと嫌な事してくるよ」
「話に聞いた戦闘空母とは違うの?」
「戦闘空母っていうと朝霧の事ね。あれは今改造中。あのままでは使えない、というか小田原城専用みたいにしちゃってたからね。今度のは母艦よ母艦」
母艦って何だろう?信豊が考えながら待っていると竹中半兵衛が信平を連れてきました。武藤喜兵衛はいません。
「信豊殿ですね。信平です」
「大きくなられた。お屋形様に雰囲気が似ておる。養子に出られると聞きました」
「はい。兄上を支えていきたいと考えております」
信豊は気がついた。そう言いながらもどこかひっかかっているようだ。
「一枚岩という言葉をご存知か?」
信平は驚いて信豊を見た。信豊は続けた。
「生まれ持った物は変えられない。そして人は1人では生きられない。信平殿、貴殿を支えてくれている人がたくさんいることを忘れないように」
その時徳が戻ってきた。
「信平殿が追いついたから出発よ。まずは欅と合流ね。あれ、どうかした?」
「何でもないよ、信平殿がお屋形様に雰囲気が似ているという話をしていたところです。で、徳ちゃん。例の中砲みたいな新兵器は積んでないの?」
「信豊殿、あれはもう古いだわさ。小田原城の話聞いてないの?」
「喜兵衛が例のやつで城を燃やして、徳ちゃんが海からなんかやったとしか聞いてない。そのなんかってのを見たくてここにきてるのさ!」
「見れるかどうかなあ、今回は大した事ないよ。秀吉と戦う頃にはすごいのが完成してるとは思うけど」
徳の大した事ないは多分大したことある。徳のすごいのは相当すごい、信豊は期待で震えていました。そして船は伊勢湾へ向かいます。




